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一口馬主のすゝめ

りくぜんです。馬主やってます。
いや、馬主って言っても一口馬主なんですけどね。だいたいJRAの個人馬主資格ってこれですよこれ!
 
・今後も継続的に得られる見込みのある所得金額が、過去2か年いずれも1,700万円以上あること
・継続的に保有する資産の額が7,500万円以上あること
 
こんな条件満たしてる時点で人生クリアじゃないですか。
一方、馬主と言えば企業のオーナーやってるような大金持ちだけしかいないイメージが持たれがちですが、一般人が寄せ集まって出資するクラブ馬主というのもあります。大富豪にならなくとも、クラブに一口出資するだけで自分の愛馬にターフを走らせられるわけですが、実際に一口馬主やってみたところ敷居は案外高くないなと思ったので簡単に解説書いておきます。
 
今の競馬界はクラブ馬主が席巻している状況になっています。
2016年以降、馬主リーディングのTOP4は、クラブ馬主である社台サラブレッドクラブ、サンデーサラブレッドクラブ、シルクホースクラブ、キャロットレーシングの4強が固定で独占し続けており、足元の2021年でもその状況に変動はありません。なお、この4社はいずれも日本最大の競走馬生産牧場の社台グループに属します。
 
日本競馬史上最多GⅠ勝利馬アーモンドアイ(所属:シルク)も、三冠馬オルフェーヴル(所属:サンデーTC)も、先般大阪杯を勝利したレイパパレ(所属:キャロット)もみんなみんなクラブ法人の所有馬。競走馬のオーナーは金持ちしかなれないものが、いつの間にか一般人が楽しむものになりました。
ウマ娘に最近の有名馬が出てこないのは、クラブ馬主がターフを席巻し続けている日本近代競馬の現状の裏返しとも言えます。クラブ馬主、権利関係ややこしいらしいんですよね。一方で権利関係のわかりやすい個人オーナーの有名馬は少なくなりつつあり、競馬という文化の移ろいを感じさせます。
要は、社台グループが作った馬に多くの人が投資して走らせるような形ができあがっているということですね(社台は売った時点で利益が確定するので収得賞金で業績が左右されないようリスクヘッジされる)。
 
で、そのクラブ馬主ってどんなものがあるのよってところなんですが、まとめるとこんな感じ。
 

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あら、競走馬のわりに案外お安い。
募集口は40~500口程度となっており、要は500口のクラブであれば3千万円の馬であっても6万円払えば出資できます。
出資価格はそのとき限りのイニシャルコストであり、あとはクラブ法人の月額会費と馬の月額維持費(500口の馬であれば千円/月程度)が必要となる費用です。
例えば500口のクラブ馬主で、3千万円の馬に1頭だけ出資しようと思えば、出資時に6万円払って月額で会費と維持費を5千円/月程度払うイメージ。
 
出資金は馬によって大きく異なります。ディープインパクト産駒の超良血であれば1億円程度はしますので、500口で割っても20万円。
一方で、実績の少ない種牡馬産駒であれば2千万円以下の馬もザラにありますので、仮に2千万円とするならば500口で割って4万円。
 
そんな感じで、ちょっと働いているような人であれば、値段的には普通に手が届く水準なんですよね。PS5買うより馬に出資する方が安いなんてこともある。特に一口馬主の特徴として「時間がかからない」というところがあるので、「カネはあるけど時間がない」となりがちな人にはドンピシャの趣味だと思います。
 
趣味には「お金と時間」の二律背反問題が付き纏うと思うんですけど、一般的に学生時代は「お金:かからない 時間:必要」な趣味に向いていて社会人になると持てる資源の関係から「お金:必要 時間:かからない」の趣味にシフトせざるを得ません。これは仕方ない。人生はそれがどのようなものであれ配られたカードで勝負するしか方法がないのだ。わりとそれを解決するのが一口馬主
 
