当たり判定ゼロ

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人は誰しもいつかジェイガンになる

「インターネットは20代のもの」というのが、20代30代をインターネットで過ごしてきた自分の感想です。
 
20代はバランスが良い。10代ほど自分の中の積み重ねが不足しているわけでもなく、30代ほど自分の頭上にある能力の天井に気が付かされているわけでもない。何かを変えようと変革を起こす体力や精神力もある。インターネットは常に新しいものを求める群体ですが、新しいものを生み出す能力と新しいものを生み出す活気のある20代は、インターネットが求める需要に供給がマッチする。
 
ところでインターネットはあくまで例えとしてのワンオブゼムであって、「若ければ有利」は何にせよ当てはまる定理でしょう。老人が個人として新しいものを生み出せる能力があるのであれば、新進気鋭の60代のクリエイターや作家がドンドン出てきておかしくないはず。何かを始めるのにはいつからでも遅くない、というのは甘い囁きのようなフェイク。相対的には若いほうが有利なのは悲しい事実です。
だからこそ、個人での勝負にならないよう、老人は組織としての「偉さ」を武器に若者を支配する仕組みを構築します。
 
やはりどれだけ否定しても人間は劣化する生き物なんですよね。頭の回転は悪くなるし、固有名詞の単語は出てこなくなり、知識の引き出しも固くなる。能力の習得も遅くなる。子どもがピアノの練習をして上達をする速度と老人のそれでは、比べるのも悲しくなる。
 
「老いる」というのは誰しも避けられない確定イベントですが、つらい。とてもつらい。シナリオ上回避できない確定イベントにこの重さはやめてほしい。
 
しかしこの「老いる」という概念を考えたとき、その存在の全てで「老い」を体現したある人物のことをご存じでしょうか。
 
 
ジェイガンは「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」において最初のステージから仲間にいるキャラクターで、最初からパラディンという上位職で登場します。ステータスの初期値が若干高めに設定され、銀の槍という強武器を最初から持っていることから、シミュレーションが苦手な人のためのいわゆる「お助けキャラ」なのかと思いきや、これが罠。
 
ジェイガンのステータスの上昇率はとんでもなく低く、レベルアップ時にステータスが上がる確率は驚異の10%。レベルアップしてもFE独特の「ピン」というステータス上昇が運良くて1つとかそんなもん。もはやレベルが上がっても無駄という安西先生も驚きの成長率。まるで成長していない…。だって、年寄りなのだもの…。
 
なので、ジェイガンに経験値を与えるのは無駄であり、最初のマップから最後のマップまでずっと二軍に幽閉するのが一般的なFEプレイヤーの振る舞いとなります。一方で、最初から強いジェイガンに敵を倒させて経験値を与えてしまうと後のステージで詰んでしまったりしまうので、苦い経験をした人もいるんじゃないかと思います。
 
このジェイガンの姿を子どもの頃は笑ってられたものの、だんだん笑ってられなくなるんですよね。
いつかの日か、気付くんですよ。
自分がジェイガンになる順番が来たのだと。人間が歳をとり、成長力が落ちる存在であり続ける存在である限り、ジェイガンになることを避けられる人間はいない。人は皆いつか死にますが、その前に人は皆いつかジェイガンになるのです。
 
若い頃、才能の天井は青空のように広がっていると思っていた。親は子供に無限の可能性があると言い聞かせた。僕らの前にはドアがあり、色んなドアがいつもあるのだと小学校の卒業式で歌わされた歌詞も訴えていた。
しかし、人生の階段を登って見えてきた景色は、青天井に開けた大空ではなく、才能の「ここまで」という看板が立っていただけであり、1度の人生で2つ以上のドアに入ることはできないという当たり前の事実が示されただけだった。
 
それでも、中には遅咲きで成功する人もいるじゃないかという反駁もあるかもしれません。
しかしジェイガンだってクソ運良くステータスがピンピン上がれば、100万人に1人のスーパージェイガンが誕生するわけです。遅咲きの成功者のような例外ですらジェイガンの成長概念の中に収まってしまう。ジェイガンは人生のあり方のすべてを包括している。ジェイガンは人生のすべてを説明している。ジェイガンすごい。
その存在のみで人の成長に関わる何もかも説明できるジェイガンという概念を作った加賀とかいうスーパークリエイターに、今すぐカネと人を与えてベルウィックサーガの続編を作らせてほしいくらいです。
 
しかし大事なのはここから。
我々はジェイガンになることは避けられない。俺もお前もいつかはジェイガンになる。人は、いつか必ずジェイガンになる。
しかし、しかしだよ。ジェイガンになることが避けられないとして、そしてあなたがいつかジェイガンになってしまったとして、それに気づいたとき、果たして残りの人生をどう生きればいいんだという疑問が残るわけです。そしてそれはあなたがジェイガンであり続ける限り、残された人生すべてであなたの精神を苛み続けるでしょう。死ぬまで。
 
もう能力は成長しないし、若い奴らはドンドン出てくる。
ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」には最初のステージからの仲間としてジェイガンの他にも若きナイトのアベルやカインがいますが、ジェイガンはレベルが上がるたびにピンピン能力を増やしていく彼らを見て、何を感じ、何を考えていたのでしょうか。それは我々にはもはや知る術はありませんが、FEを遊んでいた若い自分たちにはそんなジェイガンの心中に思いを馳せることすらできなかった。しかしあのとき速攻二軍送りにされて経験値を与えられず笑われていたロートルは、考えてみれば未来の自分だったのだな。
 
ところで、ここで冷静に振り返ってみたいんですけど、ジェイガンは上級職であるパラディンとして登場しますが、ステータスのパラメーターとしては上級職にあるまじき低さなんですよね。正直言うほど強くない。下級職でレベル10〜20まで上げて、さらに上級職へのクラスチェンジボーナスまで含めているにも関わらず、下級職であるアベルやカインに毛が生えた程度の能力しかない。何かおかしくないか。
 
これって何かを示す非常に重要な事実だと思うんですよ。
可能性で言えるのは、「ジェイガンそもそも若い頃そんな努力してなくない?」という推測。少なくともレベル10に到達した瞬間に喜々としてさっさと上級職にジョブチェンジしたのは見て取れる。割とエモーティブに生きてるよね、若い頃のジェイガン。価値観が刹那的というかあまり深く物事を考えず生きるタイプだったっぽい。それが「マルス様、死んでしまうとは情けない」とか主君に対して言い放てるようになるのだから大したもんですよ。若干死んだ人に対してドライすぎないかという気もするけれど。
若い頃のことは言わなきゃバレねぇ。重鎮ぽっい雰囲気で押し切ってしまえばそれっぽい。そういう悟りがあったのではないでしょうか。
 
そう、ジェイガン、彼はTPOをわきまえた男。
生きるのに必要なのは敵を倒すことでも魔法を使うことでもない。強さなんて必要ない。優秀さなんて必要ない。必要なのはTPOを察する力。そして雰囲気。
 
「年老いた私が今更出しゃばってもしょうがないでしょう。もはや私たちの時代ではない。これからは若い君たちに任せます。自分たちが思うまま、自由にやってみなさい」
これですよ。スケールの広さをアピールしつつ、若者を育てる未来への種まきも忘れない。それでいて若い頃の自分の努力不足はバレない。この生き方なんだよな。
 
人は誰しも年を取り、いつかはジェイガンになることは避けられないけれど、それでも人生は続いていく。
そのときジェイガンはこうしろと教えてくれる。
でしゃばるな。それっぽいことだけ言っておけ。