当たり判定ゼロ

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5年後のシンデレラガールズ

先般、誤って森の泉に斧を落としたところ、奇妙な老人と出会ったという話を友人から聞きました。
伝聞の話のため、真偽は定かではありませんが、だいたい以下のようなやりとりがあったそうです。

友人は、うっかり泉に斧を落としてしまった。てっきり泉から女神が出てくるのかと思ったが、待てども待てども何も出ない。もしかしたら女神とは想像上の生物なのかもしれないという可能性に気が付き、泉から踵を返し帰ろうとしたところ、いつの間にか目の前にガラの悪そうなロングコートを着た老人が立っていたそうな。
「わしは5年後の世界から来た」老人は、しわがれた顔から煙草を離し、地面に投げて右足で踏みつけた後、ハッキリと宣言した。
「おい煙草のポイ捨てやめろ!」彼は注意した。
「!!」環境に配慮した指摘に、老人は言葉もないようであったが、やがて吸殻を拾って公園のゴミ箱に捨てると戻ってきた。
「わしは5年後の世界から来た」
「マジかよ!!」落ち着いた性格で仲間内では通っている友人だが、さすがの彼もその時はたいそう驚いたとのことだ。そして老人は語り出した。
「そうだ、斧は返してやれんが、そのかわりお前が今一番知りたいことを一つ教えてやろう」
「『E.Gコンバット』の最終巻がいつ出るのか教えてくれ」
「ダメじゃ、なぜならばそれはお主が今一番知りたいことではないからじゃ。自分に正直になりなさい。今、お主が一番知りたいことは『アイドルマスターシンデレラガールズ』の未来についてではないかな?人間が心から望むことは顔に出る。隠したくとも隠せるものではない」
「なんだその進研ゼミの漫画みたいな突拍子もないネタ振りは」
「未来の民の前に隠し事はできん」
「ならば教えてくれ。俺はあと何回きらりんと杏のSRを目にすれば許される?」
「何回じゃったか…。多すぎて覚えとらん。しかし、商売なんだから人気キャラばかりSR化するのは仕方なかろう」
「Pの数はどうなんだ。未来のちひろの財布は今よりも分厚いのか?」
「残念かどうかわからんが、今お主のいる時代の前後がピークと言われている。しかし悲しむことはない。永遠に拡張し続けるネットゲームなどどこにも存在しないのだから」
「ならアイドルの相場は下がるのか?バレンタインしぶりんが高すぎて困っているんだ。スタドリ1000なんて簡単に用意できん」
「1枚のSRの話なら、全体の性能が上がれば、そのSRの価格はいずれ下がる。だが、『強SRの相場の推移』という単位でくくるには、モゲマス経済のインフレがどのように形作られているのか理解せねばならん。相場を形作る構造を理解すれば、未来の動きも自然と予測できる」
「フムン」
「まずスタドリの流通増加要因はなんだ?」
「そりゃあ課金だろ……それから無課金者のお仕事進行の報酬くらいか」
「そのとおり。つまりPの数が増えれば増えるほど、スタドリが市場に投入される量が増えることになる。では、スタドリの流通減少要因は?」
「イベントによる運営の吸収……それから引退者が死蔵するのが考えられるな」
「そのとおりじゃ。つまりPの数が増えれば増えるほどスタドリの流通量が増える。言い換えれば『モゲマス経済におけるスタドリ流通量は、アクティブプレイヤーの数と正の相関関係にある』と言える。正確に言えば課金総額と正の相関になるわけだが、課金総額はPの数に依存するとみて間違いなかろう」
「廃課金者も、他のPがいるからこそ課金するというのもあるだろうな」
「そしてモゲマス経済は今でもインフレによる膨張を続けている」
「検証する材料は?」
「たとえば、2012年4月上旬のトレスレを見てみるが良い。当時は『制服コレクションコンプガチャ』の最中で、当時最強の性能を誇ったSR春香が新たにガチャに投入された時代じゃった。流通相場を覚えているか?」
「さっぱり覚えていない。500くらいか?」
「300前後じゃ。その次のコンプガチャSR美希は性能が高かったため380前後となっているが、水準としては大きく変わっていない」
「今の新ガチャの強SRは、大体1000くらいが相場だよな」
「そう。アイドルの性能自体はいつの時代も相対的なもの。常に相対的に同等の価値である強SRの相場が上昇しているということは、すなわちスタドリの流通量増加によるインフレを意味しているんじゃ。インフレ状況は、新ガチャSRの相場推移によって可視化される。覚えておくがいい」
「イベントのボーダーは上がっているのにな。吸収が追いついていないということか」
「少し違う。運営はすでにスタドリの市場からの吸収を諦めている」
「なるほど……つまり……一体どういうことだってばよ?」
