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新米Pが読んではいけない「アイドルマスターシンデレラガールズ入門」

ギィ…(酒場のスイング・ドアを開けて男が入ってくる)

おや、見ない顔だな。あんたもアニメを見てプロデューサー業を始めたタチかい? いや、その目を見れば言わなくてもわかるよ。

いい目だ。あんたはいい目をしている。まだ奴に金を渡していない。熟練のプロデューサーはみんな目が死んでるからな。お前はこの世界に来てどれくらいになる? そうか、二週間か。ようやくこのゲームがわかり始めてきたくらいの新米だな。

俺は、そういう新米にはいつもこう助言することにしている。

今すぐこのゲームをやめるんだ。

ブラウザでやっているなら、今すぐURLをお気に入りから外せ。アプリをインストールしたならいますぐアンインストールしろ。アニメで得られる感動はここにはない。伊集院光を知っているか? 彼はテレビで見せる大人しい姿では「白の伊集院」、深夜ラジオでの姿は「黒の伊集院」と呼ばれているが、シンデレラガールズも似たようなものだ。

アニメ版は白のシンデレラガールズ。ゲーム版は黒のシンデレラガールズだ。ゲーム版は自分がプロデューサーとなってアイドルを育てるものではない。プロデューサーとプロデューサーがイベントで互いを蹴落としながら上位報酬のアイドルを奪い合ったり、アイドルをより高くで売るためにお互いを出し抜くことが当たり前となっている荒野だ。武内Pなどゲームにはいない。あるのはただプロデューサー同士が血で血を洗う争い、そしてそれを笑いながら見ている奴だけなのだ。

しかし、完全にアニメ版とゲーム版が別なのかと言えばそうではない。

たとえば第一話を見ると、島村卯月はこれまで"レッスン"をしていた、と言う。島村は、最初のシーンでは養成所でトレーナーと柔軟体操をしているものの、養成所が映る二度目、三度目のシーンではトレーナーがいなくなっていることに気がついただろうか。一体島村は一人で何をしていたのか。また、これまで一緒に"レッスン"をしていたという仲間たちが映るシーンがある。トレーナー、そして仲間たちはどこへ行ってしまったのか。島村の言う"レッスン"とは果たして何を意味するのか…、と謎を残して次回へ続くが、ゲーム版をプレイしたプロデューサーはすんなり理解できたことだろう。

第二話は”ガチャ”の話だ。プロダクションに入った島村たちは様々なアイドルたちに出会っていく。一シーンだけ登場して次々と切り替わっていくアイドルたち。これはゲームにおける"ガチャ"を映像化したと考えるとわかりやすい。ガチャのおまけとしてエナジードリンクが配布されることがあるが、第二話の冒頭でアシスタントの千川ちひろエナジードリンクを提供しているシーンがあることが、ここから先は"ガチャ"の映像化であることを示唆している。やけに豪勢なプロダクションの建物が映るが、これはガチャが生み出す利益を表象化したものだ。これもゲーム版をプレイしたプロデューサーならピンとくるだろう。

そして第三話は"お仕事"と"LIVEバトル"の話だ。ライブに向けて努力する島村たちはとにかく汗をかいている。ゲームにおける"スタミナ"を消費して経験値を得る現象の映像化といえる。そして最初のライバルである前川ミクに勝利し、お仕事とLIVEバトルの報酬として"ロッキングスクール"の衣装を得る。ライブの最後でコメントを求められ、元気よく答えた島村たちはおそらく一定の"ファン"を獲得したことだろう。

 

このようにゲームの要素は見事にアニメに移植されている。同様に考えると、この先"移籍"がテーマの話があると思うのが個人的に気になって仕方ないところだな。それらを理解するためにゲームをプレイするのは良いだろう。しかしそれ以上は絶対に望むな。お前は、ここに来て二週間だったな。観光には十分な時間だろう。

なぜか?という顔をしているな。お前は他のネットゲームをプレイしたことがあるか? ネットゲームには必ず「先行者利益」というものが存在する。ネットゲームというものは、基本的に自分の時間をゲーム内のパラメータに変換する作業だ。アイテム課金の導入以来、これに課金という手段が加わった。今では、自分の時間かお金とゲーム内の数字を交換する仕組みとなっている。

シンデレラガールズのリリースは今から約3年前。2011年11月だ。先行者に対するこの3年2ヶ月の差を埋めるだけの時間とお金を投入してようやくお前のステージはトントンだ。最近ではぷちデレラという要素も加わったが、これに至っては課金要素が薄く、ほぼ純粋に時間と能力の交換を行う設計だ。お前が追いつく頃には先行者は更に先に行っていることだろう。

いいか、黒のシンデレラガールズは力が支配する荒野だ。この荒野においては、お前は主役じゃない。あとからノコノコやってくる養分にしかならない。アニメだけを見て暮らすのが一番幸せな道なんだ。こんなゲームをやっても時間の無駄だ。わかったらさっさとこのゲームをやめて、今すぐ事前登録すると強力キャラが無料もらえるネイティブゲーでも探して登録でもするんだな。

なに? わからない? どうしてもここで生きていきたい?

