当たり判定ゼロ

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ガチャを信じる汝らに祝福あれ

いつからだろうか、思考がガチャに支配されてしまったのは。

いつからだろうか、ゲームにガチャが織り込まれるのが当たり前になってしまったのは。

コナミガンホーバンナム、サイゲ。時代の移ろいとともに主役となるゲームすら変われど、多くのメーカーがソーシャルゲームによって莫大な利益を上げることができたのは、紛れもなくガチャがもたらす収益性の仕組みによるものです。

ガチャは1タップごとに3,000円などを支払う必要のある恐るべき集金装置ですが、その課金ごとにかかるコスト(変動費)はGoogleやアップルに支払う30%以外はほぼゼロ。このとき、100を売り上げたとすると変動費は30となるわけですから、変動費率は30%となります。

たとえば小売業なんかだと80で仕入れたものを100で売ってたりするわけですし、卸売業なんかだと90で仕入れたものを100で売るのもザラです。比較するとガチャがいかに変動費率の低い収益モデルかということがわかります。

限界利益率」という指標があります。

要は「1売上が増加したときに利益がいくら増えるか」を示す指標で「売上高-変動費率」で求められます。ガチャは1売上が増えると利益が0.7増えるわけなので、限界利益率は70%となります。

この「限界利益率」という指標は、ビジネスモデルを考えるときにもっとも端的に分析できる重要な指標と個人的には捉えていまして、新しい業態を見たときは、まずこの「限界利益率」がどう算出されるビジネスモデルであるかを考えるようにしています。

どうでもいいけど「限界利益率」の「限界」って言葉、昔「ある数字が1増えたときに特定の数字がいくつ増えるか」という意味と習ってもイマイチ日本語がしっくり来なくて、ゲーム漫画アニメで育った人間としては何というか限界と言われると「バトル漫画用語かな?」って感じで、どこに限界の要素があるんだ追い詰められてパワーアップでもすんのかゴラァと思っていましたが、「限界」を英語に直したときの「Marginal」という言い方がしっくり来たので以来そう覚えています。誰だよ初めに限界って訳した奴は。

話を戻すと70%という限界利益率は、ビジネスモデルとしては高い方に分類される数字です。

同様の収益モデルを持つものとして旅館業を始めとした箱モノビジネスがあります。旅館業も、かかるコストはお客さんが来ようが来まいが殆ど変わらない固定費がコストの多くを占め、変動費で一番大きなものとしてはお客さんに出す料理の原材料費ですが、総じて限界利益率は80%を超える水準にあることが多いです。1を売り上げたときに0.8も利益に変わるのですから、損益分岐点さえ超えてしまえばウハウハというのが高限界利益率のビジネスモデルの特徴となります。そのため旅館業では高い稼働率を実現するのが重要で、部屋が空いているよりは値引してでも入れたほうが良いので、直前割料金などが存在します。

ただし、旅館業の場合は、他に個別サービスとしての収益源を求めない限りは満室になってしまえば、売上はそれが上限になってしまうので、拡張性のない収益モデルと言えます。

ところがガチャはどうでしょうか。

1万人回そうが、10万人回そうが満室にはなりません。また、お客さんが増えても急に増改築のできない旅館業と違い、アクセス過多などの一時的な問題が起き得る程度で、構造上は極めて拡張性の高い収益モデルと言えます。

限界利益率が高く、拡張性に優れている」。これが損益分岐点を超えたときに爆発的な利益を生み出す仕組みです。あと付け足すならば「マーケットが大きいこと」。

この3つの要件を満たすビジネスをガチャ以外でも思いついたらビッグサクセスできるぞ!! 万が一見つけたら誰かに喋ると真似されてしまう恐れがあるから、こっそり私だけに教えてくれよな! いいな、私にだけだぞ!!!!!

