当たり判定ゼロ

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アニメ化の『八月のシンデレラナイン』、無駄に闇が深い美少女でスタメンが組める

美少女は大人気じゃないですか。
野球もたくさんの人が見ているじゃないですか。
 
ならば「美少女×野球」なんて、マスマーケットとマスマーケットの相乗効果で一見無敵の組み合わせみたいに見えるんですけど、なぜかヒット作の出ない死屍累々の修羅道なのですよね。美味しいとんかつと、美味しいパフェを組み合わせたら美味しいのかと思いきや、マズイ、みたいなもんですかね。
その中において、今もっとも美少女が野球やってるコンテンツとして熱いのは、ハチナイこと『八月のシンデレラナイン』でしょう。美少女が野球やってるゲームなんて他にほとんど無いので、時代を代表するゲームと言っても過言ではありません。しかも普段セルラン200位くらいをウロウロしているのに、何をトチ狂ったかアニメ化までしてしまう点でまさに唯一無二の野球ゲーと言えましょう。
 
まぁ、建前上は。
 
実際ハチナイをやってみると美少女ゲーらしく、イラストの良さと読ませるシナリオという、野球ゲームというよりもキャラゲーとしての側面が強いことに気付かされます。というより、結局ガチャ引いてスタメン強化してCPUを殴り続けるというゲーム性に、若干「野球かこれ?」という点もないではないですが、まぁ一応野球ゲームではあります。ヒットとかホームランとか書いてるし。守備位置とかもある。
 
で、そのハチナイなんですが、このゲーム、キャラクターにスポットを当ててシナリオを書くと変に闇が深くなるという謎の傾向があって、今日はそのあたりの話をします。
闇が深いと言っても「あははははは、私に生きている実感を感じさせてみせろよぉぉぉ!!」みたいなファンタジーな性格しているキャラクターが出てくるわけでもなく、登場人物はわりと喜怒哀楽のハッキリした普通の女子高生だし、なんかシナリオで無駄にレイプとか出てくる暗い話というわけでもないのですが、家庭環境に問題があったり、イジメだったりと地味に暗い。
 
「~で打線組んでみた」は一時期よく見たフォーマットですが、ハチナイは1ポジションに3~4人程度キャラクターがいるので、まさに当初の意味合いどおり選手で打線が組めてしまうんですよね。見ていきましょう。
 

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1番右翼手 倉敷 舞子(家庭崩壊)
俊足で投手も務め、攻撃に守備にと頼りになる倉敷先輩も、家に帰れば家庭が崩壊している。父親は他に女を作って家を出ていき、母親は娘に精神的に依存をして生活をしている。家族の関係改善を図りたい舞子が、せっせと貯めたバイト代で食事会をセットするも、スマホを気にする父親に母親が罵声を浴びせ大喧嘩。絵に描いたような家庭崩壊を見せられて金八先生かよと思うけど、本当にこれ野球のゲームなんですか?
 
 

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2番遊撃手 直江 太結(虚像の自分)
中学の頃の友達に再会して「今、投手をしていて皆から頼られていて…」と話してしまい、友達が練習を見に来たときにチームのみんなからリーダー扱いされることを演じてもらう羽目になる。口は災いのもと。ネットの世界でもハンドルネーム「棚尾ゆえ」を名乗り、頼りになる自分を演じる生活をしている。なぜかHR率が上昇する「一発の極意」のスキルを持っており、バントでホームランの絵が出てきて別のゲームを再現してしまう。
 
 

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3番投手 有原 翼(主人公)
本作の主人公。野球のことしか頭にない野球星人。その実力は高く、対戦した相手、肝心の有原は対戦した相手の存在自体を忘れていて心を傷つけることがよくあるナチュラル畜生。彼女の興味は野球という概念そのものにあるのであって、対戦した人間のことではないので仕方ない。ゲームにありがちな「設定だけ強いがゲーム上の能力は微妙」こともなく、設定同様どのレアも強い。現実は残酷である。
 
 

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4番三塁手 東雲 龍(有原翼被害者の会1号)
3人の兄のうち2人がプロ入りしている野球家族に生まれた野球エリートで、ぬるい練習をするチームメイトには厳しくあたる癖があり、「お前と野球するの息苦しいよ」と言われるタイプ。シニア時代は強豪チームに所属していたようだが、どれだけリードしても笑顔でプレイする有原翼のチームに逆転負けを喫したのがトラウマ。が、肝心の有原翼はそのことを忘れており、東雲が指摘しても全く思い出すことはなく、いたく傷ついた。
 
 

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5番左翼手 柊 琴葉(有原翼被害者の会2号)
東雲と同様、かつて有原翼のチームと対戦して破れている。その際に「世の中には才能というどうしようもない壁がある」と絶望し、一旦は野球を辞めている。クラスメイトが野球部に入ると言うので練習を見学した際に野球部を主宰する有原翼と再会するが、有原からは完全に忘れられており「はじめまして!」と、ひどいことを言われる。地を這う蛇の気持ちは、空を飛ぶ鳥にはいつまでもわかりはしない。
 
 

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6番中翼手 永井 加奈子(貪食の罪)
美少女キャラのウェストとしては異例の66を誇る圧巻のデブセンター。ハチナイで最も守備の低いキャラなのになぜファーストでもサードでもなく守備範囲の広いセンターをやらせるのか謎。HRを連発しやすくなる「おかわり」のスキルなど、明らかに西武のおかわりを意識している。昔はさらに太くて周りからも色々と言われていたらしく、男性が苦手な性格になった。ハチナイのことだから拒食症になるエピソードとかやりかねない。
 
 

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7番一塁手 野崎 夕姫(心が弱い)
大きな体に優しい心を持つキレンジャーみたいなファースト。もちろんおっぱいはデカい。足は遅い。ゲーム内では投手をやらせるととにかく直球が速く、最速で170km/hも投げるサウスポー。チャップマンくらい速い。練習についていく基礎体力がないことに加え、気が弱い態度が東雲の気に障るのか「甘えるな!やる気ないなら帰れ!」みたいな少年野球のコーチから言われる罵声をよく浴びせられていてつらい。
 
 

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8番捕手 椎名 ゆかり(カインコンプレックス)
「あはっ」が口癖の、いつも笑顔でみんなの人気者の美少女。しかし内面はスーパープレイヤーだった姉と比較されて育ったコンプレックスでドス黒く染まっており、一旦は野球を辞めている。高校でも野球部に入る気はなかったが、同じく優れた姉を持ちながら意に介するそぶりもない有原翼を見て心を変える。入部理由は「姉と比べて自分が劣った存在であるという、ゆかり自身が苦しんだ劣等感で有原翼も苦しむ姿を見るため」。
 
 

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9番二塁手 坂上 芽衣(イジメ被害者)
中学から野球部に所属しており実力は高いが、当初は野球に関わることを拒む。その理由は中学時代に受けたイジメ。このイジメのイラスト、グローブにハサミ入れられているところまではまだわかるんだけど、更にライン引きの中に捨てられてたっぽい細やかな描写が「お前もイジメ受けてたんか?」と開発に質問したくなる謎のリアリティ。ソシャゲ遊んでただけなのに、なぜかリアルなイジメ描写を見せられる!それがハチナイ!
 