「報酬へのアプローチ」問題ってありまして、報酬へは本来ならば自分の足で歩いていって手にするのが正しい姿。しかし、それが叶わないならば、金を払ってでも報酬の方から歩いてきてもらうしかないのだ!言ってみれば人生のスケジュール表にレースのイベントマスを埋め込むようなもので、自動的にイベントが発生するので、イベントを発生させる工数を使う必要がないんですよね。時間がないと本当にこれがありがたい。
 
自分が出資した馬がJRAのレース走ってるのをテレビで見るの、実際にやってみてわかりましたけど、応援してる馬がGⅠ走ってるのと変わらんかそれ以上の楽しみを新馬戦や未勝利戦ですら味わうことができるんですよね。仔馬の頃に出資して、成長を見守ってきた「きみの愛馬が」マジで競馬場で走っとるんですよ…。
 
仔馬と書きましたが、出資の募集があるのは一般的に1歳の6月~9月頃なので、出資してから出走するまでに1年以上あるんですよね。なので、かなり息の長い趣味になります。その間、定期的に会報やメールで愛馬の成長やトレーニングの様子、怪我・病気にかかったときの状態などが送られてくるので、一喜一憂しながら1年を待つことになります。ちなみに私の場合、後述のとおり色々あって出資してから初出走まで1年半くらいかかりましたが…。
 

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で、一口馬主は「出資」ですので、愛馬がレースに出て賞金を稼いでくれれば、馬主の懐に入ってきます(消費税取られるんだ…という驚き)。

馬主は賞金額の80%を得ることができますが、クラブ馬主の場合は運営手数料も多少取られますので、一口馬主への分配対象は賞金額の70%弱ですね。
例えば500口の馬が生涯収得賞金が1億円だったとすると、7千万円を500口で割って、1口出資の場合は総額14万円回収と、そういうイメージです。実際には1億円獲得する馬に巡り会える確率は低いので、基本的には儲からないと思ったほうがいいです。
 
ただ、一口馬主の場合、愛馬がレースに出ること自体が楽しいので、出資金も月額維持費も掛け捨てくらいのイメージで持っているので、レースに2着で入って数千円稼いできてくれるだけでマジでメチャメチャ嬉しくなるからヤバいですよ。「よく頑張った!」って感情が心の底から出てくる。人はおそらく淡々と人生を生きていくことは不可能であり、生活の中で多少こういった彩りを得るために、そういった投資を行っていくことも必要なのだと思いますね。
 

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一方で、実際に儲かる話もあるにはあるわけで、参考までに夢のある話をしますと、サンデーTCのジェンティルドンナは、牝馬三冠や2012年と2013年のジャパンカップを連覇した名馬ですが、総獲得賞金が17億2602万円となっていて、5077%もの投資回収率を計上しています(出典:一口馬主DB)。
ジェンティルドンナは募集口数が40口だったので、1口あたり4315万円の配当となっています。まかり間違ってジェンティルドンナに出資してたら、それだけで家が1軒建ってしまうんですよね。ファストタテヤマの馬券を買って家をタテヤマ!とか言ってる場合じゃなかったでほんま。
 
 
ここから自分の出資体験記なんですが、初めて一口馬主で出資したのは2019年の夏で、選んだのはシルクホースクラブでした。
理由としては、500口ということで1口価格は割安ながら、勝ち上がり率が高く安定した馬主成績を残してたからです。
 

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6頭応募して当選したのが1頭。ちなみに、特にシルクやキャロットあたりの一口馬主は人気が高く、出資もかなり競争が激しくて、抽選に勝ち抜かねば金を出す権利すら与えられません。
 
ラブリーデイの初年度産駒ということで実績未知数なんですが、馬券買った後と同じで、何もかもがよく見えて仕方がない。偶然選んだ(当選した)この馬は、歴史に残る名馬なのではないか。1分の1で大当たりを引いたのではないか。2年後の2021年の日本ダービーはこの馬が取るのではないかホンマ申し訳ないでぇなど勝利の確信が頭をよぎる…! 
 