……コホン。かたや、逆のパターンに目をやると、売上が下落したときに同時に不要になる仕入れコストがないことから一気に赤字転落するのも限界利益率が高いビジネスの特徴です。短命のソーシャルゲームが多いのはこの理屈によります。小売業や卸売業などは仕入コストによる変動費率が高いことから、売上が落ちたら費用も落ちていくので、潰れるまでに案外粘れることが多いです。

ガチャ、それにしてもなんという素晴らしいビジネスモデルでしょうか。

AppleGoogleに支払う税さえなければ、ガチャを回されるたびにかかる費用はほぼノーコスト……!! したがって、バンバン広告宣伝してスケールを獲得することが、このビジネスの勝利パターンとなっています。

しかし、「限界利益率が高く、拡張性に優れ、マーケットが大きい」この3つの要件を満たした収益モデルは遥か昔に先人によって考案されていたのです。しかも人類がこれまで生み出した過去最強規模で。

それは宗教。

宗教団体の収入としてもっとも一般的なものは「寄進」でしょう。対して神のご利益に必要な変動費というものは考えられるでしょうか? ないのです。強いて言うなら中世カトリック教会が発行していた免罪符の製造コストが変動費になるでしょうか。天国に行ける権利の製造コストはゼロなので、限界利益率は極めて高い数字となります。

そう考えるとカトリックプロテスタントの争いにより外国に活路を求める必要があったという背景はあれど、中世のキリスト教教会が外国に布教を勧めるインセンティブはあったとみて良いでしょう。変動費がないモデルは、スケールがもっとも有効に働くモデルだからです。また、宗教は非常に拡張性に優れています。1万人の信徒が寄付してくれても、10万人の信徒が寄付してくれても受け入れないという選択肢は起き得ないのです。マーケットは全人類。そりゃ大聖堂も立つわ。

おわかりでしょうか。同じ収益モデルを有し、広告宣伝によりガチャを勧めるソシャゲ、ザビエルを送り込んで神の教えを勧める宗教……何が違うのでしょう。全く同じではないでしょうか。つまり、ガチャはやはり宗教行為だったのです。

「お布施」とか言いながらガチャを回す奴はただのバカじゃなかった。あれはれっきとした宗教行為だったのです。それをわからず批判することの何と愚かだったことか。ありがたやありがたや。

しかし、問題はこれで終わりません。

ガチャを宗教行為であると定義し直したとき、何が起こるでしょうか。

そう、ガチャが商行為でなくなったことにより不課税対象となるのです。

国税庁発行の「宗教法人の税務(PDF)」によると「宗教法人も消費税及び地方消費税の納税義務があります」と定められていますが、「その差額が通常の物品販売業における売買利潤ではなく、実質的な喜捨金と認められるような場合のその物品の頒布は、収益事業には該当しません」とあり、法人の性格ではなく、いわゆる収益事業を行うか否かという点で線引がされています。

例えば、おみくじは売価と対価があまりに見合っていませんから喜捨行為とみなされ不課税となりますが、数珠の販売などは物品の販売ですから対価のある商取引であるとして課税対象になるわけです。

え? 売価と対価が見合っていないのが不課税の理由になるの??

ここに来てガチャの常軌を逸した価格設定が意味を持つようになるとは……。

アレに10回3,000円の価値が無いことは誰の目にも明らかです。課金をしようとする人も、自分が対価を求めてのものではなく、プロデュースしようとするアイドルのためであったりするわけで、その思いは純真に真摯そのものであり、対価を求めない喜捨性の高いものであることは疑いようもないでしょう。それは神に寄付したり託宣を求めたりする行為と何が違うというのか。

ガチャはおみくじであり、個々人が信ずる神への寄進なのです。やはりガチャは神聖な宗教行為だった……!!

しかしながら、その宗教性について外部から見たときにわかりづらい状態にあるのもまた事実です。そのため「ガチャ」という表記はすべて「喜捨」に変更、排出されるキャラクターなどに「聖遺物」の補足書きを行うことで外部への説明責任を果たせるようにすることが好ましいでしょう。

また、寄進する側から見てもガチャを寄付行為として捉えると、その資金は寄付金として税法上所得から控除できることが考えられます。その際はガチャの宗教性について税務署職員にしっかりと説明し、損金としての正当性の確認を受けるようお願いします。