 

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改めて振り返ると、『八月のシンデレラナイン』は長期間のリリース延期を経て、2017年に、8月とか言いながらなぜか6月にリリースされたゲームで、サービス開始から2年弱が経過し、ついに4月にアニメ化されることになりました。
最初は、画面に表示されたスコアボードの前に数字だけが並んでいくだけの「これ本当に野球が行われているのか?」という疑問しか浮かんでこないゲームでしたし、個人成績の表示すらありませんでしたが、2018年3月の大型アップデートで試合画面が実装されるなど、少しずつ「野球かもしれない」というところが出てきています。
 

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今では過去100試合の野手成績を見ることができるようになっているのですが、そこで実装された指標がなぜかRCとOPS。RCというのは走力も含めた総合的な攻撃力を表すセイバー指標で、それはそれで良いのだけど、なぜ防御率や盗塁数のような一般的な成績を実装する前から色々すっ飛ばしてRCから入るのか。おにぎりでも普通は梅とか明太子から商品化するだろうに、先にチーズおにぎりから売り出してきたような感じ。このアンバランスさ、実にハチナイ。
 
 

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ストーリーは、前述のとおり無駄に登場人物が心に傷を負ったエピソードを描いた話が多く、1番の家庭崩壊から9番のイジメまで切れ目のない打線はリーグでも屈指。
特に下位打線ながら8番の椎名ちゃんのエピソードはどれもネガティブで、心の闇マニアにはオススメの一品。椎名ちゃん、いい子なので外向きにはいつもニコニコ笑って明るい性格してるけど、心が病んでて事あるごとにすぐ自分の中でスイッチ入ってネガっちゃうんだよな。野球をしてないときは本当に楽しそうなのに。
 
 

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イラストは抜群に良いです。リリース以来イラストの品質だけが右肩上がりに向上し続けていてもはや怖い。特に「クレヨン絵師」と呼ばれる謎の絵師のイラストヤバイ。何かの間違いでハチナイが流行ったらクレヨンイラストの威力を世間が知って、クレヨンが一世を風靡することになるのにワンチャンあるくらいすごいぞ。
 
ともあれ、ゲームとしてみると、弱いCPUの木偶を殴り続けてポイント稼いでいく初期のソシャゲモデルから脱しきれていないゲームシステムに、これ野球ゲームである意味あるのかな?と思うことは1日に2回くらいあります。アニメだって日曜の深夜1時半とかいう放送時間は決して恵まれたものではないです。
 
でも、一つだけ確かなことがあります。
 
美少女が、野球をやっているんですよ。
それだけでハチナイを始める理由には十分じゃないですか。

野球賭博2019

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今年も選手名鑑何時間も眺め続ける時期がやってきたので、ここ何年か続けているプロ野球の順位予想置いておきます。シーズン終わったときドヤるぞ。今年こそ12連単当てて一生遊んで暮らすんだ…。

ちなみに、Amazonで買ったとかいう柳田のフェイスガード、見た感じどうもこれっぽい
本当に売ってるのね。
ちなみに過去のはこちら。全然当たってないぞ。
2018(予想 / 振り返り
2017(予想 / 振り返り
2016(予想 / 振り返り
 

パ・リーグ

1位 福岡ソフトバンクホークス(昨年順位:2位)
誰か選手が故障したり不調になったと思ったら、雨後の筍のように代わりが出てくる選手層の厚さ、つまり組織として「代替性」が確保されており、持続可能性を構築していることが最大の強み。まさかシーズン途中で獲ったミランダまでが当たりとは。唯一のリスクは柳田だけど、柳田山田クラスの替えが効かないのはどうしようもない。逆に言えば順位を大きく落とす要素は柳田以外に存在しないということかもしれない。
 
2位 東北楽天ゴールデンイーグルス(昨年順位:6位)
一部のインターネットで大人気のジャバリ・ブラッシュがついに日本にやってきた!3Aで無双、メジャーでダメという典型的な4Aタイプなので日本でハマる可能性はある。冗談みたいな飛距離のHRで楽しませてくれることでしょう。則本が手術で半年棒に振ったのは痛いけど、今シーズンは古川侑利が通年でローテ回してくれるだろうし、昨シーズン悪かった藤平もこのまま終わると思えない。浅村も獲れて、総じて上積みの多いチーム。
 
3位 北海道日本ハムファイターズ(昨年順位:3位)
ホークスと違う意味で替えが効くことで持続されているチーム。故障や不調の替えではなく「卒業」の替え。ホークスはシーズン中でのチーム力の堅固さを持つのに対して、日ハムは主力が移籍してもシーズンをまたいでチーム力が維持される堅固さを持つ。西川、大田、王柏融と気がつけばリーグ屈指の外野がストロングポイントで、浅間も控えている。王柏融は通用するんじゃないかなぁ。コンタクト能力は嘘をつかない。
 
4位 埼玉西武ライオンズ(昨年順位:1位)
菊池雄星と浅村が抜けたのはWAR10相当に匹敵するので、野上や牧田が抜けた例年とはレベルが違う。おかわりは守備指標も落ちていてガタが来ているのはハッキリわかるし、厳しいシーズンになりそう。ただ先発陣では、今井達也、高橋光成、松本航と20代前半にビッグネームが揃っていて、上手く育てば数年後はむしろ投手王国になっている可能性がある。いずれにせよしばらくは野手のチームと投手のチームを切り替える過渡期。
 
5位 オリックスバファローズ(昨年順位:4位)
西、金子が抜けたけど、山本由伸を先発で使えることを考えると、実は投手陣は代替性という観点からはそこまで大きな落ち込みはない。田嶋も奪空振り率が高いので、ケガさえなければそれなりの成績を残しそう。むしろ問題は野手陣で、吉田正尚を除いて攻撃力のある選手がおらず、肝心の吉田も本来故障がちな選手。昨シーズン不振に終わったロメロ、マレーロ両外国人がどこまで持ち直すかという外国人頼みの状態が続く。
 
