どこでソシャゲを遊ぶのか
コンシュマーゲームと違って、ソシャゲにはどこで遊べばよいのかという問題がついて回ります。コンシュマーは、テレビに接続するための配線が本体機器に付属していますので、少し頭の良い人なら「ああこれはテレビに繋いで遊ぶものだな」と理解することができます。一方、ソシャゲには配線がありませんので、一体これはどこで遊べばよいのかと頭を悩ませている人も多いことでしょう。
我々はソシャゲをどこで遊べばよいのか。私は寡聞にもこの手の議論については耳にしたことがありませんので、ひょっとするとまだ研究が進んでいない分野なのではないかと推測できます。するとソシャゲ全盛期の今、多くの人がどこでソシャゲを遊べばいいのか判断できずに困っているのではないでしょうか。心配症の人や完璧主義の人は夜も眠れぬ日を送っていることでしょう。その証拠に、朝のプラットフォームは、まぶたの重そうな人で溢れかえっています。つり革を持って立ったまま寝ている人もいました。すべてソシャゲに対する知識不足が原因と思われます。
黎明期にある分野の必然として、しばしば間違った遊び方をしている人を目にすることがあります。
たとえば、電車の中で遊んでいる人を見ることがありますが、間違っています。電車の中で遊ぶ場合、立って遊ぶ方法と座って遊ぶ方法の2パターンが考えられますが、そのいずれも横の人から画面を隠すことができません。すると、見も知らぬおじさんから「あぁこの人の嫁はとときんなのだな」などと心の中で一人納得されてしまうリスクがあるのです。隣のおじさんはあなたのお母さんではないのですから、あなたの好みを知って一人腑に落ちていただく必要はないのです。
また、ソシャゲはゲーム内の財産を蓄積していくのが目的の一つですが、昨今では規制により他のゲームに資産を移すことができません。すると、著しく古いグラフィックのゲームを遊んでいるのを見られた場合「あぁ!きっとこの人は資産を蓄積した惜しさから、このゲームから離れられないのだ。重力に魂を引かれて飛び立てない悲しい蛇よ!」などと勝手にストーリーを設定されてしまう恐れがありますし、まかり間違って同じゲームを遊んでいた場合、あなたの方が資産が少なかったとすると「貧乏人め」などと勝手に蔑まれてしまいます。もしあなたの方が資産が多かったとしても「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの」と心のなかで煽られてしまうことでしょう。すなわち他人のいるところでソシャゲを遊ぶことはデメリットばかりなのです。
とはいえ、渡る世間は人の目ばかり。壁に耳あり障子にメアリー。小さな女の子に道を尋ねただけで通報されるこの監視社会において、他人の監視から逃れられる場所といえばトイレの個室くらいしかないでしょう。そもそもトイレとは、男子トイレと女子トイレで2つに分けられているので、その時点で発見される確率は1/2。また、男子トイレであればそれぞれ人ごとに小便、大便と用向きが異なりますから、個室に逃げ込んだ時点で発見される確率は1/4となり、極めて低確率なのです。こうしてひとつひとつの計算を積み上げていけば、いかにトイレの個室が低リスクかは一目瞭然でしょう。
そう、ソシャゲはトイレで遊ぶのが正しく、そして合理的なのです。しかしそのためには、会社や学校において、普段から頻繁にトイレにたっても違和感を持たれないように振舞っておく必要があります。糖尿病を装うという手もありますが、下手に心配されて周囲に迷惑をかけてはいけませんので、設定としてはすぐにお腹を下す癖があるというくらいのものがちょうど良いでしょう。「ゲリベン野郎」などとアダ名を付けられようならしめたものです。
特にイベントを走っている時など、最後の1時間は非常に重要度の高い時間となります。当然そのときは、1時間トイレの個室にこもって最後の戦いに挑む必要があります。トイレで1時間ポチポチポチポチ……くそっ、ボーダーが上がるのが予想以上に速い……!しかし他の愚かなプレイヤーと違い、あなたは戦う場所を得ているのです。ここならばずっと戦い続けられる。そう、「ゲリベン野郎」と呼ばれた布石がここに生きてくるのです。勝てる……!勝てるんだ!!……ドンドンドン!ん?
そのときあなたはトイレの扉が打ち鳴らされていることに気が付きます。「おい!渡辺くん!大丈夫か!入ったきりずっと出てこないが体調でも悪いのか!?」
なんとタイミングの悪い、これが監視社会か。人間が人間を見張る。なんて恐ろしい、そして生きづらい社会なのだろうか。しかし、今は重要なドンドンドン!……まさに終焉の戦い……「おい、聞いているのか!」……ラグナロクなのだ!!この戦いは……「おい!!しっかりしろ!!」……今、この瞬間は……力こそがすべてだ!!!
そして、厳しい戦いの末、あなたは上位入賞に成功します。勝った……勝ったのです。
バァァーーン!!!!「大丈夫か渡辺くん!!」
トイレの扉が打ち破られ、そこには部長が立っていました。「わ、渡辺くん……それは……」部長は、あなたの手にあるスマホを目にしてすぐには理解ができないようでしたが、次第に瞳には怒りの色が浮かんできました。
まぁそんなときはトイレだけに水に流してもらえばよろしいでしょう。