当たり判定ゼロ

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通達:『エースコンバット7』はある僚機の成長物語である件について

全員集まったな。聞いてくれ。これよりブリーフィングを開始する。
現在、『エースコンバット7』の僚機について「全く敵を撃破しないし、存在感がない」「所属がコロコロ変わるから人間的掘り下げがない」などと激しい攻撃にさらされている。一方、当方の戦力は未だ脆弱であり、十分な反撃を行うには至っていない。
 
エースコンバット』シリーズは、単なる空戦を行うゲームではなく、その演出や人間関係も魅力である。
これまでも、フランカーに乗れることでお馴染みのレナや、おしゃべりチョッパーなど、多くの魅力ある同僚が君たちと共に空を飛んできたものと思う。
 
それに引きかえ『エースコンバット7』の僚機は個性が薄い?
そうではないと我々は主張する。特に懲罰部隊の面々を見てほしい。命令も聞かずに勝手に滑走路に割り込み離陸の順番を守らない者、虚偽の撃墜数報告をする者、僚機の命で賭け事を行う者。いずれも一筋縄ではいかない奴ばかりで、最後まで懲罰部隊でチームを組んで行くことができればどれほど面白くなっただろうかと今でも夢を見る。
 
さて、今日はその懲罰部隊の中のひとり、カウントの話だ。カウントに対する諸君らの印象は様々だろうが、本日は彼に対する認識を新たにしてもらうことを期待するものだ。
 
なお、本ブリーフィングには『エースコンバット7』のシナリオ上のネタバレが含まれる。十分な準備ができていない者は、現時点で退出を行うこと。
 

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カウントについて説明する。
奴は、オーシア空軍第444航空基地、いわゆる「懲罰部隊」には詐欺をはたらいた罰として送り込まれている。詐欺をはたらく際に「伯爵」と名乗っていたことを「何が伯爵だ」と同僚からは笑いのネタにされている。
 
性格は詐欺師に似合わしく他人を鑑みることはなく、自分勝手なふるまいが数多く見られる。序列も重視せず、命令に対しても「はいよ」などと上官を軽んじる返事をすることも多く、組織行動に馴染まない。口数は多く、同僚と軽口を叩くことはあるが、彼の性格を考えると心から同僚を信頼することはないだろう。また競争心が強く、自分より優れた存在を認めようとしないきらいがある。しかし性格に難ありといえど、戦闘機乗りとしての実力は相応のものがある。
どれだけ偉い相手でも媚びず、それでいて自分中心であり他人を認めることのない「俺様」タイプと言えるだろう。
 

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続いて、カウントのミッションにおける行動について説明する。
カウントはミッション4で初登場するが、離陸の際、懲罰部隊の面々に「自分が1番機だ」と主張。アクの強い懲罰部隊は「空に上がればわかるさ」と誰も従おうとしないが、そういう発言をすること自体、カウントの「俺様」な性格を表していると言えるだろう。
 
空に上ってからも、新入りのトリガーが次々と敵機を撃破していっても「偶然だろ」と認めようとはしない。それどころか、気がついただろうか。トリガーが敵機を撃破した直後に、カウントは「撃墜してやった」「一機落とした」と無線で発言し、トリガーの撃破を自分の手柄であると誤認させようとする。僚機からは虚偽報告がバレバレだと言われるが、詐欺師の姿は空に上がっても垣間見える。
 
オイルタンクを攻撃するミッションでは、砂塵の中、敵中深くまで入り込んで敵の警戒網に引っかかり無人機を呼び込むと、味方は置き去りにして機体の調子が悪いことを理由に真っ先に逃亡する。
救出ミッションに出撃しても、他人の尻拭いに命をかけることに対して憤りを隠さない。
カウントはそういう人物だ。そういう生き方をしてきた。
 

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諸君らもご存知だろうが、このあと彼に転機が訪れる。サイクロプス隊への異動だ。
新たな配属地でトリガーはストライダー隊の1番機、カウントはサイクロプス隊の2番機として配属される。ここでもカウントは「なぜトリガーが1番機で自分が2番機なのか」と自分への評価に対して不満を表している。
 