6位 千葉ロッテマリーンズ(昨年順位:5位)
日ハムから移籍のレアード、新外国人バルガスと、低打率高IsoPの「当たるも八卦当たらぬも八卦」打線。こういう選手って結構HR打ったとしてもOPSだと0.8前後に収まりがちで、意外とチームに貢献してなかったりするのよね。それでいてファーストサードDHといった打撃ポジを占拠するのでコストが重い。あと、チームとして数年来センターラインの弱さというところがあって、ここに強い選手が置けるまで厳しい順位が続くのでは。
 

セ・リーグ

1位 読売ジャイアンツ(昨年順位:3位)
野球はセンターラインですよ。西武には森浅村源田秋山が、カープには會澤にタナキクマルがいたから強かった。そういう意味では、捕手は置いといて丸を補強したことで吉川坂本丸の三人という日本トップクラスの選手を揃えられたのはアドバンテージ。問題は誰が見ても明確で、リリーフをどうするか。ただ、野手・先発・リリーフでどこが一番弱いのが許されるかって、それはリリーフであるとは思う。要は弱い部分が一番マシ。
 
2位 広島東洋カープ(昨年順位:1位)
丸が抜けたことで、これまで圧倒的な戦力優位を誇っていた野手陣にアドバンテージがなくなった。先発では岡田が伸び悩み、15勝投手薮田は行方不明。リリーフ陣では新外国人レグナルトは奪三振率見てると良い成績を残しそうだけど、今村や中崎あたりが年々成績を落としているのも気がかり。中継ぎという仕事はどうしても寿命が短い傾向がある。チームとしての全盛期は過ぎてしまったのかもしれない。陽が少し暮れてきた。
 
3位 横浜DeNAベイスターズ(昨年順位:4位)
投手陣だけを見るとリーグ1位と思う。今永は去年あまりにも運が悪すぎた。東が戻ってくれば先発陣も揃うし、後ろがパットン山崎で安定していのも大きい。ただ長年の課題としてセンターラインが弱く、3位を超える順位を望むための宿題が二遊間問題。データが少なくてなんとも言えないが、まずはソトのセカンド守備が機能するかどうか。それでもショートはどうにもならない。まだ宿題は積み残している。
 
4位 阪神タイガース(昨年順位:6位)
メッセ岩貞秋山とおなじみのメンツに、西とガルシアが獲れたので他球団でいうローテ1、2番手クラスの投手が並ぶという先発陣は豪華。今季は石崎の復活に期待がかかる。今一番気持ちいいストレート投げる投手だよ。投手は文句なしも問題は野手で、全体的に力不足。あと、OP戦で新人の木浪が頑張ってるけど、ショートはそろそろ北條が出てくるべき。ウェスタンで四球が三振より多いというところに片鱗が感じられなくもない。
 
5位 東京ヤクルトスワローズ(昨年順位:2位)
去年はリリーフ陣が少し出来すぎな感も。先発はリーグワーストクラスで、野手は山田頼りなのは変わらず。補強も神宮をホームとしながら、フライボーラーの高梨を取ったりと的外れで、成瀬の二の舞の懸念も。一方、去年高卒1年目でイースタン1位のOPSを叩き出したトッププロスペクトの村上が今季どう成長するかは楽しみ。BB/Kも良く、指標上も文句なし。ウイポで言うなら「超大物」のコメントが牧場主から出てくるレベル。
 
6位 中日ドラゴンズ(昨年順位:5位)
去年はビシエドと平田がともにWAR6以上と大爆発してようやく5位に滑り込みだったという事実は重い。二人とも過去の実績見ると良い選手ではあるけど、さすがに出来すぎだし、かと言ってそれを埋められる若手もいない。ダメ元で獲った松坂が計算に入りかけたくらいローテに人が足りないが160km/h左腕の新外国人ロメロは面白そう。ただ、球だけは速いけど、防御率はどのリーグでも悪いというコーディエ感に不安を感じさせる。
 
 
そんなわけで今年も野球の季節ですが、時代を代表する松井、イチローが引退して、いよいよプロ野球も新章に入った感ありますね。
 
当面の課題は、イチローが言ったような頭を使う野球の復権でしょうか。
どんな局面でも角度をつけて打球を上げてホームラン狙うというのは確かに効率的かもしれないけどそればかりになると面白くはない。実際、リアルに球場行くとヒットを打ってフィールドにボールが転がっているときのランナーってめっちゃ速いんですよね。あの短い時間でフィールドプレイヤーの判断が積み重なっていくスピード感は野球の醍醐味の一つですし、ホームランよりも2アウトランナー2塁からのタイムリーヒットのほうが盛り上がったりします。
 
もちろんホームランも野球の一部なので、ホームランがダメというわけではなく、あくまで戦術の最適解を許してしまうことが野球のゲーム性の結論みたいになってしまうのが良くない。どんなゲームにせよ、最適解が見つかったらそのゲームは終わりなんですよ。野球の到達点はここではないはず。
 
それで面白くなくなるからと野球のルールを変えてしまうのではなく、あくまで野球のルールの中でのフライボール革命へのアンチテーゼみたいなのが生み出されることを期待したいですね。サッカーなんてそのへん良く出来てて、覇権戦術のアンチテーゼがどんどん生み出されていきますし。それを野球も繰り返していくことがスポーツとしての進化なのじゃないかなと思いますね。
 
そんなことをイチローの話を聞いてて思いました。

DLEの決算書に見る粉っぽい兆候について

世の中に「正しい」ものってあるんですかね?
例えば「青」という色だって、あなたと私で「青」と認識している色が果たして同じ色なのかどうかわからないですし、人間の認識の確かさなんてそんなものですよね。
ただ一つだけ確かなことがある。今、あなたがこの文章を読んでいることです。そうですよね。伝わっていますか?今、頭の中で文章を再生していますよね?色々と不確かなことの多いこの世の中ですが、それだけは確かな事実。
そして今、この瞬間は、それだけが全てだ!私を超えてみろ!!
 
