当たり判定ゼロ

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失うこと恐れることなかれ

かつての人気シリーズが没落していって、最新作がソシャゲでリリースされるのを見ると、売れなくなったアイドルがAVデビューするような感じで目頭が熱くなるところがあります。パワプロシリーズの最新作「パワプロスタジアム」がPS3・Vitaでリリースされましたが、その仕様は完全にソシャゲ。無料で回せるガチャ、課金で回せるレアガチャ、体力を使ってお仕事を進めてレベルを上げ、トレードでカードを揃えて対戦…。 往年のファンからにしてみれば、なんやそれふざけんなという思いもあるかと思いますが、だがちょっと待ってほしい。本当にパワプロスタジアムは数多のソシャゲがそうであったように、ワンオブザそびえ立つクソなのだろうか?少しくらい褒めるところはないのだろうか。次の概要からそのことを検証していくこととします。

恐ろしいことにパワプロスタジアムでは、デッキは野手カード8枚と投手カード1枚をセットするだけで良く、守備位置を一切考慮せずにスタメン(デッキ)を組むことが可能です。というかこのゲームには守備位置とかいう概念がありません。 とすると、一見なんのために野球ゲームを題材としているのか不思議に思われるかもしれませんが、これは「プロなんだからその気になればどこのポジションでも守れるだろ」という思想を反映しているもので、中日の高木監督をリスペクトしているものと推測されます。素人が簡単に判断してしまうと本質を見誤ってしまうのです。でないと、元々パワプロ2012のゲーム内で実装されたモードの一部を切り出してリリースした作品とはいえ、仮にも「パワプロ」を関するゲームで、この仕様はあまりにもジョイナスパワプロスタジアムは、野球のルールだけでなく、プロ野球の監督の思想まで把握していないと楽しめないゲームだったのです。なるほど奥深い。

元々ソシャゲは、低スペックで稼働するチープさを武器にモバイル端末でスキマ時間を奪って成功したのは周知の事実です。しかしパワプロスタジアムはあえてPS3・Vitaでリリースされました。この時分になって、あざ笑うかのように高画質の家庭用でソシャゲをリリースするというのは、豊臣秀吉の黄金の茶器のような無駄のある贅沢さを感じさせられるとともに、不条理ジョークのような体験をユーザーに与えてくれます。「戦車をピッチャーにしてボールを砲撃して野球やってみようぜ!」みたいな性能の無駄遣いは、コストカット、ムダ、ムラ削減の強制に日々戦々恐々としながら暮らしている日本人に、人生における大らかさの重要性を伝えようとしているかのようです。

かつて、私はパワプロのサクセスで選手を作るのに入れ込むあまり、高校で野球部を辞めました。現実にしんどい思いをして野球をやるより、手っ取り早くサクセスで甲子園に行ったほうが楽しいとコナミが教えてくれたのです。自分で甲子園に行くことはありませんでしたが、現実で甲子園に行くのとゲームの中で甲子園に行くのでどれほどの違いがあるというのでしょう。たくさんの選手とともに甲子園で山口や大西の球を打ちました。ありがとうパワプロ。サンキューコナミ。おかげさまで、今ではバッセンで120km/hのボールを見ると速すぎて腰を抜かすようになりました。

その後リリースされたパワプロオンラインもそれなりにやり込み、月間ランキングでは概ね上位、瞬間最大風速では月間2位ということもありましたが、ある日をきっかけにパタッと辞めました。負けるのが怖くなったからです。積み木って低いうちに壊してもそんなに音がしないじゃないですか。でも高く積んでから壊すとガシャーン!って音がしてすげぇストレスなんですね。アレですよアレ。高い勝率作ったらそれが崩されるのが怖くて怖くて、ある日連敗して下がった数字を見てポキっと心が折れた。「おれは戦うのが好きなんじゃねぇんだ・・・。勝つのが好きなんだよォォッ!!」って完全にフレイザードであり、実は自分が知らないだけでフィンガー・フレア・ボムズとか使える可能性は十分にあります。 そこのところでいくと、知人に格ゲーが上手で時々ラスベガスに格ゲーを遊びに行く人がいるんですが、「自分はゲームが好きなんじゃなくて対戦が好きなんだよね」「リスクのやり取りこそがゲームの楽しみ」みたいな事を言っており、いやそれただのリスクジャンキーじゃねぇかという話ではありつつ、失うことを恐れないということはいつの日も変わらぬ成功のメソッドだよねという話でもあります。

パワプロスタジアムも実はそのような主張の産物である可能性は十分にあるのです。 突如ソシャゲ化してオールドファンを失望させることを恐れない強さ。野球ゲームという出自を忘れた仕様でシリーズのブランド力を失うことを恐れぬ魂の頑健さ。家庭用ゲーム機でソシャゲという独自路線に歩を進めることを恐れない勇気。 その姿を見せることで、パワプロスタジアムは私達に「失うことを恐れてはいけない」というメッセージを伝えてくれているのです。強いて欠点をあげるならば、ゲームがつまらないことくらいでしょうか。