当たり判定ゼロ

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ジャングルは人を褒めない / Tokyo Jungle

「ゲームは人を褒める機械」なんてよく言われます。
人は常に褒められることを望んでおり、しかし生活の中でそれを達せられることは稀なため、我々はいつも賞賛に飢えています。「褒められる感覚」というものは食の欲求みたいなもんで、アメリカ人のデブがむしゃむしゃとハンバーガーを食べてコーラを飲むのをやめられないように、賞賛ジャンキーになっている人はインターネットでたくさん見ることができますね。ちなみに、あまりに誰も褒めてくれないから、飢餓が限界を迎えて自分で自分を褒めている人は居酒屋に行けばよく見かけることができます。
ともあれ、ネットで賞賛ジャンキーになれる人ってのは、ある程度の知識とノウハウを持っている人に限られますし、何より手間をかけなきゃならんあたりがめんどくさくてかなわないですね!もっと褒めろよ!ただし努力はしねぇけどな!!これですよこれ!我々が求めてるのは。
 
人間相手にするのはめんどいですが、ゲームは手っ取り早く褒めてくれるのでありがたいです。
いわば賞賛のアウトソーシングみたいなもんですが、費用対効果であれば、人間相手にするより投入努力量をだいぶ減らせるのでお得と言えるのではないでしょうか。
我々がゲームというものに手を出したのは、別にゲームが褒めてくれるからという理由ではありませんが、我々がゲームにこれまで没入してしまったのはゲームが褒めてくれるからという理由は一枚噛んでるような気はします。水は高いところから低いところに流れます、それは楽だからだ、というやつです。人も水と同様に楽な方に流れます。
最近はオンラインゲームが増えてきたので、賞賛に必要な投入努力量が増加しつつあるのは怠惰なゲーマーには辛いところです。
 
んで、最近トーキョージャングルやってたんですよ、トーキョージャングル。発売されてから2ヶ月も経ってるんですが、これまた怠惰にダラダラ進めてたらようやくクリアした次第。
システム的には、自キャラが荒野にポンと投げ出されてランダムに配置された敵やアイテムに対応しつつ生存し続けるゲームで、シレンをはじめとした不思議のダンジョン系が近い感じ。正確には、レベルの蓄積が可能な、チョコボの不思議なダンジョンが近い。
トーキョージャングルは、親の世代で増加させたステータスを世代交代をするたびに一部引続することができ、次にゲームを始めるときは最新の世代から始められるという作りになっているので、ステータスの蓄積が可能なわけです。
理論上は、ヒヨコのステータスを淡々と上げ続ければ、いつの日かライオンを倒せることも可能な……はず……たぶん。
というのも、世代交代で引き継げるステータス上昇量があまりに微々たるものなためヒヨコをフルパラにするのに必要な時間が途方もないから、というのがあります。ちょっとは頑張ったんだけどね…。無敵のヒヨコは気の遠くなるような無限の労働の先にこそあるのです。
 
トーキョージャングルは、とても面白いゲームだし、「ポメラニアンの主食は猫」というこれまで知らなかった知識を教えてくれるなど、たいへん役にもたつゲームですが、あんまり褒めてくれないです。
多分トーキョージャングルが言いたかったのは「お前、サバンナでも同じ事言えんの?」がすべてを代弁している気がします。リアルな生存競争は褒めるとか褒めないとかそんな次元ではなく、ただ生きるか死ぬかの淡々とした世界。そこに妙な社会性を持ち出すとゲームの世界観がポロポロと崩壊していくのではないかなぁと思った次第なんですけど、よく考えたらこれサバンナじゃなくてジャングルのゲームでした。
 
とはいえ、空気の乾燥した野生の世界をゲームらしく維持しつつ、「褒める」という機能を入れるなら、やはりオンラインがあると良かったなぁと。そこでようやく、100時間以上もの手間ひまかけて鬼神の如く成長したヒヨコが陽の目を見ようというもの…。
アーマードコア5で、レベルの高いプレイヤーがログインしたら「○○さんがログインしました」みたいな通知が全体に流れるのがありましたが、あれは突き抜けた功績を成し遂げた人を褒める機能を持った最高の装置です。
 