アーマードコアの新作が出ないあまり頭がレイヴンになっていたようです…。大変失礼いたしました。
ただ、例えば決算書にしても同じことが言えるんですよ。決算書って、言ってみれば経理の人が1つ1つ作った仕訳処理の集合体に過ぎませんし、人間が作っているものですから、そこには故意や間違いが含まれ得ます。それに対して、大企業であれば、プロの第三者である監査法人がお墨付き出してくれてるから「まぁ正しいのかな」くらいのレベルで認識しておくべきものです。もしかしたら、作った人とあなたでは違う決算書が見えているのかもしれません。
 
「鷹の爪団」で有名なDLEの粉飾がバレたらしいですね。第三者委員会の報告書自体は去年の11月に出てたんですが、今ごろ内容見ましたので、ザッとその話をします。ちなみに「粉飾」と「不適切会計」と「不正会計」の違いが学のない私にはわからないので、ここでは「粉飾」で統一します。区別がつく方は頭の中で読み替えていただけると幸いです。
 
まずは粉飾決算と実態決算の数字から。
 

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グラフだけだとどう違うのかパッと入ってこないですね。なので、差分を数字で並べたのがこちら。
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平成26年度から平成28年度にかけてのストレッチがすごかったようです。特に平成27年度なんて売上高の修正分に等しいくらい利益が吹っ飛んでる。DLEがマザーズに上場したのが平成26年3月、東証一部上場に指定替えになったのが平成28年4月。そうだね、東証一部行きたかったね。
一方で、平成29年度、平成30年度では、正しい決算処理をするとむしろ利益が増えてしまったりするようです。一体何が起こったのか確認するために第三者委員会の報告書(リンク先PDF)を見てみましょう。
 
ただ、あまりに様々な案件で粉飾やり過ぎた結果、第三者委員会の報告書が174ページもあって読むのが大変ですので、影響の大きかった処理をまとめるとだいたい以下3点に要約されます。(余談ですが、報告書を「認められない」で検索すると50件ヒットして大変楽しいです)
 
  1. 通常であれば作品を作って納品して検収を受けてから売上を立てるところ、制作が合意に達した段階でその総額の20%を「企画売上」という名目で勝手に計上していた。
  2. 製作委員会から制作を受注したA社がA社の子会社のB社に再委託するところの間に入って、実態がないにも関わらず利益5%の利益を得ていた。5%の利益分についてはそのまま製作委員会に出資金として拠出していたが、分配金はA社に回していた。すなわち、実態のない取引で利益を架空の利益を計上したことに加え、分配を受け取る権利のない資産性のない出資金を計上していた。
  3. 役務を提供した事実のない案件に対して架空の売上を計上していた。
 
このほか、納品時期の前倒しや費用の繰延べ処理、契約前に売上計上など色々ありますが、言い出すとキリがないレベルなので大きいところの3つを要点として考えていきます。あと、色んな案件があるので1つの手法について微妙に違う処理をしていたりもするのですが、そんな細かい違いの話をしても意味がないので、手法単位で代表的なやり方について話をするようにしています。
 
まずは1についてですが、一言で言うと「売上計上時期の期ズレ」です。
会計基準をちゃんと守ると、役務を提供して対価が成立することが売上計上の要件となりますので、本来であれば発注側が「そんなの知らんがな」ってなるようなのを売上に立てることはできないのですが、そこを「まぁ2割くらいは企画料と言えるのではないか」と勝手に判断して、案件の合意段階で受注額の20%を企画売上(DLEでは「プリプロ売上」と呼んでいた)として計上したものです。
 
このとき、受注額の総額自体を水増ししたわけではないので、実際に納品する後の期から、前の期に売上が移動することになります。
なので、「売上が目標に届かず増やしたいが何とかならないか」ってときにこれが使われるわけですね。契約書の文言に「企画料20%」と入れることを取引先が拒否した案件や、他社が企画した案件まで20%の企画売上を立てていたあたり、やりたい放題という感じで、スカッと生きてやがるなという感動があります。
報告書に掲載されていた証拠のメールに「吸わせてください」という言葉の意味はこの売上の移動を指します。
 

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 ただし、費用についてはズラしていないため、前期においては20%の売上増加分が丸々利益に化けますが、本来制作売上を計上すべき期については、売上が20%前期に吸われている一方、費用はそのままとなりますので利益的には苦しくなります。DLEのメールには、「赤が先行する」と書かれており、それを確かに認識していたものと思われます。なので、粉飾って一度やりだすと止められないんですよね。架空に黒を持ってきているので、やめた瞬間に赤を吐くことになるから。

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項目2番の処理はちょっとややこしいですね。
製作委員会が作品の制作を発注するにあたり、A社という会社に発注したのですが、A社はA社の子会社であるB社に制作を再委託しようとしました。そこにDLEが間に入り、A社から売上100で受注してB社に費用95で発注します。つまり、DLEは5の利益を手にするわけです。
DLEは手にした5の利益をそのまま製作委員会に出資。これによりDLEの手元には5の利益と5の出資金勘定としての資産が残ります。
 
まさに錬金術ですね。DLEは何もしてないのになぜか利益が出ました。すごい。
ただ、資金の流れから見ると、A社はDLEに100を渡して、DLEはB社に95を渡して、DLEは製作委員会に5を渡しています。製作委員会の上げる収益から得られる配当はA社が得ます。つまりDLEは資金から見ると1円も得をしていない。
 
DLEの行った処理には2つの問題があって、そもそも実体のない取引について売上を立てることはできませんし、実態のない発注もしてはいけません。これにより売上100、費用95を計上した妥当性が認められません。また、出資金5についてもDLEが収益配当を受け取る権利がないのだから、出資金としての資産性が認められません。
 
3番目は工夫がなさすぎて身も蓋もないのですが、A社と製作委員会を組成する旨の同意が行われていない案件について企画売上を計上しているものです。完全に架空売上ですね。一体何に基づく売上なのか、金額の根拠は一体どこからやってきたのか、一体誰が払うのか。当然案件の実態がないわけですから費用もない。売上立てた分全部利益。なんて儲かる案件なんだ。
まぁ売上なんて帳簿に仕訳一本切っちゃえば机上で計上できちゃうんで、追い詰められた会社なんてこんなもんですよね。ちなみに、売上とともに計上された売掛金は、後に回収されたように見せかけるためにA社に対して前払費用という名目で拠出され、還流してもらう形で回収しています。こんなDLEのわがままにA社結構付き合ってて優しいよね。どうしてこんなに優しかったんだろうね。
 
ところで、複式簿記って考えた人偉いなーってたまに思います。
複式簿記自体はもっと昔からあったらしいのですが、15世紀、それを『スムマ』という本に体系的に残したのがイタリア人のパチョーリというおっさんです。人類が商取引の蓄積である経済社会を作るにあたっては、複式簿記という記録言語の存在は欠かせないものでした。
 
