当たり判定ゼロ

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勇気は最後のエッセンス

阪神タイガースの赤星選手がかつてこんな話をしていました。「足にはスランプがないといわれるが、それは違う。失敗の恐怖に負けて走る勇気を失うこと、それがスランプなんです」うろ覚えですが、確かこんなニュアンスの話だった気がします。違ってても言ってたことにしておいてください。

この話は一見それっぽい話に聞こえますが、実のところこれは足の速い赤星選手だから言えることで、たとえば足のクッソ遅い巨人の阿部選手が「盗塁に必要なのは勇気、それだけです」とかカッコよく言ってもアウトを量産するだけの話でただの迷惑になってしまいます。

つまり勇気と無謀の違いは、それを実行する能力の有無にあるわけで、勇気の適切な使い方は、能力のある人がそれを実行するための最後のエッセンス。言ってみれば味付けみたいなものなので、決して勇気が先に来てはいけません。

思えば医業の辛いところというのは、勇気と無謀の違いを十分知る人に対して強制的に無謀を強いることにあるのでしょう。離島でやってるお医者さんなんてそりゃ大変です。

「ブラックジョック先生!急患です!早く手術しないと命が危険です!」

「フムン、これは私の手に負えんな。帰ってもらいたまえ」

「せんせぇ…」

「フッ、ビノコくん、覚えておきたまえ。分不相応にできないことをしようとする、それを無謀と人は呼ぶのだ」

こんな医者がいたら上小阿仁村じゃなくとも村から追い出されます。無謀との隣合わせはお医者さんの使命なのです。

難易度が軽視されがちですけど、これに近いのが野球の審判で、作業としてはかなり難しいながらも強制的に毎回正しい判断を行うことを強いられます。特に、横の基準はホームベースがあるからいいですけど、縦は基準がないですし、奥行きを把握するのが得意な人はそういません。100cmと120cmの奥行きとか同時に見せられるならまだしも、別々に見た時にパッと区別できないです。そのわりに、きわどいジャッジをすると不利に働いた方のベンチから「下手くそ!」と野次られるので辞めたい、とボランティアで少年野球の審判をやっている知人がよく愚痴っています。善意でボランティアやっている人を追い込んで結果的に自分たちのために働いてくれる人を失ってしまうというのは、どこかの村のお医者さんを見ているようでした。

3DSの「だるめしスポーツ」をやっていてそんなことを思いました。だるめしスポーツは、そんなストレスフルな審判業を体験できる、やきうのお兄ちゃんたち垂涎のダウンロードゲームであり、良ゲーです。

おそらくこのゲームは、相当野球が好きな人によって作られています。バットを出すタイミングと打球の方向が一致する感覚はかなり現実の野球に近いですし、審判の低めをとる難しさは当然のように再現されています。バッティングでも、ただスイングボタン1つだけを使うゲームながら、緩急の重要性を教えてくれます。速いストレートだけを打つステージがあるのですが、たとえ255km/hの球が投げられても、それが来るとわかっていればタイミングは合うのです。しかし、60km/hの後に170km/hのボールを投げられるとタイミングを合わせるのは困難です。ジャイアンツの筋肉は、ぜひだるめしスポーツを遊んでみて60km/hの後に170km/hを投げられるようになると沢村賞が取れると思います。

途中でイナズマボールという左右に揺れる魔球なんかも出てきたりするのですが、あれを見ると100エーカーの森球場で出会ったクソガキの顔を思い出して辛いです。

あと、左打者の肩口から落ちてくるカーブを待って打つ気持ちよさがすごいです。だるめしスポーツでは、なぜかゲーム開始直後に「右投げ左打ちは野球選手の完成形」みたいな謎の持ち上げがなされるのですが、左打者の打席感覚の再現性から考えると作者の自画自賛である可能性が高いです。ちなみに私も右投げ左打ちで、いわゆる野球選手の完成形なのですが、未だにドラフトで指名される気配はありません。甲子園に出ていないので知名度が足りないのでしょうか。

先般リリースされたソリティ馬も時間泥棒ゲーでしたし、この時期に3DSでサクッと遊べる良ゲーがリリースされたということは、ビッグサイトで酷暑を耐え忍ぶ際、少しでも時間を潰せるようにしましたので頑張ってくださいね、という任天堂さんの温かい配慮であることは論を待ちません。そう、我々は列に並んでいるのではなく、夏の炎天下の元、野球をしているのです。ならば高校球児だって同じ時間に灼熱の甲子園で野球をしているわけだし、同じ野球を嗜むものとして関東と関西、場所は違えど負ける訳にはいかないと考えるとやる気が湧いてくるじゃありませんか! ありがとうだるめしスポーツ! だるめしスポーツがある限り、40度の待機列にだって10時間は耐えてみせる!

できもしないことをやろうとする勇気、それを無謀というのです。