当たり判定ゼロ

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ケイブがしんどい

何がしんどいかというとお金が無いです。みなさん手元のお金は十分でしょうか。お金がないというのはつらい。とてもつらい。お金というのは幸せの十分条件ではなくとも、必要条件ではありうるのでしょう。少なくともお金が減るということに頭を悩ませる必要がないというのは、とても恵まれた人生であることに違いない。
 
ともあれケイブです。かれこれ7年くらいしんどい状況が続いていますが、最後に調子の良かった平成23年度からの収支状況を並べてみると、以下のとおりとなります。いずれも5月決算で、売上高と最終損益を記載しています。
 

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平成23年度は売上30億円に当期純利益4.3億と好調。同年の決算説明資料には「前期の最終赤字から脱却し、ソーシャルアプリを中心とした事業構造への転換に成功した期。そして、新たな成長のスタートの期」と記載されており、ソーシャルを中心とした成長戦略を宣言しています。
確かに翌平成24年はあのパズドラのリリース年。そこからのソーシャルゲーム市場の拡大はみな知るところであり、市場の狙い自体に誤りはなかったとは思われますが、その選択がケイブの悪夢の始まりでした。
 
従来のSTG偏重から脱却したもののとりたててヒット作を打ち出せず、平成26年度に当社得意ジャンルであるSTGベースのソシャゲ『ドンパッチン』をリリースしたものの、世間のソシャゲが射幸心を美術的価値で煽っていく中、「誰が欲しがるんだ?」としかコメントのしようのない100円菓子のおまけみたいなロボットのキャラクターや、STGなのに敵にダメージを与えるにはキャラの性能がメインでSTG部分は攻撃を行うための作業にしか過ぎないゲームシステムや、ゲームの世界を案内してくれるロボ(いわゆる千川ちひろポジ)に全く可愛げがない等、やや狂気性すら感じる問題だらけの怪作でした。挙句の果てに「ゲーム性や世界観が独特なため継続率とLTVが低い」と決算資料で自虐しだす始末。
 
そんなわけで平成27年度決算まで売上高は毎年減少を続けていくのですが、やがて転換点が訪れます。
平成27年4月に『ゴシックは魔法乙女』をリリース。ケイブは5月決算ですので、平成28年度からフルで業績に寄与することになりました。平成27年度は『ゴ魔乙』リリース前の広告宣伝費が嵩み、当期損益は約7.2億円もの大幅な赤字となっていますが、平成28年度は『ゴ魔乙』の売上で一気に黒字転換。
 
この「先に宣伝投下してユーザー集めてあとからガッツリ回収する」というもはや伝統ともなったソシャゲのビジネスモデルですが、平成28年度まで切り取ってみれば、ここでV字回復を果たしたように見えます。ケイブの苦しかった時代も『ゴ魔乙』のヒットで終わりを迎えたのか。
 
しかし、平成29年度には『ゴ魔乙』も失速。そしてその流れが現在まで続く、というのがケイブが歩んできたこの数年の大まかな流れです。
 
いやー赤字ばかりですね。かつてのケイブは優良企業で、波はあれど基本的に2~3億円程度の営業利益を稼ぐくらいの企業、という目安がありました。「ソーシャルアプリを中心とした事業構造への転換に成功した期」という宣言から7年。もはや昔年の収益力は見る影もなく、今のところこのソシャゲレッドオーシャンにおいて完全に『負け組』となってしまった企業と言えましょう。
 
本題はここからです。
 
ほぼ7期連続で赤字基調、それも売上20億程度の規模の企業が、単年で7億円以上もの赤字を出したりしているわけです。
売上20億で現預金45億持っている日本ファルコムでもあるまいし、普通の企業であるならば、ここで一つの疑問が湧くはずです。
 
「何故お前はまだ生きてるのだ…?」
 
こういう漫画の敵役みたいなセリフ、一回は吐いてみたいですね。
 
結論から言うと、それはキャッシュフローを見て分析するのが一番です。決算の記事など見ていると「利益○億円!」のような数字が踊りますが、キャッシュフローというのは利益と同じくらい、ときには利益よりも遥かに重要な指標となります。上場企業の決算資料にはキャッシュフロー計算書がついていますので、ぜひ見てみてください。
以下、キャッシュフローを「CF」と略します。
 
簡単に説明すると、企業のCFは、企業が商売で稼ぐ「営業CF」、固定資産に投下する「投資CF」、資金調達や借入返済を現す「財務CF」の3つから構成されます。
そのうち、「営業CF」と「投資CF」を合計したものを「フリーCF」と言います。「フリーCF」を見ると、その企業にお金が足りているのか足りていないのかがすぐに理解できます。
 
例えば、事業が黒字で営業CFが1億円あるけれど、ソフトウェアの開発のために投資CFが▲5億円かかったとします。このとき、この企業のフリーCFは▲4億円となりますので、4億円銀行から借りてきて財務CFを+4億円とすると、前期からの現預金の変動が0円となります。銀行から借りて来なかったとすると、フリーCFが▲4億円で、財務CFが±0円なので、前期から現預金が4億円減少するわけですね。
なので、利益が上がっていても現金が足りなくなるということがあり得るわけです。
 
