一口馬主はいいぞ日記
これまでのあらすじ
2019年8月:出資(のちに「ベルンハルト」と命名される)
2020年5月:デビュー前に左脚を故障。患部を縫合。
2020年6月:右脚も故障
2020年7月:ノド鳴りが判明。2度の手術へ。
2021年1月:デビュー戦。後方からのマクリで2着。団野騎手うまく乗った。
2021年2月:レース中盤ペースが上がったところについていけず7着。
2021年3月:再び脚を悪くし、当面外厩で様子見へ…
作家の菊池寛が「樂しみを覺える割合ひに較べれば、心配や憂鬱を味はふ時の方が多い。馬を持つてゐることの樂しみが二、三割だとすれば、心配や憂鬱の率は、まづ七、八割にも及ぶであらう。それも、大部分は馬の故障から来るのだ」と書いたの、わかりみがある。
『無事是名馬』とはよく言ったもので、出資して初めてわかる馬の健康の重要性。馬主ってきっと勝つことも嬉しいんだろうけど(勝ったことない)、自分の馬がレースに出ることが何より嬉しいんですね。
同期のシルクの馬にも故障で全然出走できていない馬もいる中、まがりなりにもベルンハルトはデビューできて、しかも入着してくれたのはありがたい。
しかしそのベルンハルト、脚の調子が思わしくないことから運動負荷を下げて慎重に調整が進められ、5月にはなんと馬体重545kgを計上。えっ?最後に出走した2月の馬体重492kgですよ。+53kgじゃん。そんなブクブク太っていいのは引退してタンポポ食って過ごしてるグラスワンダーくらいであって、現役の競走馬がこれはとても心配。
なにせ、3歳の未勝利戦は9月には終わってしまう。あと4か月しかないんですよ。
それでも何とか7月11日の函館の未勝利戦で復帰。パドックで解説の人に「う~ん、まだ絞り切れてないのか、太く見えますね」とか言われ、素人目に見てもちょっとダルンダルンの体に見えるが大丈夫か……?
大丈夫じゃなかった。14着。
スタートの時点で出遅れて、流れについていけずズルズルと下げて後方から2番手を追走。外に出しても交わせるわけでもないので、水口騎手は最内の経済コースをとってスタミナを節約するも、直線でも全く伸びず14着でフィニッシュ。
弱い馬を注視するようになって、わかったことがあるんですよ。
競馬の脚質って逃げ・先行の勝率が6割で、差し・追い込みが4割なんですけど、そもそもレースのスピードについていけないと逃げ・先行は「採ることのできない」戦法なんですね。
逃げ・先行はすべての馬がレースに参加しているが、差し・追い込みはレースに参加している馬と参加できていない馬がいる。これが脚質別で勝率に差がつく理由なんだなぁと、レースについていけてない愛馬を見て思うのでした。
ちなみにJRAは公式HPの「レース結果」から未勝利戦も含めた全レースの映像をネットで公開してくれているので、今でも見ることができるのめっちゃ良い。
そして次走は8月1日の引き続き函館開催なんですが、レースのスピードについていけない展開が続いたので、スピードの出ないダートへの転向となりました。
それにしてもダートは層が薄いとはいえ、あとタイムリミットまであと2か月での転向って大丈夫なのか?