カウントが編入されたサイクロプス隊の1番機はワイズマン。規律に厳しいまさに軍隊の隊長といった人物だ。
ワイズマンは事あるごとにカウントに口うるさく注意し続ける。カウントが任務のため一時的にトリガーのストライダー隊に編入した際に「こっちの隊長は一つだけいいところがある。無口なところだ」とこぼす。それでも後から振り返ってみれば、細かいことを言われながらも、自分に構ってくれるワイズマンのことをカウントは悪く思っていなかったのだろう。カウントの人生には、これまで自分を注意してくれる人間というものが存在しなかったのかもしれない。
 
そして戦局は進み、エルジアの首都ファーバンティ攻略戦が訪れた。ここで彼の運命は大きく変わる。
この戦いでエルジアのエースであるミハイを撃破するため、ワイズマンは囮となってミハイの攻撃を引き付け、戦死してしまう。1番機ワイズマンの撃墜にカウントは動揺。カウントに指揮を引き継ぐように促すストライダー隊3番機からの指示にも「トリガーがやればいい」と拒否。悪態をついてばかりだった自分にあれだけ関わってくれたワイズマンが死んだことも認められず、1番機の立場につくのも嫌だという姿勢を露わにした。
 
2番機と3番機の差以上に、1番機と2番機は全く違う。1番機はリーダーで、2番機以降はすべてそれ以外だからだ。
 
チームには往々にして悪態をつくが実力のある一匹狼が存在するが、そういう人間はリーダーには不向きだ。自分が散々批判してきた存在に自分自身がならなければならないからだ。だから、一匹狼はリーダーになることを嫌がることが多い。たとえ自分こそがリーダーになることが相応しいと普段から主張していたとしても、それは自分の実力の高さを認めさせたいからであって、本当にリーダーになりたいためではない。
 

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しかし、カウントは覚悟を決めた。
それは自分が指揮を引き継ぐ宣言であるとともに、それまでの自分を捨て去るという覚悟でもある。斜に構えた一匹狼としてのカウントは死んだ。
そして遂にトリガーがミハイを追い詰めたとき、「撃ち落とせ!トリガー!お前ならやれる!!お前しかできねえんだよ!!」とカウントは叫ぶ。常に自分中心であり、他人を認めることのなかったカウントが、ワイズマンの仇討ちを他人に頼んだのだ。
 
すんでのところでミハイを取り逃がし、AWACSからは一旦撤退するよう指示が下ると、カウントはワイズマンの仇討が終わっていないと指示に従うことを一旦は拒否する。
それでも彼は追わなかった。自分が思ったことを自分が好きなようにやるカウントは、もういない。
カウントは変わった。それ以降、カウントはストライダー隊の2番機としてトリガーをサポートし、戦争を終結に導いていく。
 
人はいつか成長しなければならない時が来る。
 
いつまでも誰かの庇護下にいれるわけではないし、無責任な立場から自由になんだって言い続けることができるわけじゃない。いずれ自分の限界を見定め、収まるところに収まらなければならない。子どもは可能性を追わなくてはならない。大人は可能性を捨てなければならない。
それはある種の「割り切り」とも言えなくはないだろうが、それがいなくなった先達からのバトンを受け継ぐために必要なことだ。
カウントは自分の能力の限界とトリガーの能力を認め、自分にできることを自分なりに果たすことにした。
それがカウントの成長だ。
 
だが、まだ話は終わりではない。
カウントはそこで満足することはなかったからだ。
 

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最後のミッション、無人機が地下トンネルの中に逃げ込み、軌道エレベーターに辿り着こうとする。トリガーは無人機を追って地下トンネルへ向かうが、なぜかカウントがついてくることを主張する。
 
諸君らも思ったはずだ。「なぜここでお前がついてくるのか」と。
僚機は言う。トリガーならいい。あいつは特別だから。戦闘機でトンネルだってくぐれるだろう。だがお前は?
 
