当たり判定ゼロ

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ファックボールを投げたくて

結局のところ2015年はパワプロのコンシュマー新作が発売されることはないままに終了し、パワプロの第一作が発売されてから、有史以来初めて人類はパワプロの出ない一年を経験することになりました。 2014に栄冠ナインが付いてたので、ひょっとするとこれはコナミからの手切れ金みたいなもんで、もうパワプロはアプリでしか出ないんじゃねぇかと頭をよぎったこともありましたが、こうして無事にリリースされたことは幸甚の至り。 先発ピッチャーも中4日よりも中5日の方がいい仕事をする可能性が高いように、中1年空けたパワプロ2016は期待以上の出来で、冥球島オマージュのパワフェスは繰り返し繰り返し遊べますし、パワフェスあるから手抜きも覚悟してたサクセスも一定以上のボリュームありますし、ペナント、マイライフはいつもどおりで栄冠まで入っていると至れり尽くせり。シリーズとして近年最高の内容だと断言しても差し支えないと思うのですが、中でも地味に良いのが「新球種開発」モード。 スライダーとかカーブとかのベース球種を、変化量や伸びを増減させたり、変化の方向を変えたりして自分オリジナルの魔球が作れるやつです。 魔球ですよ魔球。 野球マンガとかだと、一つの魔球をストーリーの軸にして打てるだの打てないだの話を進めるのが定番ですけど、誰でも小さい頃に一度は魔球を投げる遊びをしたことがあるのではないでしょうか。はい、先生怒んないからゴムボールでナックル投げたことある人、手を挙げなさい。 誰しも、投げたいと憧れる魔球の一つや二つあって当たり前です。 中でも若いころヤンチャしてたみんなが大好きな魔球と言えばアレだよね。アレ。 パワプロ2016ならファックボールだって投げられる…! ファックボールというのは、梅澤春人先生の『BØY』に登場する氷堂純一が投げるボールで、中指を立てて握り、打者の手元でホップしてヘルメットに直撃する軌道を描きます。 球が浮き上がるいわゆるライズボールというのは実際には存在しないですし、もし実際に浮き上がるボールを投げてしまうと空想科学読本入りして柳田理科雄案件になってしまうのですが、それが許されるのが魔球の世界。 パワプロというのは野球というスポーツからエッセンスを抜き出してコミック調にしたようなところがあるので、魔球という存在が自然に馴染んじゃうんですよね。パワプロは魔球ととても親和性が高く、ファックボールが不自然さなしに登場できてしまいます。 ところでプロ野球選手には実際にファックボールを投げる選手が存在するということも知られています。 かつて巨人の長野が「ミットに着くまでに2回空振りできる」と表現した杉内のチェンジアップは中指を立てて投げられているらしいですが、それを踏まえて作った氷堂純一はこちら。パワナンバーも付けとくので良かったらDLしてみてください。 パワナンバー:13600 90140 98584 ストレートがオリ変のファックボールに置き換わっているんですが、ストレート系なので全力投球すると「全力ファックボール」とか表示されてちょっとウケる。杉内投手によると、ファックボールと同じ握りでチェンジアップが投げられるらしいので、決め球はチェンジアップで。 宇宙一好きな魔球のファックボール投げて遊べるというだけでパワプロ2016の素晴らしさは未来永劫讃えられるべきなんですけど、「ファック」を禁止用語にしなかったことで、ファックボールをこの世に生み出せるようにした判断についてはコナミのファインプレーと言えると思います。 あとインパクトの強い魔球といえばアレですよね、魔球KOBE。 パワナンバー:13600 50171 50057 魔球KOBEは、『Dreams』 に出てくる神戸翼成の生田が投げる150km/hで揺れる高速ナックル。不謹慎すぎる名前で有名。今、魔球KUMAMOTOとか出したら絶対怒られるんだろうなぁ。爪楊枝はないけど、葉っぱでカバーできるあたりパワターは偉大。 