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インなんとかさんに学ぶ循環取引

こんにちは。インなんとかさんに学ぶ会計講座のお時間です。

これまでも手元資金7億に対して短期借入金200億という自転車操業を見せつけることで資金繰りの重要性を我々に訴え続けてきたインなんとかさんですが、このたび「循環取引粉飾決算」という新しいネタを提供して、我々を驚かせてくれました。単純に粉飾という事実もさることながら、「循環取引で売上水増ししてアレだけの赤字出してたのかよ!」というスルメのように味わい深いサプライズに不覚にも涙を禁じえません。
一応、現段階では調査中ということになっていますが、当局が動いたということは「間違って強制捜査しちゃった。ごめんね、てへっ」なんてことだとそれはそれで誰かのクビが飛ぶような事態なので、これだけ大事にするからには当局も確証に近い情報を元に動いていると思われます。

循環取引に手を染めるのは、基本的に決算対策で在庫の削減なり売上の増加なりがその動機となります。同社は資金繰りの苦しい会社ですので、債権者(銀行)対策だろうというのは想像に難くないわけで、金融機関からキャッシュを引っ張ってくるために少しでも決算書をよく見せる必要があったでしょう。循環取引は、商社なんかだと担当者の独断でやってたりするケースもありますが、これだけ金額の規模が大きいと経営層が知らんという線は薄そうです。報道によると、わりと前からやっていたようなので日本振興銀行の破綻がトリガーということもなさそうな気もします。外部環境どうこう言うより単純に業績悪化をごまかそうとしたのではないかと思うのですが、まぁそのあたりは放っておいてもいずれ報道で出てくる話でしょう。

粉飾をする動機は置いておいて、今回は粉飾をする手段として使われた循環取引についての話です。

粉飾をする方法はザックリ分けると4つあって、①売上の不適切な計上、②費用の将来への飛ばし、③資産の過大評価、④負債の未計上といったところです。
その中でインなんとかさんが採用した手法が①売上の不適切な計上だったというわけで、バレないための工夫として採用した手段が循環取引ということになります。
インなんとかさんは③資産の過大評価も怪しいと言われていますが、こちらだと資産性の解釈の問題で戦えるだけ真っ当な話だったんですけどね。循環取引だと資産性の解釈どうこうでなく悪意の問題となってしまうので、言ってみれば投資家に詐欺を働いた形で経営層の責任の重さも桁違いです。

さて、一般的な循環取引の構造はとても簡単です。二者間の相対でやる方法もありますが、決算書を見られると仕入にも売上にも同じ会社が出てきて発覚しやすいので、バレないようにするためになるべく多くのプレイヤーに参加してもらったほうが良いでしょう。第三者から取引の全貌を把握できないようにするのが重要な点です。
たとえば、A社はB社に商品を100万円で販売して売上を計上します。そしてB社は、100万円の商品仕入に自社の利益を上乗せしてC社に105万円で販売し、売上計上をします。C社は105万円の仕入れに対して自社の利益を上乗せしてD社に110万円で(以下略)…そしてH社は130万円の仕入れに対して自社の利益を上乗せして、135万円でA社への売上を計上します。ここまででとりあえず一周。
この時点で見た場合、B社~H社は5万円ずつ利益を得ていますが、A社は35万円の損失を出していることになります。そこで、A社は135万円で仕入れた商品をB社に140万円で販売して売上を計上します。B社はC社に(以下略)

つまり、循環取引は一度始めたが最後、誰かが損失を持つまで延々と繰り返し続けなければならないという構造上の問題点を抱えます。通常の商取引と違って、最終消費者が存在しないため、誰かがどこかでケツを持たなければいずれどこかで破綻する運命にあります。
いわゆる転売のスキームを悪用したものになりますが、そもそも転売自体は適法な取引ですからね。卸売業という業種は転売を生業としているわけですし、建設業なんかでも売掛金の回収期間を短縮させるために間に業者を介在させる商流取引も慣習として存在します。
また、循環の参加者が多ければ、特定の会社を監査するにあたっても、仕入れている先と販売している先しか見えませんので、仕入・販売それぞれが全く関係のない別の会社だと、粉飾を看破するのは極めて難しいです。頭の悪い会社だと、先の例のように整った数字をずっと使って「特定の取引先相手に揃った数字が定期的に出てくるとかおかしいだろ」という話になりますが、数字を崩されると通常の仕入れや販売と区別がつきません。
たとえばA社の場合だと「H社から仕入れている商品をB社に卸しているのだ」といわれると、H社からの仕入れもB社への販売も増加しているので、そりゃそうかもな、という話になります。本当の商売でそういう仕訳が切られているのが殆どでしょうから、木を隠すなら森の中状態になってしまうわけです。実際に請求・振込もされていますから証憑書類も整っています。

循環取引は第三者から取引の全貌が見えることがないため、ハッキリ言ってとてもバレにくいわけです。その上、簡単に売上・利益を短期的にドーピングできるとても便利な手法と言えますね。北斗の拳で言うところのセッカッコーみたいなもんです。
監査法人が入る上場企業ならまだしも、ベンチャー・中小の社長連中にグルになって仕掛けられれば看破するのはかなり難しいと思います。まぁ循環取引自体は、このように極めてシンプルに作れてしまうのでかなり使い古された手法で、過去には加ト吉やメルシャンなどによる利用実績があり、同社らの顛末は会計研修のモデルケースとして今も活用されています。さらに手形絡ませて割引手形でファイナンスしたり海外絡ませて複雑性を高めてみたり、さらなるカスタマイズの余地もありますので、ご愛好の士は全国に多数いらっしゃるのではないでしょうか。
ただ、昔と違って連結決算にうるさい昨今ですので、循環対象に連結対象外の会社を含めなければならない点に気をつけてください。連結内で完結してしまうと足し引きゼロで何をやっているのかわからない状態になってしまいますので、決算時には連結外に物を押し付けている形にするのが重要なポイントです。忘れないようにしてください。件のインデックスさんも、自社グループ外の会社を何社か絡ませているはずです。どうしても協力会社が見つけられない場合は、親戚に名義を借りて会社を作るなり、間にSPCかますなりして一見自分と関係のない他社を作っておくようにしましょう。
うまく循環を構築できた場合は、裏切り者が出現しないよう相互に厳しく監視する仕組みが必要でしょう。「これひょっとしてヤベェんじゃねぇの」とか言い出されて当局や銀行にチクられては終わりです。地獄までご同行いただく覚悟を持ってもらいましょう。循環取引のような外部から分かりづらい粉飾を巧妙に作られた場合、案外それが発覚するきっかけは利害関係者の内輪もめから発生した怪文書だったりするのです。

以上、「できる!循環取引!」のお時間でした。
じゃなかった「ダメ。ゼッタイ。循環取引」のお時間でした。麻薬と同じで、手を出すにしても火遊びくらいにして早めに片付けておくのが良いでしょう。中毒になったら、死ぬかパクられるかの二択以外選択肢は残されていません。