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DLEの決算書に見る粉っぽい兆候について

世の中に「正しい」ものってあるんですかね?
例えば「青」という色だって、あなたと私で「青」と認識している色が果たして同じ色なのかどうかわからないですし、人間の認識の確かさなんてそんなものですよね。
ただ一つだけ確かなことがある。今、あなたがこの文章を読んでいることです。そうですよね。伝わっていますか?今、頭の中で文章を再生していますよね?色々と不確かなことの多いこの世の中ですが、それだけは確かな事実。
そして今、この瞬間は、それだけが全てだ!私を超えてみろ!!
 
アーマードコアの新作が出ないあまり頭がレイヴンになっていたようです…。大変失礼いたしました。
ただ、例えば決算書にしても同じことが言えるんですよ。決算書って、言ってみれば経理の人が1つ1つ作った仕訳処理の集合体に過ぎませんし、人間が作っているものですから、そこには故意や間違いが含まれ得ます。それに対して、大企業であれば、プロの第三者である監査法人がお墨付き出してくれてるから「まぁ正しいのかな」くらいのレベルで認識しておくべきものです。もしかしたら、作った人とあなたでは違う決算書が見えているのかもしれません。
 
「鷹の爪団」で有名なDLEの粉飾がバレたらしいですね。第三者委員会の報告書自体は去年の11月に出てたんですが、今ごろ内容見ましたので、ザッとその話をします。ちなみに「粉飾」と「不適切会計」と「不正会計」の違いが学のない私にはわからないので、ここでは「粉飾」で統一します。区別がつく方は頭の中で読み替えていただけると幸いです。
 
まずは粉飾決算と実態決算の数字から。
 

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グラフだけだとどう違うのかパッと入ってこないですね。なので、差分を数字で並べたのがこちら。
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平成26年度から平成28年度にかけてのストレッチがすごかったようです。特に平成27年度なんて売上高の修正分に等しいくらい利益が吹っ飛んでる。DLEがマザーズに上場したのが平成26年3月、東証一部上場に指定替えになったのが平成28年4月。そうだね、東証一部行きたかったね。
一方で、平成29年度、平成30年度では、正しい決算処理をするとむしろ利益が増えてしまったりするようです。一体何が起こったのか確認するために第三者委員会の報告書(リンク先PDF)を見てみましょう。
 
ただ、あまりに様々な案件で粉飾やり過ぎた結果、第三者委員会の報告書が174ページもあって読むのが大変ですので、影響の大きかった処理をまとめるとだいたい以下3点に要約されます。(余談ですが、報告書を「認められない」で検索すると50件ヒットして大変楽しいです)
 
  1. 通常であれば作品を作って納品して検収を受けてから売上を立てるところ、制作が合意に達した段階でその総額の20%を「企画売上」という名目で勝手に計上していた。
  2. 製作委員会から制作を受注したA社がA社の子会社のB社に再委託するところの間に入って、実態がないにも関わらず利益5%の利益を得ていた。5%の利益分についてはそのまま製作委員会に出資金として拠出していたが、分配金はA社に回していた。すなわち、実態のない取引で利益を架空の利益を計上したことに加え、分配を受け取る権利のない資産性のない出資金を計上していた。
  3. 役務を提供した事実のない案件に対して架空の売上を計上していた。
 
このほか、納品時期の前倒しや費用の繰延べ処理、契約前に売上計上など色々ありますが、言い出すとキリがないレベルなので大きいところの3つを要点として考えていきます。あと、色んな案件があるので1つの手法について微妙に違う処理をしていたりもするのですが、そんな細かい違いの話をしても意味がないので、手法単位で代表的なやり方について話をするようにしています。
 
まずは1についてですが、一言で言うと「売上計上時期の期ズレ」です。
会計基準をちゃんと守ると、役務を提供して対価が成立することが売上計上の要件となりますので、本来であれば発注側が「そんなの知らんがな」ってなるようなのを売上に立てることはできないのですが、そこを「まぁ2割くらいは企画料と言えるのではないか」と勝手に判断して、案件の合意段階で受注額の20%を企画売上(DLEでは「プリプロ売上」と呼んでいた)として計上したものです。
 