複式簿記のすごいところは、必ず処理の足跡が残るんですよ。必ず「借方/貸方」と両方を一致させるように仕訳を切るので、例えば貸方の科目である売上を計上するならば、借方の科目に何か入れなければならないんですよね。
通常、売上であれば、売上に対する債権である売掛金が計上されます。すなわち「売掛金100/売上100」みたいな仕訳を切るわけですね。で、実際回収を行った時点で「現預金100/売掛金100」という仕訳を切って、現金の回収をもって売掛金を消し込みます。
 
このとき、架空に売上を計上したとして、回収が行われなければ(当然架空売上は回収できないので)売掛金は膨らみ続けることになります。
DLEの「企画売上」にしてもそれに近いところがあります。相手が認識してない売上を勝手に前倒し計上したところで、実際に制作が終わって納品するまで相手は売掛金を払ってくれるはずがないので回収は長期化します。
 
その結果、売上を前倒し計上したり、架空計上したりしたDLEの売掛金はこのように推移します。
 

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 「売掛金回転期間」というのは売掛金を月商で割った金額となります。要は「月の売上を何ヶ月後に回収しているか」という平均値です。
平成27年度のピークの数字を見ると、5.71ヶ月。へー、DLEさんから納品を受けたら支払いを半年も待ってくれるんですかー。ありがたいですねー。資金繰り大丈夫ですか?という数字となります。もちろんこれは売掛金を「平均月商」で割った数字なので、粉飾でなかったとしても、例えば期末に駆け込み需要があり、最終月だけ多額の売上が立ってしまった場合は、売掛金が平均月商比で大きくなりますので、売掛金回転期間も大きくなります。また、例えば京都の呉服屋さんのように昔からの「師走払い」が生きている回収期間の長い業種も存在しますので、単純に数字だけを見るのではなく、業種や実態を見たり、何期か決算書を並べてみて傾向を分析することが重要です。
 
しかしそれにしても長い。平成28年度にしても平均約4ヶ月後に回収とか長すぎる。だって元々回転期間1.61ヶ月の会社でしょう?取引条件変えたとかあるかもしれませんが、いくらなんでも数年で変わり過ぎじゃないですか。
わかりやすいわかりづらいという程度の差こそあれ、異常な処理を行った足跡の残らない粉飾決算は1つも存在しないのです。
 
なお、DLEでも回収できない売掛金があまりに多いのはマズいと思ったのか、売掛金を出資金との振替処理を行っています。その結果、売掛金と出資金の推移についてもこんな感じになっています。
 

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 平成29年度、平成30年度の粉飾決算を修正したらむしろ利益が出ていたのを覚えていらっしゃるでしょうか?
本来出資金とすべきでないものについて出資金としたうえで、(粉飾決算において)平成29年度等に減損処理をしたわけですが、本来は前の期に損失処理すべきものだったので、実態に修正するとむしろ利益が増えたわけです。
 
ちなみに粉飾の修正を行った実態決算における売掛金の推移はこちら。
 

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 これでも2ヶ月超えてきて、売上の回収が翌々月払いが平均くらいということになるので、「ちょっと長いかな」くらいの感触はあるのですが、まぁ許容範囲かなという感じです。
 
やりたい放題やった結果、売掛金と出資金の推移がやんちゃなことになったのはわかりました。しかし、細かく見ていくのも手間が掛かるし、もっとパッとわからんのかいなという話もあります。
 
そんなときはキャッシュフロー計算書を見てください。決算短信だと下の方にあるこれです。
 

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例えば求人出したら履歴書に「ハーバード大学卒」とか書いた人が来たらちょっと疑いますよね。もしかしたら本当にハーバード出ているのかもしれないですけど、普通は何らかの確認を取るのではないでしょうか。
これは決算書も同じで、いくら利益が出ていたとしても何らかの数字とぶつけて確認したものでなければ、その利益を頭から信じる根拠がないのです。
 
そこで使うのがキャッシュフロー計算書。これを決算書とぶつけて考えていきます。
というのも、キャッシュフロー計算書は期首現預金残高と期末現預金残高が最初と終わりに出てきますけど、現預金の残高は銀行の残高証明と一致させますので、ここを粉飾するのって不可能とはいいませんが相当困難なんですよね。なので、どれだけ収支を粉飾しても、キャッシュフロー計算書との整合性が取れなくなることが多いです。
 
DLEの場合も売掛金残高が6億円くらい急に増えていて違和感がありますね。ここで「売掛金異常だな」って気がつくから、「なら売掛金の月商比も見てみようか」と繋がっていくわけです。キャッシュフロー計算書はとにかく異常値勘定の発見が楽です。
 

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 ちなみにこれがキャッシュフローの推移。平成27年度の1期だけならまだしも、黒字が続いている会社のはずなのになぜか毎期営業キャッシュフローはマイナスで、株券刷って資金調達しているのが一目瞭然です。赤字の会社ならまだしも、黒字の会社が株券刷っているのはその理由が確かにあるのです。
 
しかし、わざわざ毎回キャッシュフロー計算書見るのも面倒ですよね。もっと楽な方法はないものか。
それが、あるのです。決算短信の1ページ目を見てみてください。 f:id:rikzen:20190217213712p:plain
 ここに当期純損益と営業キャッシュフローの数字が書いていますので、ここの数字があまりにも違うようであれば、それを気づきとすることができます。厳密に言うと、当期純損益に対して現金の支出を伴わない減価償却費の数字を足すと営業キャッシュフローに近くなるのですが、ここはいわゆる端緒を見つけるような作業なので、まずはアバウトで良いです。
「2億の利益って書いてるのに営業キャッシュフローはマイナス3億ってどういうことやねん?」という気付きだけあればそれで良いです。最初のページなので楽に見れますね。
 
これがDLEの粉飾決算についての概要です。
 
でも、結局どんな粉飾してようが明らかになった後ではどうでもよくて、重要なのは「粉飾というのは事前にわかるのか」という話ですよ。
粉飾決算なんてわかった後で言われても困るんですよね。株買ってたら損しちゃうし、取引先だったら貸倒れになるかもしれない。「粉飾でしたてへっ」とか言われても、回収金額は1円も増えないわけですよ。情報は先にわかるから意味があるわけじゃないですか。
 
粉飾が発覚して第三者委員会の報告書が出てきてからじゃ情報の価値がない。
けど、見れるのは決算書くらいの情報量しかない。結局問題はそこにつきます。
 
でも、もう解決策はわかるはずです。
ここまでこのクソ記事を上から順に読んできていただいたと思います。これは既に明らかになった粉飾について説明したものです。
次はザッとでいいので下から上に見ていってください。これが明らかになる前の粉飾を解明するときの流れです。
 
