それでも博麗霊夢と飛んだ記憶はオタクのDNAに刻み込まれている
知識や能力は使わないと確かに錆びつくのかもしれないが、一度獲得したそれらは表出せずとも、引き出しのどこかで再び使われるときを待ち続けている。
自分の部屋の本棚を振り返ったとき、それぞれの本の内容をしっかり覚えている人はどれだけいるんですかね。私は自分の本棚見てもボケてるのかと思うレベルで全然覚えてません。だけど、それぞれの本が教えてくれた知識や考え方は、あなたの無意識のどこかに確かにしまい込まれてるのです。
いや何でこんな話をしたかというと、東方虹龍洞、Lunaticクリアしたんですよ!えへへ。
久々の東方にしては頑張った!と言いたいところなんですが、発売初日(5月4日)時点だと、半日くらいNormalすらクリアできなかったんですよね。
かつて見えていたはずの弾幕が見えなくなってるの、何というか情報処理が追いついてない感じ。
「STGわからん。何も覚えてない」
かつて出来たことができなくなってるというのは、人にとってストレス。しかし、そこからLunaticクリアまで1日で戻せたのは、かつてやり込んだ紅魔郷からの歴史のおかげなんだと思うんですね。初めてSTGを触った人が1日でLunaticをクリアすることはできません。ゲームの腕は忘れてるようで忘れてないものであり、かつて遊んだゲームの内容は意識的に覚えていなくとも、無意識はその挙動を覚えている。
考えてみれば、前に東方妖々夢を久々に遊んだときにプリズムリバー三姉妹のコンチェルトグロッソで、なぜか自機が自然と左下に移動して「コンチェルトグロッソは左下で避ける」というのが肌に染み付いてて怖ッ!ってなったことありました。
博麗霊夢とともに飛んだ記憶は、普段は出てこないかも知れないが、確かに我々のDNAのどこかに刻み込まれているわけです。
というわけで、今日は東方の昔話でもしましょうねーという回です。自分はWindows時代から入ったので、Windows版から。
いやー、懐かしい。当時たまたま入った同人ショップ(店の名前も忘れた)がやたら推してたので買ったんですよね。
紅魔郷の白眉はチルノの『パーフェクトフリーズ』じゃないですかね。弾を凍らせるという発想の弾幕に、覚えやすくもどこか物悲しさもあるおてんば恋娘のBGMのインパクトとも相まってガンとやられて惚れた記憶があります。パーフェクトフリーズにはショックを受けた人多いんじゃなかろうか。
初心者シューターらしく当時Normalの3面もクリアできませんでしたが、あまりに面白かったので「どんな人が作ってるんだろう」とネットを検索して見つけた上海アリスのHPは「作品」「掲示板」のリンクが並んでる昔ながらのHPで、掲示板では神主が常連さんと普通にケイブSTGの話題してました。プロギアの2周がどうこう話をしてて、初心者の自分は「はえ~、面白いゲーム作る人はゲームも上手いんやね~」と圧倒されつつ、読んで勉強をしていました。
2chの同人板(だったかな?)にもスレが立っており、当時はまだ人が少なかったものの、概ね高評価の論調でした。
ただ、STG界隈において少女キャラが当たり前に出てくるゲームが少なかったこともあり、キャラに対しては評価の低いコメントをする人が多かったように思います。「式神の城」等の一部を除けば、STGの自機は機械が当たり前であって、いわゆる「硬派」が主流だった時代ですね。
「STGとしては面白いのに、小さい女の子しか出てこない」という点がむしろマイナスとして捉えられており「これで作者がロリコンでさえなければな…」みたいな書き込みがされていたのを今でも覚えてます。しかし、まさかそのキャクター面が受けて後の大ヒットにつながるとは、これ書いた人は夢にも思わなかったのでは。
そして妖々夢!
自機の中心部に当たり判定が表示されるようになったのと、ボスの位置が画面下に表示されるようになったのは本作から。また美しい背景に凝るようになったのも妖々夢からであり、今に至るまでの東方のシステムの基本形は妖々夢でほぼ完成したと言っていいと思います。
本作の稼ぎの目玉はグレイズでしたね。過去イチでグレイズに稼ぎメリットがあったので、ついついボス戦では高速移動に切り替えて稼いじゃう。カリカリカリカリという音が今でも脳内再生できる人は多いのでは。
妖々夢からは人が増えたので、スコアアタックも盛り上がりました(紅魔郷の頃からスコアボードはありましたが、妖々夢になってからは比ではないくらい盛り上がった)。そして人が増えると中には化け物も紛れ込むもの…。あるとき「とんでもないスコアを出したやつがいる」と話題になり、スコアボードトップにはダントツのスコアとともにリプレイが投稿されていました。
投稿者は「天帝」とあだ名されていたGIL氏。
リプレイを見ると、桜点を稼いで高速移動でグレイズし、素点を高めていくプレイに見える。とにかくしつこくグレイズ、グレイズ。この時点でミスなく稼ぐさまは「はえ~、うっめ~」となるのですが、それが爆発するのが幽々子戦での『リポジトリ・オブ・ヒロカワ』。自機あてに放たれる密集したの弾をすべてグレイズして大量点を稼いでおり、「そうか、全国1位はそうやって稼ぐのか」と勉強させられました(めっちゃ真似した)。
しかし、これでさえ最後に見せつけられる驚きの布石にしか過ぎないとは…。
いわゆる天帝避け。当時妖々夢やり込んでいたオタクでこのリプレイを見たことのない人はいないんじゃないでしょうか。
Lunatic幽々子戦ラストの『反魂蝶-八分咲-』はただでさえ密度濃くて下で避けてるだけで必死なんですけどね。普通は。
反魂蝶前に自機がスッと右上に行くの見て頭の中に「??」がよぎり、その後の回避で「は?」と声が出て、終いには乾いた笑いに変わる。ゲームってのは、作品そのものだけではなく、遊ぶことでさえこんな感情を揺さぶる表現ができるというのはすごい点だと思いますね。
その他にも初めてLunaticをクリアしたときに思わず出た握りこぶし。
Phantasmで10億点超えて、スコア欄の桁表示を初めてズラせたときの喜び。
東方妖々夢を語る種は世に尽きまじ…。
この勢いで全部やってしまいそうになったのでちょっと飛ばしてWin中期から東方神霊廟。
背景のオシャレさ随一の風神録や、1面から音楽の雰囲気のいい星蓮船もいいんですけど、神霊廟好きなんですよね。ただ、トランスシステムさえなければ…。
神霊廟は、敵を撃破したりボスに接近射撃することで出現する霊を集めて、3つ集めたらトランスモードに入れるシステムでした。
トランスモード中は、ショットが強力になったり獲得アイテムが強力になって(残機の欠片が2倍になる等)、さらには自機が10秒間無敵になるんですよね。
無敵っ……。ならんでいいっ!ならんでっ!
