飯島ゆんのようにしか生きられない
みんな〜!熱くなってる〜??
何かやるべきことを見つけて自分の人生ブッこんでる~??
まぁそこまで夢中になって入れ込めるものってあるようでないですよね。というかそんなもんあるなら今すぐブラウザの☓ボタンを押してそのやるべきことに戻ろうな。
「1万種類の蹴りを1回ずつ練習した男は恐ろしくないが、たった1種類の蹴りを1万回練習した男は恐ろしい」と言ったのはブルース・リーでしたが、ウメハラだって「何かをやるということは、何をやらないか決めることだ」みたいな話をしてた気がします。成功者は大体この手の選択について述べていることから考えると、やはり間違いなくビッグサクセスへの近道はリソースの集中化であることは間違いないのだと思われます。
そんなこと言われんでもわかっとるがな、って話なんですけど、実際その原理が理解できているから実行に移せるのかと言われると無理ですよね。
楽しいんですよ。「人生のつまみ食い」というやつは。
新しいゲームが発売されればとりあえず遊んでみて、新作アニメはとりあえずいくつか観てみて、人気の映画作品が話題になっていればとりあえず観に行ってみて、神絵師に触発されて少し絵を描いてみたと思えば、機材買ってきてDTM始めたりする。今となっては弾かないギターは部屋の隅に置きっぱなしで、弦は錆びてる。エフェクターの使い方はもはや忘れた。ありがちな話。
色々なものに触れるということは悪くなくて、キャプテン翼と出会ったことがセリエAの選手への道に繋がることもあるように、それをキッカケに人生の時間を突っ込む何かに出会えるかもしれない。けど、その発見に至るまでは、なるべく短い時間の方が好ましい。そうこうしているうちに時間だけは刻々と過ぎていくのだから。
しかしまぁ、だいたい見つからないですね。人生の他の部分捨ててまでやり込みたい何かというものは。
自分がやりたい何かが見つからないということは、自分の背を押す何かがないということ。結果として、気がついたら何にも積極的に取り組めなくなった人間のできあがり。
「周りの人間はやりたいことを見つけて前に進んでいくのに」という焦燥。かと言って、自分は何をやればよいかわからないし、やる能力もないという絶望。それはやがて諦観に変わり、日常に溶け込んでいくでしょう。
これを体現した生き様を我々はある人の人生に見ることができます。
『NEW GAME!』の飯島ゆんさんです。
飯島ゆんさんは、三重県出身の21才女性。幼少期を三重県でお過ごしになられたのち、家族とともに上京。現在はゲーム会社にお勤めで、主にゲームに登場するモンスターのモデリングを担当されています。同期に、新たに企画の仕事にも挑戦される有望株の篠田はじめさん、1年後輩には、『PECO』のキャラクターデザインを担当された涼風青葉さんなど、優秀な同僚とともにゲームづくりに取り組まれています。得意なことは家事全般、苦手なことは運動とのことです。
飯島ゆんさんは、面接のシーンで入社の動機を「この会社になんとなく入った私が…」と語ります。まぁ一般的にそんなもんですよね。世に会社は数多あれど、就職活動する前からやりたいことが決まってる人ってどれだけいるんですかね。
やりたいことが決まっていないから、色んな会社を見て、それこそ「業界のつまみ食い」みたいなのをしてから「まぁこの業界ならイヤじゃないかな」くらいで決めれればまだ幸せでしょうし、雇ってくれたところで働かざるを得ないというのもザラでしょう。
ともすれば動機が定められがちな物語において、目的意識や向上心なしにダラダラと働いている飯島ゆんさんこそ、作中最も「人間」らしさを感じさせられる登場人物と言えましょう。
飯島ゆんさんは、キャラデザイナーの立場をかけた社内コンペにも参加しません。先輩デザイナーの八神コウや後輩の涼風青葉が、新人であるにも関わらずコンペでキャラデザインの仕事を勝ち取ったのとは対象的な姿が描かれます。
飯島ゆんさんは「コンペなんて出来レースやろ」と語りますが、その意識の根底には、やりたいことに情熱をかけられる気持ちが欠けています。「なんとなく」入った会社で自分の人生削って勝負に出ないという判断は妥当。早く帰ってゲームをしていたほうがまだマシに決まっています。デザインという仕事は、飯島ゆんさんにとって遊ぶ時間やオシャレにかける時間を割いてまで人生かけるものじゃないのです。だいたい趣味の方が仕事より大事じゃないですか。はよ帰って遊びましょう。他にやらなければならないことはたくさんあるし。
しかし、飯島ゆんさんは後輩の涼風青葉のコンペに打ち込む姿を見て、勝負に出なかった自分を恥じ「次は自分も出たい」と語ります。同じルートを辿るという選択肢、このあたりにも他人に流されやすい彼女の主体性のない性格が現れているようです。おそらく後輩がいなければ、次回のコンペも手を上げることはなかったでしょう。
紆余曲折を経て、ようやくみんなで作った『PECO』をリリース。打ち上げの飲み会で「次はどんなゲームが作りたいか」という話題になったとき、同僚の篠田はじめが「私の新しい企画使ってください!」、滝本ひふみが「近未来風の都市が舞台のがいい」と述べる中、飯島ゆんさんはこともあろうに「PECO 2とかやってみたいかな」と発言し、圧倒的なクリエイティビティの欠如を露呈。
この一言に飯島ゆんというキャラクターが体現する絶望が集約されていると言ってもいいでしょう。凡人の創造性なんてこんなものです。「これ多分コンペ出てもあかんやろ…」と、そっと察せられるような、よくこんなエグいセリフ考えたなと心がえぐられるようです。
あなたには人生かけてやりたいこと、ありますか?
あったとして、それは涼風青葉のような天才を押しのけて成し遂げることができるようなものですか?
つらい、とてもつらい……。凡人にとっての『NEW GAME!』は飯島ゆんの人生そのものであり、俺が、俺たちが飯島ゆんだ!みたいな話になってしまう……。
つまるところ私が言いたいのは、三連休が終わるのがいくら嫌だからと言って、休日に久々に見た美少女アニメのキャラクターに世の中の辛さを投影させるようなダメな大人になってはいけないということくらいですかね。あぁ会社行きたくないねぇ。
人生かけてやりたいことが見つからなかった人は、毎日会社に行かなければならない大人になるしかないのだけれど、かと言って会社に行かなかったからと言って人生かけてやりたいことが見つかるわけではない、という円環が人生にはあるんだよな。ゆんかわ。