このとき、受注額の総額自体を水増ししたわけではないので、実際に納品する後の期から、前の期に売上が移動することになります。
なので、「売上が目標に届かず増やしたいが何とかならないか」ってときにこれが使われるわけですね。契約書の文言に「企画料20%」と入れることを取引先が拒否した案件や、他社が企画した案件まで20%の企画売上を立てていたあたり、やりたい放題という感じで、スカッと生きてやがるなという感動があります。
報告書に掲載されていた証拠のメールに「吸わせてください」という言葉の意味はこの売上の移動を指します。
 

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 ただし、費用についてはズラしていないため、前期においては20%の売上増加分が丸々利益に化けますが、本来制作売上を計上すべき期については、売上が20%前期に吸われている一方、費用はそのままとなりますので利益的には苦しくなります。DLEのメールには、「赤が先行する」と書かれており、それを確かに認識していたものと思われます。なので、粉飾って一度やりだすと止められないんですよね。架空に黒を持ってきているので、やめた瞬間に赤を吐くことになるから。

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項目2番の処理はちょっとややこしいですね。
製作委員会が作品の制作を発注するにあたり、A社という会社に発注したのですが、A社はA社の子会社であるB社に制作を再委託しようとしました。そこにDLEが間に入り、A社から売上100で受注してB社に費用95で発注します。つまり、DLEは5の利益を手にするわけです。
DLEは手にした5の利益をそのまま製作委員会に出資。これによりDLEの手元には5の利益と5の出資金勘定としての資産が残ります。
 
まさに錬金術ですね。DLEは何もしてないのになぜか利益が出ました。すごい。
ただ、資金の流れから見ると、A社はDLEに100を渡して、DLEはB社に95を渡して、DLEは製作委員会に5を渡しています。製作委員会の上げる収益から得られる配当はA社が得ます。つまりDLEは資金から見ると1円も得をしていない。
 
DLEの行った処理には2つの問題があって、そもそも実体のない取引について売上を立てることはできませんし、実態のない発注もしてはいけません。これにより売上100、費用95を計上した妥当性が認められません。また、出資金5についてもDLEが収益配当を受け取る権利がないのだから、出資金としての資産性が認められません。
 
3番目は工夫がなさすぎて身も蓋もないのですが、A社と製作委員会を組成する旨の同意が行われていない案件について企画売上を計上しているものです。完全に架空売上ですね。一体何に基づく売上なのか、金額の根拠は一体どこからやってきたのか、一体誰が払うのか。当然案件の実態がないわけですから費用もない。売上立てた分全部利益。なんて儲かる案件なんだ。
まぁ売上なんて帳簿に仕訳一本切っちゃえば机上で計上できちゃうんで、追い詰められた会社なんてこんなもんですよね。ちなみに、売上とともに計上された売掛金は、後に回収されたように見せかけるためにA社に対して前払費用という名目で拠出され、還流してもらう形で回収しています。こんなDLEのわがままにA社結構付き合ってて優しいよね。どうしてこんなに優しかったんだろうね。
 
ところで、複式簿記って考えた人偉いなーってたまに思います。
複式簿記自体はもっと昔からあったらしいのですが、15世紀、それを『スムマ』という本に体系的に残したのがイタリア人のパチョーリというおっさんです。人類が商取引の蓄積である経済社会を作るにあたっては、複式簿記という記録言語の存在は欠かせないものでした。
 
複式簿記のすごいところは、必ず処理の足跡が残るんですよ。必ず「借方/貸方」と両方を一致させるように仕訳を切るので、例えば貸方の科目である売上を計上するならば、借方の科目に何か入れなければならないんですよね。
通常、売上であれば、売上に対する債権である売掛金が計上されます。すなわち「売掛金100/売上100」みたいな仕訳を切るわけですね。で、実際回収を行った時点で「現預金100/売掛金100」という仕訳を切って、現金の回収をもって売掛金を消し込みます。
 