すなわち
  • 決算短信の1ページ目を見て
  • 当期純損益と営業CFの差があまりに大きいならキャッシュフロー計算書を見て
  • 増減の大きい異常な勘定があれば、売掛金の回転期間を計算するように理屈に合うかどうかを考えて
  • それでも自分の中で納得がいなかければ粉飾のストーリーがあることを疑ってください
必ずしもこれで全てがわかるものでもないですが、この順序で見ていけばかなりのものは抑えられるとは思います。
 
それでも忘れてはいけないのが、決算書とは天から降ってくるものではなく人間が作るものということ。粉飾は人為的に行われているものであり、あくまで人間の問題なんですよね。この世に悪があるとするならば、それは人の心だ…。
 
粉飾に手を染めた人に話を聞くと、ちょっと意訳ですけど大体こういう事を言うんですよ。
「私はただひたすらに強くあろうとした…そこに私が生きる理由があると信じていた…やっと追い続けたものに手が届いた気がする」
このあと「レイヴン…」とか続きそうな台詞ですが、強くあろうとする人間は弱いですし、逆説的ですが弱さを認められる人間こそが強いということでしょう。
 
決算書は人の心を写す鏡。我々はときに数字を介して、鏡に映り込んだ人の心の弱さを目にすることがあります。だからこそ粉飾決算がいかに悪かろうが、この先も永遠になくなることはないでしょう。だって、にんげんは弱い生き物だもの…。
 

生きるということは楽しみの芽を摘み続けるということ

「自分は生きている間にあと何本のゲームを遊ぶことができるだろうか」って思うことありません?
 
1日平均2時間とすると年間730時間。物心がついて多少物事を覚えておける10歳から頭のしっかりしている70歳までゲームを遊べるとして60年間。すなわち730時間×60年=43800時間程度が人生をゲームにぶつけて過ごすことができる時間です。
長く遊ぶゲーム、短く切り上げるゲーム、色々あるでしょうが1本平均30時間遊ぶとすると43800時間を30時間で割って、1460本。これが1日平均2時間遊ぶ人が、生涯遊べるゲームの本数です。1日平均2時間以上遊べる人はもう少し多くなるでしょうし、平均2時間遊ぶ時間を作れない人はもっと少なくなると見積もると良いでしょう。
 
一生で遊べるソフトは1460本。いま10歳の人が残り1460本遊べるのだから、20歳の人は残り1217本、30歳の人は残り974本、40歳の人は残り731本、50歳の人は残り488本、60歳の人は残り245本となる計算。今回の人生では、みんなはあと何本のゲームを楽しめるかな??
 
というかこう考えると結構遊べるゲームの本数多くないですか。
人類文明でコンピューターゲーム自体が娯楽となってから短いんで今のところは大丈夫ですけど、これが40年も50年も経ってくると「楽しみの既視感」みたいなのが出てくるんじゃないかなと思ったりもするわけで。
つまり、例えば旅行が好きで人生の早いうちに日本の全都道府県を旅し終わってしまってたりすると、「次はどこに行こうかな?」の問に対する答えが一捻り必要になるんですよね。もう全部行き尽くしてしまった。観光名所をまた見に行ってもつまらない。だから「~に行って、そこで~しよう」みたいな企画が自分の中で必要になる。でも、それもいつか終わってしまったら?
 
「行ったことのないところに行く楽しみ」は行ったところがないから初めて体験できるので、「行く」という行為は「行く」という楽しみを殺し続ける自傷行為でもあります。同様に、色んな遊びを経験すれば経験するほど「遊ぶ」という楽しみはじわりじわりと殺され続けていくことになるでしょう。
 
老人になったときの気持ちはまだわからないけど、大人になると子どもみたいにイチイチ物事を楽しめなくなるのはわかる。親戚の小さい子どもにせがまれてゲームやってると、画面のキャラクターが動くだけで子どもは喜んだりしてめっちゃ感情を表すもんね。プレイしている大人は真顔なのに。これが経験の差から生まれる不幸ですよ。大人の脳は、ゲームのアクション一つ一つに喜びや楽しみを感じることはもうない。
 
生きるということは経験をするということで、経験は人を不感症にし、楽しみの芽を摘み続けます。
時間は戻らない。ファイアーエムブレムを初めて遊んだ記憶は消えない。お前は再びその楽しみを得ることはできない。
 
そう考えると、リメイクってどうなのよ?内容知ってるのに楽しめるの?ってところはあるんですけど、バイオRE2良かったですね。
 
オリジナルのバイオハザード2が発売されたのが1998年なので、21年も経ってるわけです。21年……マジか……ゾンビよりそっちのが怖いわってところありますけど、ともかくリメイクなわけです。
 
バイオ2といえば、タイトル画面での「バィオハザァァァド トゥゥゥゥ!!」のタイトルコールをテレビの前で一緒にシャウトしてから遊ぶゲームという認識でしたが、バイオRE2のタイトル画面はただラクーンシティを遠景で写しているだけ。
 

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署内のマップ、ルート、設備の配置、ギミックなんかもすべて変わっており、石像を肩で押して赤い宝石を手にする必要もない、木箱を押して足場を作る必要もない。なのにトイレはある。リッカーなんてショットガン適当に撃ってりゃなんとかなるものではないくらい凶悪だし、木板で窓を塞がなきゃゾンビがどんどん入ってくるし、タイラントは表から出てきて警察署をノシノシ我が物顔で歩いている。おまけにクレアの笑顔が口角上げて笑うハリウッド女優スマイルになってる。こ、こんなゲームだったか…?
 
