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通達:『エースコンバット7』はある僚機の成長物語である件について

全員集まったな。聞いてくれ。これよりブリーフィングを開始する。
現在、『エースコンバット7』の僚機について「全く敵を撃破しないし、存在感がない」「所属がコロコロ変わるから人間的掘り下げがない」などと激しい攻撃にさらされている。一方、当方の戦力は未だ脆弱であり、十分な反撃を行うには至っていない。
 
エースコンバット』シリーズは、単なる空戦を行うゲームではなく、その演出や人間関係も魅力である。
これまでも、フランカーに乗れることでお馴染みのレナや、おしゃべりチョッパーなど、多くの魅力ある同僚が君たちと共に空を飛んできたものと思う。
 
それに引きかえ『エースコンバット7』の僚機は個性が薄い?
そうではないと我々は主張する。特に懲罰部隊の面々を見てほしい。命令も聞かずに勝手に滑走路に割り込み離陸の順番を守らない者、虚偽の撃墜数報告をする者、僚機の命で賭け事を行う者。いずれも一筋縄ではいかない奴ばかりで、最後まで懲罰部隊でチームを組んで行くことができればどれほど面白くなっただろうかと今でも夢を見る。
 
さて、今日はその懲罰部隊の中のひとり、カウントの話だ。カウントに対する諸君らの印象は様々だろうが、本日は彼に対する認識を新たにしてもらうことを期待するものだ。
 
なお、本ブリーフィングには『エースコンバット7』のシナリオ上のネタバレが含まれる。十分な準備ができていない者は、現時点で退出を行うこと。
 

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カウントについて説明する。
奴は、オーシア空軍第444航空基地、いわゆる「懲罰部隊」には詐欺をはたらいた罰として送り込まれている。詐欺をはたらく際に「伯爵」と名乗っていたことを「何が伯爵だ」と同僚からは笑いのネタにされている。
 
性格は詐欺師に似合わしく他人を鑑みることはなく、自分勝手なふるまいが数多く見られる。序列も重視せず、命令に対しても「はいよ」などと上官を軽んじる返事をすることも多く、組織行動に馴染まない。口数は多く、同僚と軽口を叩くことはあるが、彼の性格を考えると心から同僚を信頼することはないだろう。また競争心が強く、自分より優れた存在を認めようとしないきらいがある。しかし性格に難ありといえど、戦闘機乗りとしての実力は相応のものがある。
どれだけ偉い相手でも媚びず、それでいて自分中心であり他人を認めることのない「俺様」タイプと言えるだろう。
 

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続いて、カウントのミッションにおける行動について説明する。
カウントはミッション4で初登場するが、離陸の際、懲罰部隊の面々に「自分が1番機だ」と主張。アクの強い懲罰部隊は「空に上がればわかるさ」と誰も従おうとしないが、そういう発言をすること自体、カウントの「俺様」な性格を表していると言えるだろう。
 
空に上ってからも、新入りのトリガーが次々と敵機を撃破していっても「偶然だろ」と認めようとはしない。それどころか、気がついただろうか。トリガーが敵機を撃破した直後に、カウントは「撃墜してやった」「一機落とした」と無線で発言し、トリガーの撃破を自分の手柄であると誤認させようとする。僚機からは虚偽報告がバレバレだと言われるが、詐欺師の姿は空に上がっても垣間見える。
 
オイルタンクを攻撃するミッションでは、砂塵の中、敵中深くまで入り込んで敵の警戒網に引っかかり無人機を呼び込むと、味方は置き去りにして機体の調子が悪いことを理由に真っ先に逃亡する。
救出ミッションに出撃しても、他人の尻拭いに命をかけることに対して憤りを隠さない。
カウントはそういう人物だ。そういう生き方をしてきた。
 

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諸君らもご存知だろうが、このあと彼に転機が訪れる。サイクロプス隊への異動だ。
新たな配属地でトリガーはストライダー隊の1番機、カウントはサイクロプス隊の2番機として配属される。ここでもカウントは「なぜトリガーが1番機で自分が2番機なのか」と自分への評価に対して不満を表している。
 
カウントが編入されたサイクロプス隊の1番機はワイズマン。規律に厳しいまさに軍隊の隊長といった人物だ。
ワイズマンは事あるごとにカウントに口うるさく注意し続ける。カウントが任務のため一時的にトリガーのストライダー隊に編入した際に「こっちの隊長は一つだけいいところがある。無口なところだ」とこぼす。それでも後から振り返ってみれば、細かいことを言われながらも、自分に構ってくれるワイズマンのことをカウントは悪く思っていなかったのだろう。カウントの人生には、これまで自分を注意してくれる人間というものが存在しなかったのかもしれない。
 