わからんやつだな。もう俺は知らんぞ。こんなことを知らずに生きていくほうが幸せになれるものを…。

3年分の遅れを取り戻さねばならんから、今から教えるのは楽な道ではないぞ。奴に金と魂を渡さずに一人前のプロデューサーになれる道だ。いいか、重要なのは泥水をすする覚悟と継続性だ。

アイドルマスターシンデレラガールズには必勝法がある…!

(Aパートおわり)

(CM)

ドブ声)元気と自信にすっぽん皇帝(バババババン!パラパーラッパッパ♪

ヴァイスシュヴァルツにガールフレンド(仮)が参戦! ブシロード♪

(CMおわり)

アイドルマスターシンデレラガールズには必勝法がある…!

少し大げさに言ったが、厳密には資産を手にして成り上がるための攻略法が確立されているということだ。

初めて二週間も経つのだから、「ポイントは守備コストに振るな」などの基礎知識は知っているな。なぜ守備コストに振ってはいけないかというと、このゲームで各種イベントに上位入賞しようとすることを「走る」と表現するが、走る際に必要となるパラメータが、スタミナと攻コストしかないからだ。アイプロやツアー系はスタミナを使用して走り、フェスは攻コストを使用して走る。実利を勘案すると守備を活用する場面はひとつもない。

ここからはこのようなシステム周りの基礎知識は知っているものとした前提で話をするぞ。

仮に「イベントで上位入賞する」というのを目的とした場合、必要なことは3つだ。

まずプロデューサーのレベルを上げること。次に、スタドリ資産を積み上げること。最後に、走るために必要なイベント用消費アイテムを蓄積することだ。

プロデューサーのレベルについては、当面睡眠をキッチリ取らなければ大丈夫だ。初期の頃は、スタミナ等のパラメータが低く、睡眠時間中に自然回復を無駄にしてしまうことがある。自然回復を有効活用するためにも、深夜に定期的に起きるようにしろ。理想はナポレオンだ。4時間しか寝なかったというナポレオンが現代に生きていれば、さぞ素晴らしいプロデューサーになったことだろう。

次に、スタドリ資産を積み上げる方法だ。

まず「シンデレラガールズはアイドルを育てるゲームである」という観念を消し去れ。ゲーム設計上、アイドルの性能は常にインフレしていくのだから価格は下落していく。アイドルを保有することはリスクなのだ。したがって、高価なアイドルを入手した場合は、すぐにフリトレでスタドリに変えること。いざイベントを走る際には、そのスタドリでアイドルを調達するとより性能の良いアイドルが手に入る。

フリトレは銀行なのだ。イベントの前には銀行からアイドルを借りてイベントという事業を行い、終わったら返済する。そういう意識でいて欲しい。アイドルを育てるゲームであるという固定観念が不要なのはそういうことだ。荒野には愛などないのだ。

しかし、そもそも投資用のスタドリをどうやって入手するのかという疑問もあると思う。それには、交換可能なドリンクを入手できる唯一の手段である週次PRAを活用することだ。週次のファン獲得数が5000位以内に入れば、毎週エナドリが2本もらえる。エナドリは通貨として使用できるため、この2本の配給は「基本給」と呼ばれる。ファン獲得数が5000位以内に入るためには、メンバーを1人にして攻コストの消費を抑えて、「道場」と呼ばれるわざと負けてくれる人を攻コストの限り殴りまくる「道場巡り」を続けなければならない。「基本給」と呼ばれるだけあって仕事のような作業だ。毎日絶対にサボってはならない。これが通貨を手にする唯一の方法なのだから。1年続けるとエナドリ約100本分となるのでバカにならない。

「道場巡り」を行うと、「基本給」であるエナドリ2本と大量のマニーが手に入る。これが財をなすための元手となる。マニーは集めるとスタドリに変換することができる。今だと[スペシャルテクニック]マスタートレーナーが流通量が多いため変換にオススメだ。スタドリにすると2~3で売買されるが、マニーの場合20,000,000~30,000,000で売買される。たまったマニーは定期的にスタドリに変えておくこと。また、序盤はとにかくスタドリを払うのではなく、マニーで買うようにすること。

スタドリはアイドルより重いっ……!こう覚えておいて欲しい。

道場巡りを続けてしばらくするとエナドリの資産が少し溜まってくると思う。エナドリでの売買は活発でないので、適宜スタドリに変換しておくのがオススメだ。現時点ではエナドリはスタドリの約1.5倍弱の価値がある。エナ2、スタ3で売買されているアイドルなどを利用してスタドリ変換を進めると良い。毎日配給される3枚のフリートレードチケットは、ベテランプレイヤー、新米プレイヤーにかかわらず同じ枚数の、神様からの平等なお恵みだ。使用しなければ無駄になってしまうため、ダメもとで出品するなりスタエナ変換に使うなり、毎日やれることをやっておくこと。