トーキョージャングルで実現するなら、さしずめこんな感じでしょう。
 
「○○さんのヒヨコが代々木公園東に現れました」
突如全体チャット欄に現れる通知文。それまで代々木公園東を根城に小動物を根こそぎ狩りまくっていたライオン、トラと殴り合いの喧嘩をしていた恐竜、地上最強の生物という噂のカバ。ヒヨコの登場とともに、それら最強の肉食動物たちが蜘蛛の子を散らすように原宿駅に逃げていきます。移動速度の遅いヒヨコの周りには、ヒヨコに挑んだ無謀なプレイヤーの死体が死屍累々と転がっています。ぱたぱた。ぱたぱた。動物の死体の山を縫うようにゆっくりと飛んでいくヒヨコ。
「△△さんのブタが代々木公園西に現れました」
ログインしたのは、伝説のブタとして知られるフルパラメーターまで育成したブタ。一体どれほどの人生をムダにしてブタを育ててきたのか、伝説のブタを代々木公園で目にするたびに、一般プレイヤーたちの胸は熱くなります。
そして代々木公園の中央付近で出会うヒヨコとブタ。「あ~あ、出会っちまったか」周辺のプレイヤーの野次が聞こえます。そう、戦いは避けられない。
ヒヨコ、ブタともお互いが育成に使った途方も無い時間を言葉をかわすまでもなく知っており、互いの力を認め合っています。しかしここはジャングル。真のジャングルの王者を決めなければならないことも、二人は知っているのです。
戦いは一進一退。ヒヨコ・ブタと思えないフットワークで跳ねまわる二人。積極的に攻勢をしかけ、ブタをついばむヒヨコ。攻撃を躱し、的確にカウンターを入れていくブタ。絵面的には迫力がないものの、その一発一発はライオンの顎をへし折る威力を備えています。ギャラリーの肉食動物が下手に近づこうものなら、攻撃に巻き込まれて肉塊と化すでしょう。
全体的に受け身に回っていたブタですが、突如攻勢に転じます。ただでさえ遅いヒヨコがダッシュを頻繁に使用したため、スタミナを切らせたのを見透かしたかのよう。ブヒィ!!ブヒィ!!代々木公園にはブタの鳴き声だけが響き、ブタのラッシュが続きます。ブヒィィィ!ヒヨコの態勢が崩れ、ブタのフィニッシュ攻撃が出ました!
「やったか!?」ギャラリーがそう思ったとき、ヒヨコの姿が消えました。この瞬間を、ずっとヒヨコは待っていたのです。「あんたには隙がなかった…。だが、勝利を確信した瞬間、あんたには隙しか無かったよ」どこかの漫画で聞いたようなセリフを発して、ブタの背後からヒヨコのクリティカルヒットが決まりました。崩れ落ちるブタ。そして群がる肉食獣。ジャングルの掟は冷酷です。
ヒヨコはわざとスタミナが切れたふりをして、ブタの隙を待ち、冷静に飛び込みを緊急回避してブタの背後を取ったのです。
「今回はなんとか勝った。だが、『敗れ』は近い…。しかし、その時までオレは戦い続けなければならないだろう」
やはりどこかの漫画で聞いたようなセリフを口にしつつ、ヒヨコのログアウトが全体メッセージに表示されました。
 
 
えっと…褒める機能の話でしたっけ……?
 
このヒヨコとかブタは確かに言葉上賞賛されるような気もしますが、なんというか…「アイツはパンツを被って駅前を走り回っていた!すごい!!」と同じ意味での賞賛というか…。やっぱオンライン機能なんて最初からいらんかったんや!褒められれば何でもいいというものじゃないということがわかりましたね!トーキョージャングルは、オフラインゲーであってこそ上手いこと世界観が使えてるゲームであることだなぁと思うなどしました。
 
ところでこのゲーム、意外なことにエンディングがすごく良いので、最後までやってない人はやっておくことをオススメします。
ちょっとネタバレ気味なのでフォントを白くしておきますが、簡単な説明は下のとおりです。
 
このゲームには、とある場所にカビの生えた壊れた犬のロボットが転がっている洞窟があるんですね。その壊れた犬ロボットには岩間から差し込んだ陽の光が当たっていて、とても幻想的で悲しげな風景になっています。その犬ロボットがどうしてそこにいるのか、彼は何を選択したのか、をたどっていくのがトーキョージャングルのストーリーです。
「マスター…ワタシハ……オ役ニ……タテマシタカ……?」みたいな感じで、人間に異常に献身的なロボットっているじゃないですか?でも犬ロボットの最後の決断はそうではなかったわけです。んで、人類全滅エンド。
それを選んだ理由も納得のいくものだったし、最後のシーンも感動モノだったので、バカゲーだと思っていたのでガンとやられた感じでした。
ただ、ラスボスの犬がグルグル回って360度レーザー撃ってきたのはいかにもバカゲー的な光景で笑うしかなく、大変すばらしかったですね。