そして戦局は進み、エルジアの首都ファーバンティ攻略戦が訪れた。ここで彼の運命は大きく変わる。
この戦いでエルジアのエースであるミハイを撃破するため、ワイズマンは囮となってミハイの攻撃を引き付け、戦死してしまう。1番機ワイズマンの撃墜にカウントは動揺。カウントに指揮を引き継ぐように促すストライダー隊3番機からの指示にも「トリガーがやればいい」と拒否。悪態をついてばかりだった自分にあれだけ関わってくれたワイズマンが死んだことも認められず、1番機の立場につくのも嫌だという姿勢を露わにした。
 
2番機と3番機の差以上に、1番機と2番機は全く違う。1番機はリーダーで、2番機以降はすべてそれ以外だからだ。
 
チームには往々にして悪態をつくが実力のある一匹狼が存在するが、そういう人間はリーダーには不向きだ。自分が散々批判してきた存在に自分自身がならなければならないからだ。だから、一匹狼はリーダーになることを嫌がることが多い。たとえ自分こそがリーダーになることが相応しいと普段から主張していたとしても、それは自分の実力の高さを認めさせたいからであって、本当にリーダーになりたいためではない。
 

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しかし、カウントは覚悟を決めた。
それは自分が指揮を引き継ぐ宣言であるとともに、それまでの自分を捨て去るという覚悟でもある。斜に構えた一匹狼としてのカウントは死んだ。
そして遂にトリガーがミハイを追い詰めたとき、「撃ち落とせ!トリガー!お前ならやれる!!お前しかできねえんだよ!!」とカウントは叫ぶ。常に自分中心であり、他人を認めることのなかったカウントが、ワイズマンの仇討ちを他人に頼んだのだ。
 
すんでのところでミハイを取り逃がし、AWACSからは一旦撤退するよう指示が下ると、カウントはワイズマンの仇討が終わっていないと指示に従うことを一旦は拒否する。
それでも彼は追わなかった。自分が思ったことを自分が好きなようにやるカウントは、もういない。
カウントは変わった。それ以降、カウントはストライダー隊の2番機としてトリガーをサポートし、戦争を終結に導いていく。
 
人はいつか成長しなければならない時が来る。
 
いつまでも誰かの庇護下にいれるわけではないし、無責任な立場から自由になんだって言い続けることができるわけじゃない。いずれ自分の限界を見定め、収まるところに収まらなければならない。子どもは可能性を追わなくてはならない。大人は可能性を捨てなければならない。
それはある種の「割り切り」とも言えなくはないだろうが、それがいなくなった先達からのバトンを受け継ぐために必要なことだ。
カウントは自分の能力の限界とトリガーの能力を認め、自分にできることを自分なりに果たすことにした。
それがカウントの成長だ。
 
だが、まだ話は終わりではない。
カウントはそこで満足することはなかったからだ。
 

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最後のミッション、無人機が地下トンネルの中に逃げ込み、軌道エレベーターに辿り着こうとする。トリガーは無人機を追って地下トンネルへ向かうが、なぜかカウントがついてくることを主張する。
 
諸君らも思ったはずだ。「なぜここでお前がついてくるのか」と。
僚機は言う。トリガーならいい。あいつは特別だから。戦闘機でトンネルだってくぐれるだろう。だがお前は?
 
しかしトリガーは特別だからという言葉にカウントは反発する。自分だって可能だ、と。
 
カウントはあきらめていなかったのだ。自分が特別であることに。
カウントは挑んだのだ。詐欺師として虚偽の撃墜報告で1番の戦果を上げることでもなく、ストライダー隊の2番機に満足することでもなく、ただ一人の戦闘機乗りとして、トリガーのようになることに。
 
一旦安定的な立場を手にすると、人はそれを守りに入ってしまう。安定的な立場から命をかけて再び挑戦者に戻ることのできる人間がどれだけいるだろうか。
 
カウントはこの後トンネル内で無人機の射線からトリガーを庇うような形で被弾し、軌道エレベーターからの脱出は叶わなくなってしまう。そして軌道エレベーター地下で胴体着陸に成功し、一命をとりとめることになるのは諸君らもご存知のとおりだ。
 

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カウントは負けたのだろうか?いや、カウントは勝ったのだ。結果的にお前には無理だと言われていた地下トンネルを被弾しながらもくぐり抜けたのだから。そして軌道エレベーターから空に向かって飛び立ったトリガーを見上げて吹っ切れたように言う。
「やつはいつも俺の頭上を上を飛んでやがる」
こんな気持ちのいい発言ができる男だったろうか。これが、嘘つきで他人を鑑みず愚痴ばかり言っていたあのカウントと同一人物なのだ。
 
エースコンバット7』は、カウントの精神的成長を描いた物語である。それでいて、カウントは大人のように現実を見ながら、子供のように可能性を追いかけた。
覚えていてほしい、カウントのようなキャラクターがいたことを。あきらめないでほしい、どんな立場に変わっても自分の可能性に挑戦し続けることを。
 
このブリーフィングをもって諸君らが『エースコンバット7』の僚機についての認識を新たにしたものと私は確信している。諸君らも今一度、カウントら懲罰部隊をはじめとした僚機に思いを馳せてプレイしてみてほしい。
 
わかったら各自速やかに次の作戦に移れ!解散!