式にするとこんな感じです。
 
 前期末現預金+フリーCF+財務CF=今期末現預金
 
それを踏まえてケイブの数字を見ていくとどうでしょうか。
 

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黄色が現預金残高となりますので、ご確認ください。前期末の現預金(黄色)にフリーCF(青色)と財務CF(赤色)を足すと、今期末の現預金になる流れがわかるのではないでしょうか。黄色の現預金が0になると死にます。実際には0円になる前に資金繰りがつかなくなって支払いができなくなることはわかりますので、その時点で倒産や民事再生になるわけですが。
 
ケイブというのは、元々毎期安定した利益を計上する優良企業でしたので、平成23年度末の時点で現預金が12.3億円もあります。それが、平成24年度以降の赤字であれよあれよと減少し、平成26年度末には5.5億円にまでなります。
 
ポイントはそこからで、平成27年度以降のフリーCFを見てみると、平成27年度は▲7.2億円、平成28年度は僅かにプラスとなったものの、平成29年度は▲3.2億円、平成30年度は▲2.7億円と、本業での資金流出が続いています。
 
しかし、赤色バーが示す財務CFで、平成27年度は+4.5億円、平成28年度はほぼプラマイゼロ、平成29年度は+3.5億円、平成30年度は5.1億円と資金調達をしているからこそ、本業での資金流出が続いても現預金がプラスのまま資金繰りをつけることができています。この資金がなかったと思うとゾッとしますね。
 
キャッシュは企業の血液に例えられる事が多いのですが、ケイブの場合でいうと平成26年度末でほぼ現金が枯渇し、さらに出血は止まらないものの、外部からの輸血を続けることで何とか生きながらえているという状態です。
 
誰? 平成26年からケイブに13億円も資金出してくれたのは誰?
 
実はケイブ平成27年度以降、新株予約権による第三者割当増資をやりまくっており、平成27年度は大和証券、平成29年度も大和証券、平成30年度は株式会社フォーサイドとSAMURAI&J PARTNERS株式会社に株を買ってもらっています。
端的に言えば、商売でいくら資金流出しようが、株券刷って誰かに売りつければ資金繰りという観点からは回ってしまうわけですね。
 
こういう会社は世の中に腐るほどあって、フリーCFが足りない分、銀行から金を借りて財務CFで補えば回ってしまうので赤字でも潰れないけど、借金が膨れ上がっていっていずれどん詰まりになってしまう構造を抱えています。
事業再生スキームだと、「数年後までの出血量を見積もってファイナンスし、その猶予期間にフリーCFの出血がなくなるように事業を立て直す」というプランを立てることがありますが、そのとき、2つの問題を解決しなければなりません。
出血を止める方法を探すことと、出血が止まるまでのスポンサーを探すことです。ケイブの場合どうでしょうね。
 
つらいのが、調達した資金を広告宣伝費として既に使ってしまっている点。攻めの経営判断だったといえばそれまでなのですが、つまり、既に失敗した事業のために金は使ってしまっているので、これからの事業を立て直すための金が別途必要なことですね。ゲームを売らなければ金が入ってこないのに、ゲームを作るための金がない。服を買いに行くための服がない!
 
ならば誰か服を買いに行くための服を貸してくれないかと次なるスポンサーを探す必要があるわけですが、平成30年5月にフォーサイド社等の第三者割当増資の引受を発表した資料には「本第三者割当増資を選択した理由」としてこうあります。
 
「間接金融(銀行借入及び社債)による資金調達は、当社の事業内容が、スマートフォンネイティブゲームという多数の競合他社が存在する市場であり、開発費や広告宣伝への先行投資資金を確実に回収できるかどうか不明確な状況であることから、事実上調達が困難な状況にあります」
平たく言えば、銀行も投資家も金貸してくれる状態にないですわ、ということですね。なお、他の直接金融手法にしても、必要金額が確実に集まるか不透明なので、「確実にいくら出してくれるか」わかる第三者割当にした、という説明でした。銀行も金貸してくれないし、公募しても集まるかわかんないから、知り合いに頼んで金出してもらいましたわ、みたいな話。
 
ここでキャッシュフローの算式について思い出してみると
 
 前期末現預金+フリーCF+財務CF=今期末現預金
 
ということでしたね。フリーCFのマイナスが大きい限り、外部からの資金調達を続けなければ結局はいつかお金が足りなくなってしまいます。
助かる方法は2つ。売上を増やすかコストカットによってフリーCFの出血を止める。出血が止まらないなら輸血してくれるスポンサーを探す。このいずれかです。
 
決算時点である平成30年5月末の現預金は6.0億円ですが、平成31年第1四半期である8月末時点では3.4億円減少して残りは2.6億円となっています。あまり時間もありません。
 
まぁここでこんなことを書いても何も解決しないし仕方のないことなのですが、弾幕食べてケイブカルチャーで育ってきた自分としては、STG史で一時代を築いたケイブがしんどい感じになってるのは悲しみがあります。ケイブの場合のフェータルなダメージは、多額の広告宣伝費によるものが大きいと思われますし、もはやこの程度の規模の企業がレッドオーシャンなソシャゲ市場で広告宣伝まで自社で丸抱えして戦うのは苦しい時代に入ってきたんでしょうかね。大企業と組むか、ニッチマーケットを極小コストで狙いに行くしかないのかもしれない。ホームランを狙うにはあまりにもリスクが高くなってしまった。
 
とはいえ、輸血で生きてる状態だけど、何も終わったわけじゃない。
ケイブおじいちゃん早く良くなってこれからも長生きしてね。