しかしトリガーは特別だからという言葉にカウントは反発する。自分だって可能だ、と。
 
カウントはあきらめていなかったのだ。自分が特別であることに。
カウントは挑んだのだ。詐欺師として虚偽の撃墜報告で1番の戦果を上げることでもなく、ストライダー隊の2番機に満足することでもなく、ただ一人の戦闘機乗りとして、トリガーのようになることに。
 
一旦安定的な立場を手にすると、人はそれを守りに入ってしまう。安定的な立場から命をかけて再び挑戦者に戻ることのできる人間がどれだけいるだろうか。
 
カウントはこの後トンネル内で無人機の射線からトリガーを庇うような形で被弾し、軌道エレベーターからの脱出は叶わなくなってしまう。そして軌道エレベーター地下で胴体着陸に成功し、一命をとりとめることになるのは諸君らもご存知のとおりだ。
 

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カウントは負けたのだろうか?いや、カウントは勝ったのだ。結果的にお前には無理だと言われていた地下トンネルを被弾しながらもくぐり抜けたのだから。そして軌道エレベーターから空に向かって飛び立ったトリガーを見上げて吹っ切れたように言う。
「やつはいつも俺の頭上を上を飛んでやがる」
こんな気持ちのいい発言ができる男だったろうか。これが、嘘つきで他人を鑑みず愚痴ばかり言っていたあのカウントと同一人物なのだ。
 
エースコンバット7』は、カウントの精神的成長を描いた物語である。それでいて、カウントは大人のように現実を見ながら、子供のように可能性を追いかけた。
覚えていてほしい、カウントのようなキャラクターがいたことを。あきらめないでほしい、どんな立場に変わっても自分の可能性に挑戦し続けることを。
 
このブリーフィングをもって諸君らが『エースコンバット7』の僚機についての認識を新たにしたものと私は確信している。諸君らも今一度、カウントら懲罰部隊をはじめとした僚機に思いを馳せてプレイしてみてほしい。
 
わかったら各自速やかに次の作戦に移れ!解散!
 

「面白かった漫画は~」という上の句が詠まれたら「ワンピース」か「キングダム」の札を取れ

最近肩こりがひどいんで整体行ってるんですよ。美容院でも整体でもそうですけど、ああいう1対1でサービスする業種ってある程度会話が発生するじゃないですか。「連休何してました~?」みたいなやつ。
 
今回も整体師のおじさんに、お正月何してました?みたいなこと聞かれて、ゴロゴロして漫画読んでましたわと返すと「へぇ、何か面白い漫画ありました?」みたいなセンタリングが上がってきたんですね。
 
たまたま『AIの遺電子』をまとめ買いで読んでたんで「アイの…」と言いそうになったところで気がついたんすよ。ダメだ。これを打つとワールドカップクロアチア戦の柳沢みたいにゴールの枠を外してしまう。これは求められているキックじゃない。確実に「愛の遺伝子?」って聞き返されてしまう…。何かエロ本みたいだ。いや、掛詞的にタイトルにそういう意味が込められていないわけじゃないんだけど、話にすると長くなるんだ…。整体師のおじさんにそこまで噛み砕いて説明していく必要ってここであるのか…?
 
大体ゲームや漫画なんかの固有名詞って、音に出して知らない人に説明するのって果てしなく面倒じゃないですか。せめて文字にするなら伝わるけれど、口に出したら伝わらない。『幽遊白書』とかみんな知ってるからいいものの、超マイナーな作品だったりしたら「アルファベットのU?」とか言われかねない。音に出して伝えるのって本当に面倒で難しい。だからラノベの文章調のタイトルの作品なんかは、オタがお互い文字で理解した上でコミュニケートすることを前提としているわけで、最初から一般層への口伝は放棄しているのでしょう。
 
そういう意味では『ワンピース』とか『キングダム』は強い。
キングダム芸人の功績というのは非常に大きくて、『キングダム』の一言で漫画の作品であることに多くの人が頭の中で辿り着いてくれるのでコミュニケーションのコストが低いんですよね。地上波イズ偉大。
 
