当たり判定ゼロ

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「面白かった漫画は~」という上の句が詠まれたら「ワンピース」か「キングダム」の札を取れ

最近肩こりがひどいんで整体行ってるんですよ。美容院でも整体でもそうですけど、ああいう1対1でサービスする業種ってある程度会話が発生するじゃないですか。「連休何してました~?」みたいなやつ。
 
今回も整体師のおじさんに、お正月何してました?みたいなこと聞かれて、ゴロゴロして漫画読んでましたわと返すと「へぇ、何か面白い漫画ありました?」みたいなセンタリングが上がってきたんですね。
 
たまたま『AIの遺電子』をまとめ買いで読んでたんで「アイの…」と言いそうになったところで気がついたんすよ。ダメだ。これを打つとワールドカップクロアチア戦の柳沢みたいにゴールの枠を外してしまう。これは求められているキックじゃない。確実に「愛の遺伝子?」って聞き返されてしまう…。何かエロ本みたいだ。いや、掛詞的にタイトルにそういう意味が込められていないわけじゃないんだけど、話にすると長くなるんだ…。整体師のおじさんにそこまで噛み砕いて説明していく必要ってここであるのか…?
 
大体ゲームや漫画なんかの固有名詞って、音に出して知らない人に説明するのって果てしなく面倒じゃないですか。せめて文字にするなら伝わるけれど、口に出したら伝わらない。『幽遊白書』とかみんな知ってるからいいものの、超マイナーな作品だったりしたら「アルファベットのU?」とか言われかねない。音に出して伝えるのって本当に面倒で難しい。だからラノベの文章調のタイトルの作品なんかは、オタがお互い文字で理解した上でコミュニケートすることを前提としているわけで、最初から一般層への口伝は放棄しているのでしょう。
 
そういう意味では『ワンピース』とか『キングダム』は強い。
キングダム芸人の功績というのは非常に大きくて、『キングダム』の一言で漫画の作品であることに多くの人が頭の中で辿り着いてくれるのでコミュニケーションのコストが低いんですよね。地上波イズ偉大。
 
詠み手が「面白かった漫画は~」と上の句を詠み始めたら、ワンピースかキングダムの下の句が書かれた札を取ってしまえばいいんですよ。ここで求められているのは、本当に好きなものがどうこうという話ではなく、お互い全く違う人生の道を歩んできた者同士がコミュニケーションを円滑に成立させる方法。「これやこの~」と聞こえてきたら「しるもしらぬも~」の札を取ることがルールとして決まっているわけで、自分は天智天皇が好きだからと言って「わかころもでは~」を取ってしまったら百人一首にならないのです。
 
コミュニケーションには定められた手続きがあるのですよ。
 
そう、数日前の私までならそう思っていたでしょう。でも、そうじゃないんですね。それは正しくない姿勢なのだ…。
 
この前『レイジングループ』やってて思ったんですけど、この作品って非常に丁寧なんですよね。
タイトルのとおりループものなんですけど、最初のループはとにかく謎を撒き散らして進んでいくルートで、それこそエンドの瞬間は「???」で終わるものの、2周目、3週目と回っていくにあたって、RPGツクールのフラグ管理かよって感じにちゃんと一つ一つについて理由の説明をしていきます。『うみねこのなく頃に』もこれくらい真摯に説明する姿勢を見せていればあんな悲しいことには…とは思うものの、この「謎の提示→理由の提示」の繰り返しこそが物語のカタルシスの根本でもあるわけです。
 
すなわち、物語の価値は「わからないこと」にこそ由来します。語り手は明らかに情報を制限しながら受け手に物語を伝えることが許容され、受け手はそれを承知の上で「わからないこと」の融解に価値を見出していることになります。
 
これを考え出すと案外広くて、例えば格ゲーだって、相手の読みがわかってしまっては対戦にならないので「わからない」からゲームになるし、価値がある。一見わかりあえているように見える日常系の物語だって、ひとりひとりのキャラクターの性格が違ってお互い「わかりあっていない」から物語として面白いし、本当にわかりあえているなら紅茶飲みながら「わかる~」を繰り返すだけの有閑マダムかって話になってしまう。奴らはお互いを「わかる」しすぎて統合思念体かよってところあるけど、あれはきっと楽しくない。
 
それほど「わかりあえないこと」には価値があるのです。
 
とすると、面白かった漫画を聞かれたとき、私には「AIの遺電子」と答える義務があるような気がするんですよね。「わかりあっていないこと」に真摯に向き合って、相互不理解を融解していくそのプロセスにこそ人間関係の価値があるのだと理解しているのだから。
 
だから言ってやりましたよ。
「キングダム読んでました。面白いですよね」と。
 
私は上の句が流れてきたら、正確に下の句を返すロボット…。