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2019年9月のメール。鞍!鞍がついた!一口馬主、こういったメールを定期的に送ってくれるのがいいんですよね。1年後のデビューに向けて大きく育ってほしい。そして2年後の日本ダービーをとってほしい。

2020年1月。公募の結果、名前は「ベルンハルト」と名付けられました。そういや応募するの忘れてた。一口馬主のいいところとして、馬名が公募ってのがあって、アーモンドアイとかオルフェーヴルとか、命名した人は気分良かったんだろうなと思います。その後も順調にトレーニングを続けていって、年が明けて坂路調教も入ってきた。ハロン15秒とタイムもそこそこで順調順調。
 
3月。世間は新型コロナウイルスで大騒ぎとなっており、株価は暴落。そんな中でも順調に調教が進められています。これはデビュー早そうな気がする。日本ダービーの前に朝日杯獲ってしまうか??
 

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暗雲漂うのは5月から。左脚をぶつけたらしいけど、「患部を縫合」とあり、もしかして結構重い…?
早く直してトレーニング再開できるといいけどな、程度の感覚でこのときは思っていました。
 
6月には右脚を故障。同期はパラパラとデビューが始まっており、シルクの会報でも初勝利!なんて馬が出てきた。
この時期にトレーニングできないのは後々の成長を考えてもつらい。というか怪我だらけなんだけど無事デビューできるんですかね?
 

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7月にはノドの病気まで発覚。呪われ過ぎやないですか。

その後、ノドは2回手術し、何とかトレーニングできる状態まで戻るも、ダービーどころか走る走らないレベルの問題になってきた…。
競走馬って結構ノドに病気を持ちやすい傾向があって、呼吸器の問題だけあってノドは競争能力に強く影響し、ノド関係の病気を発症した馬で大成する馬はほとんどいないんですよね…。
 
それから術後のトレーニングを何とかこなし、半年後の2021年1月24日。
ようやく小倉競馬場での新馬戦に出走することになりました。出資してから、かれこれ1年半経っていました。2回のノド手術から半年、ここまで辿り着いただけで感無量ですよ。多くは望まない。無事に一周回って戻ってきてほしい。そして贅沢は言わないから1着の賞金咥えて帰ってきてほしい。
 

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結果2着!
スタートは悪かったですが、道中で後方からまくるような形で上がっていき、直線で外から伸びるも僅かに届かずというレースぶりで、騎乗した団野騎手はよく乗ってくれたと思います。正直、調教のタイムがクソみたいに悪い馬なのでボロ負けも覚悟してたんですよね。
ところで前売の時点ではベルンハルトは1番人気だったんですけど、こうやって馬主サイドからの情報を持ってると「これで1番人気は飛ぶでしょ」ってわかるのは勉強になりました。
 
ちなみに次に出走した未勝利戦では4着だったんですが、その後また脚を悪くしちゃって4月現在放牧中です。
3歳未勝利は8月で打ち切りなので、勝ち上がってJRAに残るにはあと4ヶ月しかないというヤバい状態なのですが、近況メール見てると体重がブクブク増加してお過ごしになられているようなのがめっちゃ心配。お前あと4ヶ月しかないんやぞ…。
 
次の未勝利戦がまさに勝負の一線になると思うのですが、こんな感じなのを知り合いに話したら「貧しい時代のダビスタみたいだな」と言われ、まさにそのとおりだなと思いました。
信長の野望ダビスタも貧しい時代が一番面白いんですけど、一口馬主はまさに貧乏時代のダビスタがリアルで遊べる感じです。
 
日本で年間に生産される競走馬は年間7000頭以上と言われます。
一方、年間に開催されるGⅠの数はたった24。GⅠをすべて違う馬が勝つという前提で考えても、GⅠを勝てる確率は単純計算で0.3%しかない狭き門。そもそも未勝利戦で1勝を挙げられる確率ですら約3割強という厳しい世界なんですよね。
 