このとき、架空に売上を計上したとして、回収が行われなければ(当然架空売上は回収できないので)売掛金は膨らみ続けることになります。
DLEの「企画売上」にしてもそれに近いところがあります。相手が認識してない売上を勝手に前倒し計上したところで、実際に制作が終わって納品するまで相手は売掛金を払ってくれるはずがないので回収は長期化します。
 
その結果、売上を前倒し計上したり、架空計上したりしたDLEの売掛金はこのように推移します。
 

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 「売掛金回転期間」というのは売掛金を月商で割った金額となります。要は「月の売上を何ヶ月後に回収しているか」という平均値です。
平成27年度のピークの数字を見ると、5.71ヶ月。へー、DLEさんから納品を受けたら支払いを半年も待ってくれるんですかー。ありがたいですねー。資金繰り大丈夫ですか?という数字となります。もちろんこれは売掛金を「平均月商」で割った数字なので、粉飾でなかったとしても、例えば期末に駆け込み需要があり、最終月だけ多額の売上が立ってしまった場合は、売掛金が平均月商比で大きくなりますので、売掛金回転期間も大きくなります。また、例えば京都の呉服屋さんのように昔からの「師走払い」が生きている回収期間の長い業種も存在しますので、単純に数字だけを見るのではなく、業種や実態を見たり、何期か決算書を並べてみて傾向を分析することが重要です。
 
しかしそれにしても長い。平成28年度にしても平均約4ヶ月後に回収とか長すぎる。だって元々回転期間1.61ヶ月の会社でしょう?取引条件変えたとかあるかもしれませんが、いくらなんでも数年で変わり過ぎじゃないですか。
わかりやすいわかりづらいという程度の差こそあれ、異常な処理を行った足跡の残らない粉飾決算は1つも存在しないのです。
 
なお、DLEでも回収できない売掛金があまりに多いのはマズいと思ったのか、売掛金を出資金との振替処理を行っています。その結果、売掛金と出資金の推移についてもこんな感じになっています。
 

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 平成29年度、平成30年度の粉飾決算を修正したらむしろ利益が出ていたのを覚えていらっしゃるでしょうか?
本来出資金とすべきでないものについて出資金としたうえで、(粉飾決算において)平成29年度等に減損処理をしたわけですが、本来は前の期に損失処理すべきものだったので、実態に修正するとむしろ利益が増えたわけです。
 
ちなみに粉飾の修正を行った実態決算における売掛金の推移はこちら。
 

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 これでも2ヶ月超えてきて、売上の回収が翌々月払いが平均くらいということになるので、「ちょっと長いかな」くらいの感触はあるのですが、まぁ許容範囲かなという感じです。
 
やりたい放題やった結果、売掛金と出資金の推移がやんちゃなことになったのはわかりました。しかし、細かく見ていくのも手間が掛かるし、もっとパッとわからんのかいなという話もあります。
 
そんなときはキャッシュフロー計算書を見てください。決算短信だと下の方にあるこれです。
 

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例えば求人出したら履歴書に「ハーバード大学卒」とか書いた人が来たらちょっと疑いますよね。もしかしたら本当にハーバード出ているのかもしれないですけど、普通は何らかの確認を取るのではないでしょうか。
これは決算書も同じで、いくら利益が出ていたとしても何らかの数字とぶつけて確認したものでなければ、その利益を頭から信じる根拠がないのです。
 
そこで使うのがキャッシュフロー計算書。これを決算書とぶつけて考えていきます。
というのも、キャッシュフロー計算書は期首現預金残高と期末現預金残高が最初と終わりに出てきますけど、現預金の残高は銀行の残高証明と一致させますので、ここを粉飾するのって不可能とはいいませんが相当困難なんですよね。なので、どれだけ収支を粉飾しても、キャッシュフロー計算書との整合性が取れなくなることが多いです。
 