「初期の時代を除いて、イベントにおけるアイテムは、すべて基本アイテム+ブーストアイテムの構造になっている。たとえば今回のアイプロだとスタドリ+お弁当、フェスだとエナドリ+エナドリチャージ10の構造になっておる。このとき、すでに流通している基本アイテムの効果が高いほど、ブーストアイテムの必要性がなくなることはわかるな?」
「運営からすると、基本アイテムだけでイベントを済まされると課金が捗らなくて困るな。スタドリやエナドリなんて既に腐るほど流通している」
「この手のイベントは、運営によって2通りの解釈がなされる。通貨の吸収と捉える運営もいれば、課金の機会と捉える運営もいる。初期のイベントは通貨の吸収の役割が強かったが、次第に課金の機会として位置づけられ、いかにブーストアイテムを売らんとするかに力が注がれている。それもインフレ加速化の要因の一つとなった」
「アイプロはまだスタドリ走法のほうが有効のようだが?」
「じきに修正が入る。見ているといい」
「そういやジジィ未来人だったな。結局5年後の相場はどうなんだ?上がるのか?下がるのか?」
「運営のスタドリの回収に対する諦観の態度が相場の上昇をもたらし、一時的に新レアの最高価格は1500前後の推移となった」
「上がるのか」
「一時的といっただろう。今から1年後にピークをつけた後は、プロデューサー人口の現象とともに相場も沈静化を見せ始めた」
「人口オーナス効果か。少子化に転じた後の日本みたいだな」
「もしお主がPを引退する日が訪れた時、お主はどうする?」
「そりゃ最後に走って花火を上げるさ。どうせ円には戻せない一方通行の為替だからな」
「当然そうなる。Pは生まれると、ちひろからスタドリを買い、そしてちひろに返し、現世に帰る日が来るのじゃ。それが相場の下落圧力となる」
「スタドリの流通量が減って、デフレの時代が訪れるんだな」
「しかしデフレは急激には訪れん。課金によるスタドリ量増加圧力と人口減によるスタドリ量減少圧力のせめぎあいが続き、じわじわと下落する方向に転じたからじゃ」
「インフレのほうが進行スピードは早いんだろうな。人口が流入すればどんどん課金者が増えてスタドリ流通量も増加する。無課金者でもお仕事の進行でスタドリを生むことになるしな」
「そう、だから5年後の今、最強スペックの新レアとして登場した攻35000のSR池袋ちゃんは、スタドリ1000前後で取引されている。ここから1年間で上がった相場は4年間をかけてじわじわと相殺され、今この時点と同じ水準に落ち着いたんじゃ」
「SR池袋ちゃんが最強性能とかどんな時代だよ!?ジジィ違う世界線から来たんじゃねぇのか!」
「『全タイプ攻守極大ダウン~極大アップ』のギャンブル性能が魅力的な素敵SRなんじゃ。その代わり基本性能が高い」
「それ本当に必要なのか…」
「『全タイプ攻特大~極大アップ』とかそんなんばっかりだと飽きるじゃろう。しばらくすると変化球の特技性能を持った新SRが登場する。その後は堰を切ったように特技の種類も多様化が進む」
「それはそんな気がするな。しかし当面スタドリの価値が落ちていくなら無理に今投資する必要はないか…」
「馬鹿モンがぁーー!!!!」
「なんやねん急に」
「ゲーム内の損得を語るのは良い。現実で損得を考えるのも良い。だが、現実の価値観でゲームの損得を考えてはならん。ゲームはお前にとって得だから遊ぶのか?損だから遊ぶのをやめるのか?お主にとって一番ゲームが楽しかった時代を思い出してみるがいい。いくら金を使ったとしても、いくら時間を注ぎ込んだとしても、それに関して損だから得だからという発想は存在しなかったはずじゃ!ゲームとは本来、現実の損得やコストという発想ともっとも遠いところにあるものなのじゃ!」
「わ、わかった。わかったよ……。とりあえず何も考えないで課金すりゃいいんだろ?」
「うむ。その行動が良かったか悪かったかなどは、わしくらいの歳になってからゆっくり考えれば良い。今はただ邁進せよ。しかし、そろそろお別れの時間が近いようじゃ…」
「じ、ジジィ、姿が……薄くなって」
「未来に帰る時が来たのだ。よいか若者よ。たとえスタドリが円に比べて価値を落とそうとも、それはただの為替レートの話だ。他人と共有する価値の話だ。ゲーム内の通貨であろうが、それがお主にとって価値があるものであれば、それで良いのだ。他人の評価など気にしてはならぬ。レアやSレアのアイドルをGETするにはガチャが一番。若人よ、課金せよ」
「こ、これは……煙!!姿が薄くなっているんじゃない!視界が悪くなっているんだ」
「さらばだ!若者よ!」
そう叫んだ老人は、煙の向こう側で軽快に足音を響かせながら、未来に帰っていったという。

信じるか信じないかは貴方次第ですが、私はおそらく眉唾ものではないかと思っています。