当たり判定ゼロ

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「競馬ゲー」としてのウマ娘の良さについて語りたい

ウ、ウマ娘やりすぎて人とウマの区別がつかなくなってきた…
こんにちは。育成がB+で頭打ちになってきたので、今日は「競馬ゲー」として見たウマ娘の話をしたいと思います。
 
育成のことばかり言われますけど、ウマ娘は競馬ゲーという切り口で見ても良くできています。プロスピなんかの野球ゲームがリアルに近いことをウリにするように、競馬ゲーも長らくリアルに近づけることを追求してきましたが、ウマ娘は美少女から走るから関係ない? いやいや、そんなことない。
 
レース演出を見ても競馬ゲーとしてリアルを十分に追求した中で、ゲームとしての演出との兼ね合いがちょうどいい塩梅でできており、競馬ゲーオタクとしても大満足です。野球ゲーを例に言うなら、ウイポプロスピならば、ウマ娘パワプロと表現すると近いかも。育成がパワプロのサクセスに似ているということでなく、「ガワはポップに差し替えているけど、見た目に騙されるなかれ。中身はちゃんとしてるよ」という点でソックリ。
 

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ウマ娘のレース画面で間違いなく意識されているのは、テレビ中継の競馬画面。
府中競馬場の大欅の見せ方とか、中山をはじめとした右回りのコースの第4コーナーで外側をまくって上がっていく馬の見せ方とか、競馬を見てきた人間が数限りなく見てきたであろう、これぞ「競馬中継」というカット。
 
サイレンススズカの脚が止まった大欅の向こう側、ディープインパクト有馬記念で上がってきた第4コーナー、ウマ娘の画面からでも全部重ねて見ることができるようになっている。美少女を見せに来ているだけではなく、プレイヤーに「競馬」を見せに来ているのが伝わってきます。京都競馬場のコーナーの坂もいいぞ。
あと地味に言及しておきたいのが季節。春の阪神競馬場とかキッチリ桜が咲いてて綺麗。天気や季節は基本かもしれないけど大事。
 
それにスピード感。ダビスタウイポなんかの競馬ゲームと遜色ないスピードで、むしろ人が走っているだけにそれらより速くすら見える。人の競争ではなく、ウマの競争を描きたいのだというのがひしひしと伝わってくる。
スピード感からすると、「まず競馬ゲーを作った後に、美少女のガワをかぶせた」ような感覚があります。
 
これに加えて、府中の直線をゴールから見て坂を感じさせたり、カットインを入れたりとゲームならではの演出ができるのが強い。特にカットインは、リアル路線の別ゲームではなし得ない(むしろ不自然になる)表現なので、パワプロ路線のウマ娘だからこそ取れる固有の強みですね。
 

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「中団で溜める競馬を覚えさせようとした」とか「覚醒前は不振に陥っていた」とかの史実サイレンススズカのエピソードをシナリオに織り込んでいたり、「宝塚の主役はメジロライアンです!」とかの史実実況を織り込んでくるウマ娘
 
ローディング中の豆知識も小ネタだらけで、例えば「エアシャカールは右クリックのときだけ体が右に傾くクセがある」も、エアシャカールは右への斜行癖があって日本ダービーでもアグネスフライトの方にヨレて武豊が河内に謝罪したエピソードがあったりと、どれだけ競馬見てるんだってレベルで史実ネタが無限に出てくる。
 
それで、この間メジロマックイーン引いて初めて知ったんですけど「メジロでもマックイーンの方だ!」という実況がレース後じゃなくてレース中に流れてくるんですね。これ他にもあるんですかね。
将来的にでもいいので、宝塚記念スペシャルウィークグラスワンダーが抜け出したら「もう言葉はいらないのか!」と言われるとか、トップガンで追い込みしたら「おぉ!外から何か一頭突っ込んでくる!トップガン来たー!」と言われるとかレース中の演出で実装してくれたら熱すぎて泣いちゃう。
 
それで、元ネタ繋がりでいうとウマの走法まで再現されてる事に気が付きました。
 

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レース画面をよく見ると、ゴールドシップの歩幅は他のウマ娘と比べると大きくなっています。これは史実に基づくものです。
 
馬も生き物ですから走り方や歩幅には個性があって、歩幅の広い走り方のことを「ストライド走法」、歩幅の狭い走り方のことを「ピッチ走法」といいます。
 
ゴールドシップは典型的なストライド走法の馬で、歩幅が広いがゆえにゲート直後の加速が悪いという欠点がありました。一方で、ストライド走法のメリットとして歩数が少ないので長く脚が使えるという点があり、ゴールドシップのレース中盤からの大まくりはこのストライド走法のメリットを活かしたものと、祖父メジロマックイーン譲りのスタミナによるものと言われています。
 
