まるで男湯のサウナみたいなSTG!鋼鉄のヴァンパイア!
レベルアップしたときにプレイヤーが任意で能力成長させられるタイプのゲームってありますよね。最近だとソウルシリーズがパッと思いつきますし、ネトゲでもラグナロクオンラインなどたくさんあります。『ラグナロクバトルオフライン』も良かったねー。
ところが、この手の成長ゲーって大体特定のステータス極振りが最適解になるところがあって、バランス型というのは大体弱くなる傾向があります。UOでも、それぞれのスキル70%くらいまで育てたバランスキャラより7つGM作ったキャラのほうが強かった。魔法剣士が脳筋ゴリラに勝つのは難しい。スペシャリストはゼネラリストを上回るというのはゲームの世界の法則みたいなところあるのでしょう。
このとき、攻撃と防御という観点から成長をどのように特化させていくのかというと「攻撃>防御」という優先度でいくことになるでしょう。
任意の成長タイプキャラの対戦ゲーである『ドカポン3・2・1』をとってみても、防御特化型のナイトは攻撃特化のウォリアーと魔法特化のマジシャンに蹂躙されるだけでした。「殺られる前に殺れ」これもまたゲームの世界の法則なのです。
ただ、その『ドカポン3・2・1』もマジシャンのマップ兵器というバランスブレイカーを除けば、「お互いアホみたいに高い攻撃力」という一点をもって極端なところでバランス取れてて面白かったですよね。格ゲーの北斗が全キャラが永久コンボを持っているという異常なところでお互いのバランスが取れていたように、一見バランスが壊れているように見える極端なゲームも、極端なところでお互いのバランスが取れてしまい成り立つことがあります。
なんでそんなわけわからん話をしたかというと、今日はそういう極端なバランスで突っ切っているSTGの話をしたいからですね。
『鋼鉄のヴァンパイア』は同人サークルあきら小屋がリリースした硬派三部作STGの二作目。メディア版がC93で頒布されていましたが、このたびSteamで配信が開始されました。わざわざビッグサイトまで行かずに同人STG遊べるようになったとか本当いい時代になったよなぁケンシロウ。
ところで二作目だそうです。
硬派三部作一作目の『機械種子』からシステムの大部分は持ってきていますが、シナリオと主人公の設定とライフが1になると発動する「YAMATO SOUL」以外は、見た目に反して意外とクラシックなSTGだった前作から一転、前作のイカれた部分を引き継ぎつつ、敵弾の速さを5倍くらい、自機と敵の大きさを8倍くらい、密着したときの攻撃力を体感10倍くらい、敵を撃破したときの爆発感を100倍くらいにして、ゲームシステムそのものをえらい極端なゲームに仕上げてきたのが『鋼鉄のヴァンパイア』という感じです。とにかく近い!デカい!男臭い!!
前作の主人公桃山吹雪少尉は、身の丈十尺のヒグマを徒手空拳にて昏倒せしめるとかいう「なにそれSTGにその設定いる?」とまで言いたくなるようなワケのわからん人物で、自機のバリアがすべて剥がれたときに常人ならば振動で操作不可能になる代わりにエネルギー供給250%になる「YAMATO SOUL」を制御できるというシステムへの説得力を与えていました。
そして『鋼鉄のヴァンパイア』の主人公桜島吉乃も、ヒマラヤとカラコルム2に冬季無酸素単独登頂を成し遂げ、山頂でバトルロボ8体を破壊した男!通常であれば「STGにその設定いる?」と素直に思ってしまうところでしょう。しかし、このバックグラウンドこそが単機で敵群に突入し、密着攻撃を主として戦うバトルスタイルに説得力を与えるのだ!それにSTGの設定というのは元来無駄に壮大なものなのだ!
そう、桜島吉乃のバトルスタイルは「近接密着」。
『鋼鉄のヴァンパイア』の自機はデカい!敵機はさらにデカい!これだけ自機も敵機もデカくて画面が埋まっていると弾を避けるスペースがないじゃねぇかと思えますが、基本的には敵弾を打たせる前に殺していくのが基本的な進め方になります。
わかりやすく言うと「殺られる前に殺れ」。このコンセプトを実現するために実装したシステムが、敵に近づけば近づくほど自機の攻撃力が高くなるようになるというもの。一般的なSTGのように画面の下の方にいると敵を撃破するスピードが著しく落ちるので、画面の下に下がれば下がるほど逆に危なくなるという具合です。なので、基本的に自機を画面上部に置き続けながらゲームを進めることになります。
とすると敵に接触する事故死みたいなのが増えると思うじゃないですか。『鋼鉄のヴァンパイア』でかなり思い切った部分がこの部分で、敵に接触しても被弾になりません。敵には近ければ近いほど良く、殺しそこねたら殺されてしまうことを考えると、もはや敵に接触しながら撃破していくのが最適解みたいなことになるんですよね。
肌と肌が触れ合うような敵との距離でぶつかる錆と錆!エンジンのむせ返る臭いが蒸気のようだ…!まるで混雑している男湯のサウナ…!