Dreamsも魔球KOBEあたりまで見てたんですけど、あれから10年以上経って30巻くらい出てるはずなのに、3試合くらいしか進んでないらしい。1試合に6年とかかけてて、野球版のアカギみたいになってた。 パワナンバー:13200 20069 94276 『ダウンタウン熱血べーすぼーる物語』に出てくる宝陵高校の紫。原作だと紫のブレードシュート、クッソカッコいいんですよね。右打者の顔面に向かって進んで、打者の手前で急速にシンカー気味にシュートしてストライクゾーンに動くボールです。ファックボールの逆で、実用的ですね。 『ダウンタウン熱血べーすぼーる物語』は、捕手だけでなく二塁手とかもタックルとかキックで倒してボール落とさせればセーフというコリジョンルールを足蹴にするようなルールを採用しててクソ面白いですが、格ゲーの北斗じゃないですけど変なところでバランス取れてて個人的には好きなゲーム。 ファックボールも魔球KOBEもブレードシュートもその軌道はまさに魔球を言っても差し支え無いでしょう。 このような魔球がなぜ曲がるのか、という答えについては、高橋源一郎の『優雅で感傷的な日本野球』に登場するエースピッチャーが次のように語っています。 「ライプニッツを読んだかい? あいつは野球がわかってる。『実態の本性及び実態の交通ならびに精神物体間に損する結合についての新設』でライプニッツ先生はこうおっしゃってる。『現象はぜんぜん架空的なものではなく、どこか事象的なところをもつ、ところがこの事象性のよってくる根拠をもとめると、現象の中にはない。けれども、その根拠はどこかになくてはならない。それは単純な実態の中に存するということになる』それを読んでピンときたね。こいつは野球がわかってるってな。(中略)わかるか? ボールが変化するのはその内的原理のせいなんだって言ってるんだな。ライプニッツ先生は」 私はライプニッツについて詳しくないのですが、どうやら変化球について深く知りたければライプニッツを読む必要があるようです。ライプニッツも読まずにファックボールの軌道について批判するのは的外れであることがわかります。 それにしてもパワフェスは良い…。とても良い…。 強いて言うなら最初のうちは味方も弱いのでやりがいもあるけど、繰り返していくと仲間が強くなりすぎてオートでもアホみたいに点を取るので負ける要素がなくなるというところはあります。 サクセスでもそうなんですけど、作った選手の使い所がなかったりするので、過去に作った選手がランダムで敵として出てくるとかあったりすると敵もだんだん強くなるし、永久に楽しめそう。オリ変って一番面白いのは、それを投げるところじゃなくてそれを打つところだったりするんじゃないですかね。ファックボール打ちたいんじゃ~。 一応パワフェスの金トロも取っておきました。 あまりにアンドロメダ高校が出てこなくてアホみたいに何度もやり直してたんだけど、決勝戦は途中の行動で分岐するっぽい。矢部くんのイベント起こすとレッドエンジェルスが出てきたり、隠しマネージャーとか大豪月さまがいたりすると黒獅子出てくる確率が高かったりするので、内部的に「因縁ポイント」みたいなのがあって、途中で取った行動の蓄積で一番高かったところが最後に出てくる、とかそんな感じっぽい印象。あまりに偏ってたので、単純に確率の問題ではないと思われます。 そういや、初めてマイライフを引退まで遊んだんですけど、引退試合ってちゃんと1番打者で1打席だけ出場(2回から途中交代)って起用になって、打席中、画面端に嫁さんが泣いてるカットインが入るのな。ここまで遊ぶことはあまりないけど、こういうところまで拘ってるのとても良いと思います。 かつてアホほど出てた野球ゲームという存在が絶滅危惧種になって久しいですけど、こうしてファックボール投げて遊べるレベルで生き残ってることは本当に喜ばしい。 『優雅で感傷的な日本野球』では、失われた「野球」という概念を求めて色んな人が「野球」についての解釈を行っていきますけど、「野球ゲーム」も一度文明から失われてしまうと、再びこの位置まで辿り着くのがとても大変な気がするし、たぶんそうして創りだされた「野球ゲーム」は今こうして遊んでいるものとは全く別物になってしまうような気もするのです。