だいたい、ゲームシステムからも例のラジコン操作からバイオ4以来のTPSに変わってること含め、これ別ゲーですよね。
FFがケアルとかの名前だけ引き継いで別ゲーでシリーズになっているように、バイオRE2も警察署やストーリーなんかの舞台装置だけ引き継いで別のゲーム作ったという感覚のほうが近い。かろうじて「雰囲気がバイオ2っぽい」という概念にバイオ2を名乗る由来は繋ぎ止められている。
 
あの象徴的なタイトルコールをなくしたことで、それを予め教えてくれてたんですよね。これはバイオRE2であって、君たちが知っているバィオハザァァァド トゥゥゥゥ!!とは違うのだと。
 

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だからこそ、それが良かった。「あ~この石像あったな~。懐かしい。目線合わせればいいんだよな」「そうそう、ここのハシゴ落とさないと2階に上がれないんだよな。どんな警察署だよ」みたいな感傷に浸るだけのゲームにしてくれなくて本当に良かった。新しい経験と向かい合えるから。既知であるという悲しみに囚われずにすむから。
 
最近知ったんですけど、年取ると刺激を求めるようになるんですよね。逆かと思ってた。
代わり映えのない日常や見慣れた景色、数え切れないほど乗った電車、食べなくとも味が想像できる食事。失敗することは怖くない、起きたときのリカバーの方法は引き出しに入っている。成功することは楽しくない、同じ楽しみは何度か得られたけど次もきっと似たようなものだろう。
そうした灰色の生活からは「俺が!俺が生きている実感をくれえええ!!」っていうバトル漫画の敵で出てくる究極の人工生命体みたいな感情が自然と生まれてくるんですね。これが、感情……。
 
マズロー欲求段階説だって、要は人間がその時点で足りないと認識するところを欲しがっているだけじゃねーかという気もするし、たぶん人間の体と精神というものは、常に足りない部分はどこかと探し続けるウィルスに支配されていて、経験が蓄積されて刺激に不感症になってしまうとモルヒネやりすぎて麻酔が効かなくなった患者みたいに更にキツい刺激が必要になっちゃうんじゃないですかね。まるで不足というものに対して追い立てられている奴隷だ。
 
そういうこともあって、体が刺激を獲得するために最近あれだけ苦手だったわさびを食べられるようになったんですけど、これもわさびの刺激の経験に慣れてしまうと少しのわさびじゃ満足できなくてやがて大量投与とかやってしまうに違いない。大量投与までやってしまったらその先一体どうすればいいのですか。練りからしをボトルからキメるなどの豪傑的行為に手を染めるしかないのか?
 
経験が怖い。経験が要求することはただ一つ「今まで経験したことがないことを経験すること」。
そうして経験は人間に命じて領土を拡大していくわけです。そしてついに人間は経験という寄生虫に寄生された宿主だという真実が明らかになるのです。みなさんの精神は大丈夫ですか?心が経験に汚染されて何事も楽しめなくなっていたりしませんか?
 
FF5に「すべてをしるもの」ってやつが出てくるんですけど、魔法攻撃しかしてこないあいつにバーサクかけると打撃攻撃めっちゃ痛くて、むしろ普通に戦うより強くなるんですよね。あれは怒りですよ。すべてを知ってしまったことに対する怒りですよ。娯楽にも面白さの普遍性のある本質みたいなのがあるから、それがわかってしまうと、すべてをしるものが新しいゲーム遊んでもどこかで体験した既視感みたいなのが付きまとって全然楽しめないわけですよ。彼の心の中は月の地上みたいな殺風景で単色の世界が広がっていて、すべてを知ったことに対する後悔しかない。そこにバーサクなんてかけられたものだから、水で一杯だったコップに石を入れたようなもので「こいつ!このっ!こいつめっ!」って気持ちが心の奥底から溢れてきてしまったわけですよ。わかる、その気持ちわかるよ。そうだよな、すべてを知ってもいいことなんて何もないよな。

通達:『エースコンバット7』はある僚機の成長物語である件について

全員集まったな。聞いてくれ。これよりブリーフィングを開始する。
現在、『エースコンバット7』の僚機について「全く敵を撃破しないし、存在感がない」「所属がコロコロ変わるから人間的掘り下げがない」などと激しい攻撃にさらされている。一方、当方の戦力は未だ脆弱であり、十分な反撃を行うには至っていない。
 
エースコンバット』シリーズは、単なる空戦を行うゲームではなく、その演出や人間関係も魅力である。
これまでも、フランカーに乗れることでお馴染みのレナや、おしゃべりチョッパーなど、多くの魅力ある同僚が君たちと共に空を飛んできたものと思う。
 
それに引きかえ『エースコンバット7』の僚機は個性が薄い?
そうではないと我々は主張する。特に懲罰部隊の面々を見てほしい。命令も聞かずに勝手に滑走路に割り込み離陸の順番を守らない者、虚偽の撃墜数報告をする者、僚機の命で賭け事を行う者。いずれも一筋縄ではいかない奴ばかりで、最後まで懲罰部隊でチームを組んで行くことができればどれほど面白くなっただろうかと今でも夢を見る。
 
さて、今日はその懲罰部隊の中のひとり、カウントの話だ。カウントに対する諸君らの印象は様々だろうが、本日は彼に対する認識を新たにしてもらうことを期待するものだ。
 
なお、本ブリーフィングには『エースコンバット7』のシナリオ上のネタバレが含まれる。十分な準備ができていない者は、現時点で退出を行うこと。
 

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カウントについて説明する。
奴は、オーシア空軍第444航空基地、いわゆる「懲罰部隊」には詐欺をはたらいた罰として送り込まれている。詐欺をはたらく際に「伯爵」と名乗っていたことを「何が伯爵だ」と同僚からは笑いのネタにされている。
 
性格は詐欺師に似合わしく他人を鑑みることはなく、自分勝手なふるまいが数多く見られる。序列も重視せず、命令に対しても「はいよ」などと上官を軽んじる返事をすることも多く、組織行動に馴染まない。口数は多く、同僚と軽口を叩くことはあるが、彼の性格を考えると心から同僚を信頼することはないだろう。また競争心が強く、自分より優れた存在を認めようとしないきらいがある。しかし性格に難ありといえど、戦闘機乗りとしての実力は相応のものがある。
どれだけ偉い相手でも媚びず、それでいて自分中心であり他人を認めることのない「俺様」タイプと言えるだろう。
 

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続いて、カウントのミッションにおける行動について説明する。
カウントはミッション4で初登場するが、離陸の際、懲罰部隊の面々に「自分が1番機だ」と主張。アクの強い懲罰部隊は「空に上がればわかるさ」と誰も従おうとしないが、そういう発言をすること自体、カウントの「俺様」な性格を表していると言えるだろう。
 
空に上ってからも、新入りのトリガーが次々と敵機を撃破していっても「偶然だろ」と認めようとはしない。それどころか、気がついただろうか。トリガーが敵機を撃破した直後に、カウントは「撃墜してやった」「一機落とした」と無線で発言し、トリガーの撃破を自分の手柄であると誤認させようとする。僚機からは虚偽報告がバレバレだと言われるが、詐欺師の姿は空に上がっても垣間見える。
 