DLEの場合も売掛金残高が6億円くらい急に増えていて違和感がありますね。ここで「売掛金異常だな」って気がつくから、「なら売掛金の月商比も見てみようか」と繋がっていくわけです。キャッシュフロー計算書はとにかく異常値勘定の発見が楽です。
 

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 ちなみにこれがキャッシュフローの推移。平成27年度の1期だけならまだしも、黒字が続いている会社のはずなのになぜか毎期営業キャッシュフローはマイナスで、株券刷って資金調達しているのが一目瞭然です。赤字の会社ならまだしも、黒字の会社が株券刷っているのはその理由が確かにあるのです。
 
しかし、わざわざ毎回キャッシュフロー計算書見るのも面倒ですよね。もっと楽な方法はないものか。
それが、あるのです。決算短信の1ページ目を見てみてください。 f:id:rikzen:20190217213712p:plain
 ここに当期純損益と営業キャッシュフローの数字が書いていますので、ここの数字があまりにも違うようであれば、それを気づきとすることができます。厳密に言うと、当期純損益に対して現金の支出を伴わない減価償却費の数字を足すと営業キャッシュフローに近くなるのですが、ここはいわゆる端緒を見つけるような作業なので、まずはアバウトで良いです。
「2億の利益って書いてるのに営業キャッシュフローはマイナス3億ってどういうことやねん?」という気付きだけあればそれで良いです。最初のページなので楽に見れますね。
 
これがDLEの粉飾決算についての概要です。
 
でも、結局どんな粉飾してようが明らかになった後ではどうでもよくて、重要なのは「粉飾というのは事前にわかるのか」という話ですよ。
粉飾決算なんてわかった後で言われても困るんですよね。株買ってたら損しちゃうし、取引先だったら貸倒れになるかもしれない。「粉飾でしたてへっ」とか言われても、回収金額は1円も増えないわけですよ。情報は先にわかるから意味があるわけじゃないですか。
 
粉飾が発覚して第三者委員会の報告書が出てきてからじゃ情報の価値がない。
けど、見れるのは決算書くらいの情報量しかない。結局問題はそこにつきます。
 
でも、もう解決策はわかるはずです。
ここまでこのクソ記事を上から順に読んできていただいたと思います。これは既に明らかになった粉飾について説明したものです。
次はザッとでいいので下から上に見ていってください。これが明らかになる前の粉飾を解明するときの流れです。
 
すなわち
  • 決算短信の1ページ目を見て
  • 当期純損益と営業CFの差があまりに大きいならキャッシュフロー計算書を見て
  • 増減の大きい異常な勘定があれば、売掛金の回転期間を計算するように理屈に合うかどうかを考えて
  • それでも自分の中で納得がいなかければ粉飾のストーリーがあることを疑ってください
必ずしもこれで全てがわかるものでもないですが、この順序で見ていけばかなりのものは抑えられるとは思います。
 
それでも忘れてはいけないのが、決算書とは天から降ってくるものではなく人間が作るものということ。粉飾は人為的に行われているものであり、あくまで人間の問題なんですよね。この世に悪があるとするならば、それは人の心だ…。
 
粉飾に手を染めた人に話を聞くと、ちょっと意訳ですけど大体こういう事を言うんですよ。
「私はただひたすらに強くあろうとした…そこに私が生きる理由があると信じていた…やっと追い続けたものに手が届いた気がする」
このあと「レイヴン…」とか続きそうな台詞ですが、強くあろうとする人間は弱いですし、逆説的ですが弱さを認められる人間こそが強いということでしょう。
 
決算書は人の心を写す鏡。我々はときに数字を介して、鏡に映り込んだ人の心の弱さを目にすることがあります。だからこそ粉飾決算がいかに悪かろうが、この先も永遠になくなることはないでしょう。だって、にんげんは弱い生き物だもの…。