大丈夫じゃなかった。11着。
相変わらず先行勢にとりつくことができず、後方集団で何とか追走するという見慣れた展開。前が残りやすいダートでこれは厳しい。位置取り的には差し~追い込みなんですけど、「脚を溜めている」ではなく、「集団の流れに何とかついていっている」という表現が正しい。
一口馬主をコンテンツとして捉えたとき、レース後に送られてくる調教師のコメントって楽しみのかなりの比率を占めてる気がするんですよね。
愛馬の走りに対して、プロはどう思ってるのか、何が問題だったのか、改善のためにどうするのかそういった現場の生声が聞けるのはマジで一口馬主固有の特典。勝てなくても儲からなくても、これを読むためだけに一口馬主を続ける価値はある。これがあるとないとでリアルダビスタ感は全く違うと思いますよ。どこか遠くで馬が走っているだけではなく、言葉があるだけでそこにはリアリティがあるんですよ。
ベルンハルトに関して言えば、かねがね池江調教師も位置取りが後ろになってしまうのも問題ととらえていたようで、西谷騎手には先行策を指示をしていたようですが、馬の行き脚がつかなければどうしようもない。とにかく「ズブい」。かつて宝塚記念を勝ったヒシミラクルも道中から騎手が押しまくらないと動かないズブい馬でしたが、タイプ的にはヒシミラクル系のズブさがあるようで、もしかしたら和田さんに乗ってもらうことができれば違う道が見えたのかもしれないな、と思ったのが次のレース。
8月28日の札幌第4レースダート1700M。これがもっともベルンハルト「らしさ」を見せたレースとなりました。
またしてもスタート直後は出遅れて後方集団で追走する展開に。「またか…」見ててため息をつきそうになるも、泉谷騎手が中盤からグイグイ押してポジションを上げていくと、直線でも鋭く伸び、4着入選。
思えば父親のラブリーデイもキレる脚を持っていたわけでもなく、長く脚を使えるタイプ。新馬戦の2着も、レース中盤から早めにマクっていった団野騎手の作戦が功を奏したもの。「ちょっと手を動かしすぎなんじゃないか」と思うくらい無理して上がっていく競馬のほうがベルンハルトには向いていたのかもしれません。
そして9月5日の札幌第3レースダート1700M。
前のレースに入着できたことで出走権を得た、3歳未勝利最終戦がベルンハルトの最終出走レースとなりました。
前レースからの連闘となったこともあり疲れもあったのか珍しく馬体重が大幅減だったのですが、もはや力は使い果たしていたのか、いつものとおり後方からの追走となると、特に見せ場もなくそのままレースを終えました。最後のレースに出れたのは完全にオマケみたいなもんですね。
問題はここから。
未勝利のまま競走成績を終えてしまった競走馬はどうなるのか。成績を残せなかった多くの競走馬は人々の知らぬところで殺処分され、馬肉となっているという話もあります。ベルンハルトも同じ運命をたどるのか。馬は、毎日調教で鍛えられ、望みもしないレースに出走させられ、稼げなくなると殺される。つらい。馬といえど、生きていくのはつらい。
しかし思えば、我々も毎日毎日行きたくもない会社で酷使され、望みもしない労働に従事させられ、稼げなくなれば死ぬしかない。つらい。人間もつらい。生活に対する意思の関与の多寡はあれど、大枠の構造自体は馬も人も変わらない。
ともあれ、行く末が心配だったベルンハルトですが、結果から言うとサラブレッドオークションに出されることになりました。
サラオク、それは現役競走馬をセリに出し、所有者を変えて地方競馬等新たな道を歩ませるための仕組みです。なんでもサラリーマンでもサラオクで競走馬を買って地方競馬でオーナーをやっている人もいるのだとか。なるほど。大富豪ではなかったとしても、一口馬主ではなく、サラオクで競走馬を丸ごと買ってしまいガチ馬主となるという方法もあるのか。
この先どうなるんでしょうね。地方競馬に転籍じゃないかと思いますが。ケガや病気でトレーニングがあまりできずポテンシャルを十分発揮できなかったこと、晩成型のラブリーデイの血を考慮すると伸びしろはありそうだし、ダートでもやれそうなスタミナも見せたことも考えると地方競馬で十分やれそうな気もします。ともあれ競走馬続けられそうで良かった。頑張ってほしい。
ちなみに回収率は結局これくらいでした。月額1000円程度の維持費も勘案すると、回収率一桁っすね。
My達成記録とかいう実績システムみたいなのもあるし、これはクセになる。
ちなみに3歳のベルンハルトが登録抹消となった今、2歳の出資馬はこんな感じなんですけど、この中でコンジャンクションくんかなりいいですよ。デビュー戦は前の馬に進路を塞がれて8着でしたけど、調教のタイムや関係者のコメントを見るに高い能力を感じさせるところがあります。
競馬見る人ならコンジャンクションくん覚えててください。来年のクラシック戦線で名前が出てきてもおかしくないはず。
いや、クラシックどころじゃない。ダービーだ! コンジャンクションくんでダービー取れなきゃこの先ほかの馬でダービーなんてとれるチャンスは訪れねぇ!
前途洋々。自分の人生よりよっぽど期待できる。そう、自分の人生がダメでも馬には期待できる。どうだ、これが一口馬主だ。