フロム・ヤクザ・トゥ・ネトゲ
「ほら、ここをクリックして…そう、これで君のキャラクターが作れた」
「おう、簡単じゃの。ネトゲってのは」
「まずはキャラクターの名前を付けるんだ。ほらここに入力して」
「ほれ、渡邉拓真…っと」
「違う!こういうのは本名を入れないんだよ、君の名前じゃない。君のキャラクターの名前をつけるんだ」
「渡世名みたいなもんやな」
「なんだそれ」
「山口組組長の司忍っておるやんか。あれ本名は篠田建市っていうんやで。やくざ稼業のもんは本名とは別に名前を持っていることがあるんや」
「まぁいいや。ほら、フィールドにキャラクターが立ってる。これで君もこの世界のルーキーってわけだ」
「若衆入りというわけやな」
「先に言っておくけど月額で課金が発生するから気をつけて」
「上納金やな」
「まずはどこかのギルドに所属したほうがいい。集団に所属すると仲間も作りやすいし資金面、アイテム面でも有利になる」
「組には入ったほうがいいやろな。一匹狼なんてなんもええことあらへん」
「各ギルドにはギルドマスターと呼ばれる人がいる。その人がギルドの権力を握っているわけだ」
「オヤジにあたるわけやな。粗相のないようにせんとな」
「ギルドで偉くなるためにはギルドに貢献することが必要だ。ギルドから活動の声がかかったらすぐにギルドハウスに行ったほうが良い」
「そらそうやろ。やくざもんはオヤジからの電話を取り逃したらコトやから、常に携帯は最大音量にするのが習わしや」
「敵対ギルドと戦う攻城戦というのもある」
「出入りやな。ワシの出番やろ」
「ギルド活動に専念して留年や退職したりするとハクが付いて偉くなりやすい文化もある」
「ブタ箱食らったらハクが付くのは当然や」
「けど中にはのめり込み過ぎて親からネットを引き剥がされて退場する奴もいるんだ」
「パクられてしまったわけやな…。そうならんように気をつけなな」
「手に入れたアイテムは街中で露天を開いて売ることが可能だ。ほら、その辺にいるだろ」
「テキ屋やな。ワシも昔やっとったわ」
「バグで増やしたアイテムを売ったりする困りものもいたりするんだが、そういう奴は見つかり次第BANされる」
「絶縁されてしまうんか。絶縁状もらわんようにせんとな」
「引退すると言って辞める奴もいるが、結構な確率で戻ってくるから困りものだ」
「足を洗うことなんてでけへん。この世界に一回足突っ込んだらシャバの空気に馴染めへんで。みんな最後は戻ってくるんや」