演出としての走りは同じでステータスで差をつけるだけで終わることもできたんだろうけど、こんな走法レベルの違いまでちゃんとゲームに織り込んでくるのはすごい。ゴールドシップの走り方みたとき「んっ?」とは思ったけど、よく見たらやっぱりストライド走法だった。
他のストライド走法の馬としてはマンハッタンカフェもそうなんですが、ウマ娘でもマンハッタンカフェの歩幅は大きくなっているので、ストライド走法設定になってるんじゃないかと思います。
 
反対に、脚の回転数が速く歩幅が狭いピッチ走法の代表的な馬としてはグラスワンダーが挙げられます。ピッチ走法は速いので少し分かりづらいですが、ウマ娘グラスワンダーも脚の回転が速くてピッチ走法が再現されているように見えます。
ピッチ走法は回転数が速いことから、加速の速さとコーナリングの良さが強み。グラスワンダースペシャルウィーク宝塚記念有馬記念の二度対戦していますが、両方とも直線が短く、カーブへの対応が重要なコースなのでピッチ走法のグラスワンダーに有利に働いたとも言われています。
 
美少女が走るゲームなんだからここまで作らなくとも誰も文句言わないだろうに、ウマ娘作った人たちほんと競馬好き過ぎる…!
 
 

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あとコースの表現についても話しておきたいです。
競馬場のコースは多くの場合スタート直後に直線があり、ある程度位置取りができる作りになってるのですが、東京2000Mはスタート直後からカーブが始まり、外枠の馬が超絶不利な構造になっている鬼畜コース。2003年に行われた府中競馬場改修工事前の時代はもっとひどく、外枠の13番を引いたメジロマックイーンが無理に内側に切り込み、内側の馬の進路を邪魔したことでブッチギリの1着入選だったはずが審議で18着への降格を食らったエピソードはこのコース構造によるものです(若かりし頃の武豊がやらかした)。
  

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東京2000Mの天皇賞・秋はそんな特殊なコースなんですが、ウマ娘はその外枠不利を後ろからカメラに写すことでちゃんと表現してる。すごい。一般的な競馬ゲームだと横からの映像なので、有利不利があるのかどうかもよくわからんし、東京2000Mのコースの特殊性も伝わってこないんですよね。
このカメラからは、プレイヤーに対してそういう競馬場の性質を伝えたいという意図がある。これを競馬愛と言わずして何と言いますか!
 
一方で、競馬は内枠だから必ずしも有利かというとそうでもなく、差し・追い込み馬は外枠の方が良いこともあったりします。多頭数のレースともなると、道中、内側で包まれてしまい、直線でバラけるまで動きが取れないなんてことになりかねません。なので、力の抜けた有力馬であれば、仕掛けどころで外からまくっていけるような位置にいれるほうが案外良かったりするものです(それでも東京2000Mはいきなり大回りで距離損させられるので外枠は問答無用で辛い)
 
枠というものはまさに運の賜物なんですが、「運もまた競馬」というところをゲーム性に織り込んできてるの"わかってる"感あるぞ……! そうなんだ、そこも含めて競馬なんだ…!
 

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それぞれのウマ娘は出走実績等に応じて「称号」を得ることができますが、ここの条件置きにもこだわりがありますよね。
 
サイレンススズカのように「重賞6連勝かつその中に宝塚記念を含み、宝塚記念ではスタート200M以降からゴールまで1度も先頭を譲らない」みたいな史実準拠(厳密に言うと史実のスズカは重賞含む6連勝であって、重賞6連勝ではないが)なものもあれば、キングヘイローのように「スペシャルウィークセイウンスカイグラスワンダーエルコンドルパサーにそれぞれ3回以上勝利」という史上最強と言われた「98世代」を意識したものもあったりする。
 
史実を前提とした称号を獲得するシステムは、競馬ゲームでは自分が知ってる限りウイポで導入されたものだと思いますが、それに留まることなく、キングヘイローのように史実とシナリオをいい感じにミックスさせた解釈の称号はエモさある。
エグい同世代に恵まれてしまったキングヘイローが手にしたかも知れないもう一つの未来。中長距離路線突っ走って叶えてあげましょうよ。
 

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ゲームシステムと関係ない部分でウイニングライブあるじゃないですか。あれ自分最初は要らない派だったんですよね。
「こっちは競馬ゲーやっとるのになんでボーっとライブ映像みなあかんねん」と思ってたときが私にもありました。
 