本当にこれはSTGを遊んでいるのか…。
チュートリアルでも丁寧に説明してくれるんですけど、「本作の敵弾は非常に速く、人類の能力では見て避けるのは困難です。撃たれる前に倒すことを心がけましょう。」だそうです。親切に教えてくださってありがとうございます。
極端に振り切ったゲームというのが多数あるのが同人ゲームの良いところで、かつて人類史上最速の敵弾速度を作っちゃった『AuroraBlast2』というゲームでは、秒速2620pxという「もはや見えない」みたいなレベルでしたけど、そこまでいかずとも『鋼鉄のヴァンパイア』の敵弾も相当に速く、また弾幕が「圧」のある量になって押し潰されてしまうので、回避を前提としたプレイングはできません。
なので原則は「殺られる前に殺れ」なんですけど、とはいえ敵も結構な数が出てくるので完全に殺しきり続けるというわけにはいかず、割合被弾の多いゲームです。
実はそこでまた近接有利のゲームバランスが出てくるんですよね。
本作はライフ制で、画面の左で「SHIELD 3/3」って書いてるやつがそうなんですけど、このライフは徐々に自動回復しますし、また敵を倒すとライフのかけらのようなものを落とすので、拾うと回復します。んで、このライフのかけらは敵を倒したときの距離が敵に近ければ近いほどたくさんドロップするんですよね。要は、ブラッドボーンで実装されていた積極的に攻撃を仕掛けていく回復メリットみたいなのをつけているわけです。
なので、『ドカポン3・2・1』や『北斗』のような「お互いアホみたいな攻撃力」を持ちながらも、STGである『鋼鉄のヴァンパイア』では敵のほうが圧倒的に多いので、その代りに自機の回復能力の高さをもってして、結果的にバランスが取れてしまっています。遠慮なく敵に抱きつくように接近して弾幕を浴びせていけ!ミスったら更に接近して倒して回復しろ!
あと『鋼鉄のヴァンパイア』はランク制を採用していて、結構派手にスコアと敵弾の数に跳ねてくるんですけど、これが自分で自由に上げ下げできたりするのも結構好きなポイントです。画面に出ている赤く光るアイテムを取るとランクが5上がって、緑色に光るアイテムを取るとランクが1下がります。つまり、緑ばかり取ってると結構簡単にクリアできちゃったりするんですね。そういう意味ではユーザーの間口の広いゲームです。
しかし!しかしだ。
「赤色取ったらスコア倍率が上がるけど難しくなるよ。別に取らんでもええけど」なんて言われたら取らざるを得ないじゃないですか!
赤取り続けてアホみたいにレベル上げて山ほど迫る敵を即撃破して時には倒し損ねて敵弾の雨嵐を喰らいながらボカスカ稼いでンホオ気持ちイィィってなるゲームじゃないですかこれは!
ってたぶん上手い人は最後までそうなんでしょうけど、自分の実力的には序盤で高ランクにしてほどほどに稼いだあと、後半は低ランクにしてクリア狙いに行く感じになります。
ここまで見敵必殺が極端なゲームなのに、いわゆる「覚えゲー」でもなかったりするんですよね。
敵の出現位置なんて覚えてなくとも、敵がどこから出てくるか背景なんかで予告があるからスッと頭に入ってくるし、画面に出てきてもすぐに弾を乱射してくるわけじゃないので、敵が弾を撃ってくるということは自分が確殺をミスっているということに他ならないんですよね。頭にくる理不尽みたいなのがなく、とにかく自分に責任を帰結させるのは作りとしてストレスフリーで、見た目に反してなんというか細やかな気遣いみたいな印象も受けます。男で売っている人ほど実のところ繊細な性格だったりするとかそういう感じ。
一般的にイメージされる弾幕STGとは、相手側にスポットライトが当たったゲームだと思うのですよ。弾幕を撃つのは自分じゃなくて相手側ですし、「この相手はどのような弾幕を撃ってくるのか」が常にゲームの中心にある。だからこそ、システムからの要請として「相手側の個性をいかに構築するか」に重きが置かれる流れに至ったのかもしれません。
一方で『鋼鉄のヴァンパイア』はたとえボスであってもボム撃って相手に密着すれば数秒で即殺できちゃうバランスなので、相手が誰なのかなんてほとんど関係ないし、どこまでも自分本位なゲームだなぁみたいなところがあります。世界で一番強いのは自分だ。自分が一機で世界を救うのだ。そうだ、STGは自分本位で良いのだ。なんかそんなゲーム。
そんなゲームなんだけど、今度遊んでみようと思う人がいれば一つだけアドバイスを置いておくので参考にしてください。これを徹底して遊んでいけばそのうちきっとクリアできます。
「下がるな危ない。前に出ろ!」