すると少しスタドリが溜まってくる。ここからは基本給とあわせて投資で資産を増やしていく段階に入る。

序盤のスタドリが少ない頃は、メダルSRと呼ばれるイベントで入手できるコスト18のアイドルが狙い目だ。このSRは、イベント中は売買不可能で、イベント終了後一定時期を超えた瞬間に売買可能となるため、売買可能となった瞬間にダムが決壊するかのように供給過多が発生して価格が暴落することが多い。この瞬間を狙う。前述のとおり守備が活躍する場面は少ないため、攻撃型のアイドルが高めの価格がつきやすい。守備型の場合は、いくら安くとも飛びつかないほうが無難だ。何度か観察して価格動向のパターンを掴んでみて欲しい。その間も労働を続け基本給の受領は忘れないこと。

スタドリがある程度のボリュームになってくるとメダルSRの利幅だと増加の絶対値が少なく、厳しくなってくる。次は月末ガチャで投入された新SRに投資する段階だ。市場の価格は神の見えざる手が最終的に落ち着けると言っても、必ず一度は値段が落ちすぎるところまで行く。そして調整の投資が入って価格が落ち着くのだ。調整を行うのはお前だ。アイドルの価格は能力だけでなく、人気、絵柄等、定量化できない不確定な要素が深く関わってくる。それは株式ではなく絵画や宝石に対する投資に近い。非常にリスクの高い投資となるので、最初の数ヶ月は価格動向の観察にあてること。といっても、月末に投資できるようになるまで数ヶ月かかるはずなので、労働期間中に相場の観察だけでもしておくとよい。次の行動のための準備をしておくことが大事なのだ。

一つだけ忘れないで欲しいのが、価格は長期的に下落するので、失敗したと思ったらすぐに損切りすること。誰でも時には失敗することがある。失敗を認めない間に損はドンドン拡大する。失敗を認めることを恐れてはならない。

大きく勝負に出るのは年末だ。毎年1回開催される福袋ガチャでは、過去のSRが復刻されて大きく値段が下落する瞬間がある。ここで全財産投資する。上手く行けばわずか数時間で30~40%の利益が出るまたとないイベントだ。リスクを恐れずチャレンジしろ。成功はリスクの先にしかない。

ここまでがスタドリ資産を増やすための方法となる。繰り返すが、アイドルは価値が目減りしつづけるので、手持ちにしないで必ずフリトレという銀行に預けておくこと。走るのは銀行からアイドルを借りて走るのだ。

常にフリトレチケットが不足すると思われるが、トレチケは年末など大きく勝負に出る前に手持ちのガチャチケを消費して手にすれば十分だ。逆に初期の頃はガチャチケを消費しないよう気をつけて欲しい。余分に持つと毎日3枚もらえるトレチケまでもらえなくなってしまう。ガチャチケはアイドルを入手できるチケットではない。その本質はフリートレードに参加するための参加券なのだ。

最後にイベントを走るためのイベント消費アイテムの入手の方法だ。

本来課金で補う部分であるためこれが一番難しいが、これには、すべてのイベントにおいて配布される消費アイテムをラウンド専用アイテムを除いて1つも使わずに、貯めこむのが最適かつ唯一の方法だ。ただしイベントは皆勤すること。イベントも労働の一つなのだ。また、レアメダル交換で入手可能なイベントアイテムは毎回のイベントで必ず上限まで変換しておくこと。1回のイベントで上限10凅までの変換であるため、走ろうと思った時に変換しても遅いのだ。5回のイベントをこなせば50個の消費アイテムが手に入る。レアメダルという無料のアイテムで、イベント消費アイテムという有料のアイテムに変換できるまたとない機会を逃さないこと。

PRAにせよレアメダル交換にせよ、本来有料で提供されているものが労働で替えることができるようになっている部分は何かを観察して、そこを足がかりにすることが有効だ。

このようなプレイスタイルはシステマチックに過ぎて、「アイドルを成長させる」という建前とは乖離したものだ。ゲームというのは攻略サイトを見るよりも自分で適当に考えて遊んだほうが結果的に楽しい。しかしながら、競争原理が支配するネットゲームの荒野では、無邪気に遊んでいると狡猾に遊んでいる者たちに絡め取られてしまう。無邪気なウサギを選ぶか、無感情に狩りをする狼を選ぶか、いずれかしかないのだ。だから俺はこのようなことを知る前に「やめておけ」と言ったのだ。

しかしお前は知ってしまった。お前は、アニメのシンデレラガールズの明るい世界とは似つかわしくないこの荒野を、狼として生き残るんだ。

シンデレラガールズというゲームはPay to Win、すなわち金を払えば勝てるという構造を持っており、本来ゲームですらない。しかしながら人と人の勝負となるフリトレという要素を介在させることで金以外での抜け道、攻略法ができ、その存在は総体としてゲームであり得るのだ。フリトレだけはいくら金を払っても勝てるものではない。

突破口はそこだ。どうか、お前の力で奴に……彼女に一泡吹かせてほしい。

俺か? 俺はダメだった。

俺の目はもう死んでいるだろ。

奴に、金を払っちまった。嫁が、来ちまったのさ。