オイルタンクを攻撃するミッションでは、砂塵の中、敵中深くまで入り込んで敵の警戒網に引っかかり無人機を呼び込むと、味方は置き去りにして機体の調子が悪いことを理由に真っ先に逃亡する。
救出ミッションに出撃しても、他人の尻拭いに命をかけることに対して憤りを隠さない。
カウントはそういう人物だ。そういう生き方をしてきた。
 

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諸君らもご存知だろうが、このあと彼に転機が訪れる。サイクロプス隊への異動だ。
新たな配属地でトリガーはストライダー隊の1番機、カウントはサイクロプス隊の2番機として配属される。ここでもカウントは「なぜトリガーが1番機で自分が2番機なのか」と自分への評価に対して不満を表している。
 
カウントが編入されたサイクロプス隊の1番機はワイズマン。規律に厳しいまさに軍隊の隊長といった人物だ。
ワイズマンは事あるごとにカウントに口うるさく注意し続ける。カウントが任務のため一時的にトリガーのストライダー隊に編入した際に「こっちの隊長は一つだけいいところがある。無口なところだ」とこぼす。それでも後から振り返ってみれば、細かいことを言われながらも、自分に構ってくれるワイズマンのことをカウントは悪く思っていなかったのだろう。カウントの人生には、これまで自分を注意してくれる人間というものが存在しなかったのかもしれない。
 
そして戦局は進み、エルジアの首都ファーバンティ攻略戦が訪れた。ここで彼の運命は大きく変わる。
この戦いでエルジアのエースであるミハイを撃破するため、ワイズマンは囮となってミハイの攻撃を引き付け、戦死してしまう。1番機ワイズマンの撃墜にカウントは動揺。カウントに指揮を引き継ぐように促すストライダー隊3番機からの指示にも「トリガーがやればいい」と拒否。悪態をついてばかりだった自分にあれだけ関わってくれたワイズマンが死んだことも認められず、1番機の立場につくのも嫌だという姿勢を露わにした。
 
2番機と3番機の差以上に、1番機と2番機は全く違う。1番機はリーダーで、2番機以降はすべてそれ以外だからだ。
 
チームには往々にして悪態をつくが実力のある一匹狼が存在するが、そういう人間はリーダーには不向きだ。自分が散々批判してきた存在に自分自身がならなければならないからだ。だから、一匹狼はリーダーになることを嫌がることが多い。たとえ自分こそがリーダーになることが相応しいと普段から主張していたとしても、それは自分の実力の高さを認めさせたいからであって、本当にリーダーになりたいためではない。
 

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しかし、カウントは覚悟を決めた。
それは自分が指揮を引き継ぐ宣言であるとともに、それまでの自分を捨て去るという覚悟でもある。斜に構えた一匹狼としてのカウントは死んだ。
そして遂にトリガーがミハイを追い詰めたとき、「撃ち落とせ!トリガー!お前ならやれる!!お前しかできねえんだよ!!」とカウントは叫ぶ。常に自分中心であり、他人を認めることのなかったカウントが、ワイズマンの仇討ちを他人に頼んだのだ。
 
すんでのところでミハイを取り逃がし、AWACSからは一旦撤退するよう指示が下ると、カウントはワイズマンの仇討が終わっていないと指示に従うことを一旦は拒否する。
それでも彼は追わなかった。自分が思ったことを自分が好きなようにやるカウントは、もういない。
カウントは変わった。それ以降、カウントはストライダー隊の2番機としてトリガーをサポートし、戦争を終結に導いていく。
 
人はいつか成長しなければならない時が来る。
 
いつまでも誰かの庇護下にいれるわけではないし、無責任な立場から自由になんだって言い続けることができるわけじゃない。いずれ自分の限界を見定め、収まるところに収まらなければならない。子どもは可能性を追わなくてはならない。大人は可能性を捨てなければならない。
それはある種の「割り切り」とも言えなくはないだろうが、それがいなくなった先達からのバトンを受け継ぐために必要なことだ。
カウントは自分の能力の限界とトリガーの能力を認め、自分にできることを自分なりに果たすことにした。
それがカウントの成長だ。
 
だが、まだ話は終わりではない。
カウントはそこで満足することはなかったからだ。
 

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最後のミッション、無人機が地下トンネルの中に逃げ込み、軌道エレベーターに辿り着こうとする。トリガーは無人機を追って地下トンネルへ向かうが、なぜかカウントがついてくることを主張する。
 
諸君らも思ったはずだ。「なぜここでお前がついてくるのか」と。
僚機は言う。トリガーならいい。あいつは特別だから。戦闘機でトンネルだってくぐれるだろう。だがお前は?
 
しかしトリガーは特別だからという言葉にカウントは反発する。自分だって可能だ、と。
 
カウントはあきらめていなかったのだ。自分が特別であることに。
カウントは挑んだのだ。詐欺師として虚偽の撃墜報告で1番の戦果を上げることでもなく、ストライダー隊の2番機に満足することでもなく、ただ一人の戦闘機乗りとして、トリガーのようになることに。
 
一旦安定的な立場を手にすると、人はそれを守りに入ってしまう。安定的な立場から命をかけて再び挑戦者に戻ることのできる人間がどれだけいるだろうか。
 
カウントはこの後トンネル内で無人機の射線からトリガーを庇うような形で被弾し、軌道エレベーターからの脱出は叶わなくなってしまう。そして軌道エレベーター地下で胴体着陸に成功し、一命をとりとめることになるのは諸君らもご存知のとおりだ。
 

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カウントは負けたのだろうか?いや、カウントは勝ったのだ。結果的にお前には無理だと言われていた地下トンネルを被弾しながらもくぐり抜けたのだから。そして軌道エレベーターから空に向かって飛び立ったトリガーを見上げて吹っ切れたように言う。
「やつはいつも俺の頭上を上を飛んでやがる」
こんな気持ちのいい発言ができる男だったろうか。これが、嘘つきで他人を鑑みず愚痴ばかり言っていたあのカウントと同一人物なのだ。
 
エースコンバット7』は、カウントの精神的成長を描いた物語である。それでいて、カウントは大人のように現実を見ながら、子供のように可能性を追いかけた。
覚えていてほしい、カウントのようなキャラクターがいたことを。あきらめないでほしい、どんな立場に変わっても自分の可能性に挑戦し続けることを。
 
このブリーフィングをもって諸君らが『エースコンバット7』の僚機についての認識を新たにしたものと私は確信している。諸君らも今一度、カウントら懲罰部隊をはじめとした僚機に思いを馳せてプレイしてみてほしい。
 
わかったら各自速やかに次の作戦に移れ!解散!