メチャメチャいいなこれ!
3Dビジュアルのレベル高すぎて人類の表現能力もここまで来たかって感嘆もあるんですけど、それとは別に歌うウマ娘の声が変わったりするじゃないですか。
驚いたこだわりとして「史実でそのレースを勝ったウマ娘だけボイスが変わる」ってのがあるんですよね。
 
例えば「Winning the soul」は牡馬クラシックを勝ったときのウイニングライブですが、皐月賞を勝ったアグネスタキオンとか、ダービー勝ったトウカイテイオーで再生すると、ちゃんとそのキャラが歌ったライブに変わる。さすがに牡馬クラシック勝ったウマ娘全員にボイス変更があるってわけじゃなくて、ウオッカとかは変わらないんですけど、少なくとも有資格者制度にはなってる。菊花賞しか勝ってないマチカネフクキタルはしっかり「Winning the soul」のボイス変更対象者になっており、ここしかないというところにちゃんと入れている。この辺のセレクトに手を抜かないの良すぎますよ。
ちなみにナイスネイチャが「本能スピード」のボイスチェンジ対象になっているのは、ナイスネイチャ自身はGⅠ勝ったことないけど、当時GⅡだった高松宮杯(2000M)を勝っており、それが現在高松宮記念(1200M)としてGⅠに衣替えされたことに由来するのだと思います。
 
あとURAファイナルクリア後のうまぴょい伝説は絶対に再生してる。「終わった~」という感があり、メチャメチャ良い。
あの曲エンディング感というか大団円感ありますよね。
 

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「競争が終わったらなぜかライブを始める」という若干意味不明な点についても、史実でも同じことをしていてちゃんと元ネタもあり安心。
 
 

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いいことばかり書いてますが、敢えて悪いことも書くならば(賢さを上げれば改善するにしても)ちょっと直線が詰まりすぎる。
 
直線で他馬の後ろに張り付いたまま馬群に沈むいわゆる「ケツアタック」は競馬ゲーの宿命みたいなもの。ウイポでもダビスタでも歴史上この問題は常にあって、先般久々に発売したダビスタSwitchでも、発売直後はあまりに直線が詰まるので差し・追い込み脚質がほぼ死んでて、差し脚質のアーモンドアイがいつもケツアタックして馬群に沈んでいる駄馬になるという悲しい事件もありました。
 
ちなみにダビスタSwitchはケツアタック問題をどう解消したかというと、アップデートにより、直線に入ったとき広く外にコース取りするようになったので、後ろの馬がちゃんと間を割れるようになり、全てではありませんが緩和されました。
ウマ娘でも本来後ろからの馬が届きやすい長い府中の直線で、馬がバラけなくて後ろの馬がケツアタックして沈むみたいな光景はよく見ます。賢さ上げれば改善しますが、それでも詰まるときは詰まる。もう少し直線で馬群が横に広がれば「差し追い込みは詰まるから脚質はとりあえず逃げ」みたいなのはなくなるような気もします。その辺もまだリリースされたばかりなので、ウマ娘スタッフの競馬愛を鑑みれば、今後絶対良くなりそうな期待があります
 
ウマ娘、育成ゲーとして面白いのは、適度にランダム性を折り込みつつプレイヤーに「失敗」させてくれる点と、マスクデータが多いので試行錯誤が機能する点だと思うのですが、それだけではなく「競馬ゲー」として見ても競馬に対する愛に溢れている。コーエージーワンジョッキーの新作を出してくれないし、競馬ゲーのリリース自体が少なくなる中、これだけ競馬愛に満ちたゲームを出してくれたのは感謝しかない。
 
 
ついでなので今後の話をすると、シナリオの実装を期待したいウマ娘タマモクロスですね。ウマ娘の何がいいってこれから実装できるキャラが山ほど残ってる点ですよ。まだ脚を残している。
 
タマモクロスは「白い稲妻」と呼ばれた芦毛馬で、エピソードが波乱万丈すぎるのでぜひ紹介させてほしいです。
  

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タマモクロス1984年に誕生。父親は種付け料わずか10万円のシービークロス

生産した錦野牧場は経営難の貧乏牧場で、生産者である錦野氏は幼駒のときからタマモクロスの才能を見込むも、資金難のため泣く泣く売却。しかし、牝馬のように体が小さく華奢であったタマモクロスにはわずか500万円の値段しかつかなかった。白い仔馬タマモクロスの才能を信じていたのは錦野氏ただ一人だった。
それでも、売却したとはいえ勝ってさえくれれば生産者賞の賞金が入ってくる。そう信じて錦野氏はタマモクロスの母であるグリーンシャトーも売却。自分と牧場の命運をタマモクロスに賭けた。
 