一口馬主をやるとGⅠに出走できるレベルの馬ですら超スーパースターに見えてきますし、ましてやクラシックを勝つような馬とか天上馬。だいたい18頭とか出てくるレースを連戦して殆ど負けないって、考えてみれば異常ですよ。
競馬界というのは本当に裾野が広いんだなという、天を見上げたモブの気持ちを肌感覚で味わわせてくれます。
 
 
ところで、最初の方で権利関係のややこしいクラブ馬はウマ娘に出てない的な話をしたの覚えてます?
実は例外として一頭だけ、一口出資ができた馬でウマ娘に出てる馬がいるんですよね。このウマです。
   

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タイキシャトル。生涯戦績13戦11勝。
一口馬主の話をしてきたレベルからするともはや神々の領域みたいな戦績ですね。
さっき掲載したクラブ馬主まとめの大樹レーシングクラブに所属します。 
 

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タイキシャトルは、負けた2戦も3着以内には入っており、いずれも1400M以下の短いレースで、マイル戦(1600M)に関して言えば、海外GⅠ含めて7戦7勝と生涯一度も負けることはありませんでした。今現在でも「日本競馬史上最強マイラー」と言えばタイキシャトルを挙げる人は多いです(netkeiba.com主催の「競馬ファンが選ぶ平成最強マイラーランキング」1位)。
 
デビューこそ3歳4月(年齢表記は現在基準)と遅かったものの、1つの2着を挟んで、3歳冬にはマイルCSスプリンターズSを勝つなど、一瞬で日本短距離界のトップに躍り出ました。あまりに規格外の能力に陣営は海外挑戦を判断。翌年の安田記念でも香港馬オリエンタルエクスプレスをぶっちぎって1着を取った際には、三宅アナに「もう日本に敵はなし!」と叫ばれ、日本競馬初の欧州GⅠ勝利を期待されていました。
 
そして迎えたフランス遠征。フランスのマイルGⅠの最高峰ジャックルマロワ賞に挑戦することとなりますが、その前週に同じくフランスのGⅠモーリスドギース賞に挑戦して日本馬初の欧州GⅠ勝利を手にしたシーキングザパールの森調教師が「来週のタイキシャトルはもっと強いですよ」と発言したことで、「日本からヤベー馬が来るらしい」と評判になり、なんとタイキシャトル単勝は1.3倍。海外レース初出走の馬の評価ではないレベルになってしまいます。
 
しかしやはりタイキシャトルは強かった。ジャックルマロワ賞は直線だけのレースなのですが、道中前目につけると後半先頭に立ちそのまま押し切ってゴール。フランスでも前評判どおりの強さを見せ帰国したタイキシャトルは、続くマイルCSでも2着馬を5馬身ぶっちぎっての1着。
引退レースとなったスプリンターズSでは体重増が影響し3着に敗れて生涯唯一連対を外すも、海外GⅠ制覇含めた圧巻の成績で短距離馬としては国内初の年度代表馬に選ばれます。
 
今でもそうですが、競馬界では2400mを中心としたクラシックディスタンスを勝てる馬が最も評価が高く、短距離馬が年度代表馬に選ばれるというのはほぼないんですよね。言ってみれば、前例を覆すほどタイキシャトルが抜きん出た成績を残したという裏返しでもあります。
ちなみに同年のフランスの代表馬顕彰での最優秀古馬にもタイキシャトルは選ばれています。海外で顕彰馬ってえらいことですよ。
 
なお、一口馬主に話を戻すとタイキシャトルの募集価格は5千万円でした。獲得賞金が6億1549万円なので、回収率は1231%ということになります。これまた馬主孝行な馬ですね。
それでも馬主としては、出資したお金が10倍にもなって返ってきたことよりも、ジャックルマロワ賞という権威ある海外GⅠを勝利し、日本の短距離馬として史上初の年度代表馬になった馬に関与し、レースの結果に一喜一憂できた思い出のほうが遥かに価値を感じたのではないですかね。
 
思い入れの数が多いほど、人生は楽しくなる。
「きみの愛馬が」JRAのターフを走る一口馬主、思ったより面白かったのでお伝えしておきます。まだ1勝もしてないんですが…。