弾幕を避けるのは東方の面白さの一つなんですが、トランスするとボス敵に張り付いてショットするだけという何とも淡白なゲームになってしまうんですよね。封印して遊ぼうにも被弾したら勝手に発動してしまうし…。攻撃力UPと獲得アイテムがお得になるというリターンと、被弾のリスクが並立していたらそれはそれは最高のゲームだったのではないかと今でも思います。棒立ち密着打ち込みはちょっと…。
それでもなぜ神霊廟が好きなのかと言うと、特に3~4面の構成なんですよね。
3面ボス宮古芳香のギミック覚えてます?
神霊廟は敵を倒して落とす霊を回収して稼ぐゲームですが、芳香は霊を吸収して体力回復するんですよね。これ最初わかんなくて何度も何度も時間切れになってたんですが、よく見てみると3面中ボスの小傘がヒントくれてたんです。これに気がついたときの「あっ」という感じ。村人がボス戦の攻略ヒントくれるとか、STGで経験すると思わなかった。BGM『リジッドパラダイス』も芳香戦の雰囲気にあっていて、時々聞こえるコーンと柄杓で石を叩いたような音が好き。
そして4面は道中に神霊廟屈指の名曲『デザイアドライブ』からのボス青娥戦の『古きユアンシェン』に繋がる流れ、無限に聴いてられる。ここで霊夢が「ルール違反」という芳香再登場で、キョンシーを盾に殴ってくる弾幕戦も戦略性があって良い。遠回りに見えてもこまめに芳香を撃破した方が、青娥が蘇生アクションという動作を取るので結果的に安全だったりしますね。
神霊廟の宮古芳香絡みの3~4面は東方Projectでも屈指の出来だと思いますよ。
最近の作品の話もしておくと、前作の東方鬼形獣に触れておきたい。
正直言うと鬼形獣自体はあまり好きな方の作品ではなくて、なぜかというとベントラーシステムが復活したので…。星蓮船であれほど不評だったベントラーを復活させた理由はよくわからないですが、相変わらずアイテムを追いかけるのが面倒くさい。なのでシステム的にはちょっとやり込むのはなーというところなんですが、鬼形獣の何が良いってラスボス埴安神袿姫戦の演出ですよ。
縦STGというものは基本的に前に進んでいくものなので、ここまで背景が前方から後方にスクロールし続けて進んできたところから、「ま、まずい!時間をかけすぎた、人間!」「一旦退却だ!逃げろ!!」から『偶像に世界を委ねて』のイントロが流れて、背景がこれまでと逆に後方から前方にスクロールしてラスボス戦開始という導入で盛り上がりがマッハ。そこから2スペル凌ぐと摩天楼の見えるレトロフューチャーな背景で戦い、更に凌ぐと「人間よ、よく耐えた!まもなく応援が来るぞ!」からの大量の動物霊アイテムの応援。そこから自機は常にハイパー化状態を維持し、猛烈な火力で袿姫に反撃を行うという流れ。美しい!最高!ベネ!
いや、ベントラーの悪口言ってすまんかった。まさか「動物霊たちの応援」という表現をこれを使って行うとは…。
仲間たちの応援で最後の戦いに挑むって盛り上がりの鉄板ですが、それをゲームシステムを利用して描くのだから見事というほかない。しかも「一旦退却だ!逃げろ!!」と一旦落としてからの逆転をたった7スペルで演出し切るのだから。
このストーリー感を持った戦闘演出は妖々夢の幽々子戦以来の出来なんじゃなかろうか。
そして東方虹龍洞ですよ。
妖々夢をWin東方の原型とするならば、虹龍洞はカード装備システムをトッピングしたもの。カードのツモに展開が左右されるのは、まるでSlaytheSpireのようなランダム性があって毎回違ったプレイが楽しめるのですが、虹龍洞の本質は別のところにあります。
虹龍洞は久々に出た「原型に近い東方」なんですよね。ここで言う原型ってのは東方妖々夢を指してますけど、直近の作品から遡ってみてもベントラーシステムの鬼形獣、季節システムの天空璋、完全無欠モードの紺珠伝と比べてもより複雑性の度合いが低い。STGとして変化球の要素が少なく単純に遊べるのが虹龍洞の良いところだと思いますね。
オタクたちはただひたすら東方Projectを愛し、続けてきた。これから先もそうでしょう。東方の新作が供給されるたびに、己のDNAに刻み込まれた何かを思い出すことになるでしょう。
神主へ。
いつまでも元気で東方を作り続けてくださいね(小学校の社会見学並の感想)