タマモクロスは、体質が虚弱で1987年3月にデビューするも、新馬戦は1着から11馬身離された7着の大差負け。その後「ダートのほうがいいかもしれない」という判断からダートを中心に使われるも、デビュー後8戦で未勝利戦を1勝したのみの、「底辺に近い条件馬」の一頭でしかなかった。途中で落馬事故に巻き込まれて競走中止になる不運にも見舞われている。
 
錦野牧場はタマモクロスを手放した後も経営状態は改善せず、頼みのタマモクロスも活躍しなかったことで、万策尽きて倒産。タマモクロスを産んだ母のグリーンシャトーも、転売を繰り返される中で、牧場の倒産と同じ1987年に死亡した。
 
しかし、牧場の倒産と母の死を馬が知るはずはないだろうが、ここからタマモクロスはまるで別の馬のように変貌する。
運命が変わったのは9戦目の「400万以下」の条件戦。ダートで結果が出なかったため、半ば諦め気味に再び登録された芝のレースだったが、突如ここで2着を7馬身千切る快勝。その次走では更に差を広げて8馬身差の圧勝。
 
そこから1987年12月の鳴尾記念を皮切りに重賞に挑戦して3連勝。更に1988年は「天皇賞・春」で初のGⅠ勝利。続く「宝塚記念」で当時最強の中距離馬ニッポーテイオーを下してGⅠ2連勝。
 
そしてタマモクロスのハイライトたる天皇賞・秋がやってくる。
1つ年下の世代に怪物と言われる馬が現れたのだ。その名はオグリキャップ笠松から中央に移籍して以降6戦6勝と無敗街道を歩んでおり、観客はタマモクロスではなく未だ底知れないオグリキャップの方を一番人気に選んだ。
芦毛対決」と呼ばれたこのレースでは、タマモクロスがいつもの後方待機ではなく、先行策を選択。オグリキャップが中団からタマモクロスを見ながら進める形となった。そして府中の長い直線に入るが、タマモクロスは追い出さない。追い出さずに手なりで先頭に立ち、オグリを待っている。そしてオグリキャップが爆発的な末脚で迫ってきたところでタマモクロスの騎手南井はスパートを開始。1馬身の差はゴールまで永遠に詰まらず、オグリキャップは中央に来て初めて戦績に土がつくことになった。これでタマモクロスの連勝は8まで伸びた。
 
続くジャパンカップでは覚醒後初めて敗れるも、米国のペイザバトラーの2着。オグリキャップはこのレースでも3着に終わり、タマモクロスに連敗している。
 
だが、タマモクロスの引退は早く、次走の1988年有馬記念が最後のレースとなった。小柄で体質の弱いタマモクロスの体は、わずか2年の競争生活でボロボロになっていた。関係者の努力で何とか出走にこぎつけたが、3度目の芦毛対決となったオグリキャップとの叩きあいに敗れ、2着に終わった。
オグリキャップです!3度目の対決にして、初めてタマモクロスを下しました!」
今度は、天皇賞・秋とは逆にタマモクロスの方が後ろから並びかけたが、並んでからオグリキャップは粘りを見せ、どこまで走ってもその差は詰まりそうになかった。
 
1年前にはそのへんの条件馬に過ぎなかった一頭の馬が、時代のトップどころかシンボリルドルフですら成し遂げられなかった天皇賞・春秋連覇を達成。一気に歴史的名馬への仲間入りを果たしたその姿は、今現在でも日本競馬史上屈指のサクセスストーリーとして語り継がれている。
 
なお、前述のとおりタマモクロスを生産した錦野牧場はタマモクロスの活躍を見ることなく倒産したため、タマモクロスが勝利したときの表彰台の「生産者」の台は常に誰も立っていなかった。しかし、錦野氏本人は錦野牧場倒産後もタマモクロスを見るために競馬場に足を運び、タマモクロスが勝つ姿を大観衆に混ざってスタンドから見守っていたという。いかな心境だったであろうか。
 
ターフの主役を張ったのはわずか1年であったが、「白い稲妻」タマモクロスには熱狂的なファンが多く、競馬好きの漫画家つの丸が描いた『みどりのマキバオー』の主役マキバオータマモクロスがモデルとなっていることが知られている。
  

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タマモクロス、待ってるで!!