詠み手が「面白かった漫画は~」と上の句を詠み始めたら、ワンピースかキングダムの下の句が書かれた札を取ってしまえばいいんですよ。ここで求められているのは、本当に好きなものがどうこうという話ではなく、お互い全く違う人生の道を歩んできた者同士がコミュニケーションを円滑に成立させる方法。「これやこの~」と聞こえてきたら「しるもしらぬも~」の札を取ることがルールとして決まっているわけで、自分は天智天皇が好きだからと言って「わかころもでは~」を取ってしまったら百人一首にならないのです。
 
コミュニケーションには定められた手続きがあるのですよ。
 
そう、数日前の私までならそう思っていたでしょう。でも、そうじゃないんですね。それは正しくない姿勢なのだ…。
 
この前『レイジングループ』やってて思ったんですけど、この作品って非常に丁寧なんですよね。
タイトルのとおりループものなんですけど、最初のループはとにかく謎を撒き散らして進んでいくルートで、それこそエンドの瞬間は「???」で終わるものの、2周目、3週目と回っていくにあたって、RPGツクールのフラグ管理かよって感じにちゃんと一つ一つについて理由の説明をしていきます。『うみねこのなく頃に』もこれくらい真摯に説明する姿勢を見せていればあんな悲しいことには…とは思うものの、この「謎の提示→理由の提示」の繰り返しこそが物語のカタルシスの根本でもあるわけです。
 
すなわち、物語の価値は「わからないこと」にこそ由来します。語り手は明らかに情報を制限しながら受け手に物語を伝えることが許容され、受け手はそれを承知の上で「わからないこと」の融解に価値を見出していることになります。
 
これを考え出すと案外広くて、例えば格ゲーだって、相手の読みがわかってしまっては対戦にならないので「わからない」からゲームになるし、価値がある。一見わかりあえているように見える日常系の物語だって、ひとりひとりのキャラクターの性格が違ってお互い「わかりあっていない」から物語として面白いし、本当にわかりあえているなら紅茶飲みながら「わかる~」を繰り返すだけの有閑マダムかって話になってしまう。奴らはお互いを「わかる」しすぎて統合思念体かよってところあるけど、あれはきっと楽しくない。
 
それほど「わかりあえないこと」には価値があるのです。
 
とすると、面白かった漫画を聞かれたとき、私には「AIの遺電子」と答える義務があるような気がするんですよね。「わかりあっていないこと」に真摯に向き合って、相互不理解を融解していくそのプロセスにこそ人間関係の価値があるのだと理解しているのだから。
 
だから言ってやりましたよ。
「キングダム読んでました。面白いですよね」と。
 
私は上の句が流れてきたら、正確に下の句を返すロボット…。

2018年のゲーム遍歴

今年の思い出は死ぬほど残業をしたことと、死ぬほど残業して稼いだ金を年末の株価暴落で全部溶かしたことです。あとは忘れた。すべて…。
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Ruiner(PS4
サイバーパンクの標準形みたいな舞台設定なので、人によって思い出す作品が違いそう。個人的にはニール・スティーブンスンの『スノウ・クラッシュ』思い出した。主人公がカタナで大暴れするしね。システムはわりとオーソドックスな見下ろし型アクションだけど、比較的難易度が高くて何度か心折れかけた。年々ゲーム下手になってしまってる感ある。しかしサイバーパンク作品ってどれもこれも本当に治安悪いよな。
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Downwell(PS4
上から下に落ちていくゲーム。とにかく下に進めばいいというシングルイシューは、小泉政権かよってくらいわかりやすい。ゲームというものが作者とプレイヤーのコミュニケーションとするならば、とにかくわかりやすさってのは大事だ。文章書くときもそうだし、仕事で方針立てるときもそうだけど、すべきことを言いだしたらキリがない。けど、本当に人に伝えたいことは優先度つけて絞る作業が必要なんだ。
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Hyper Light Drifter(PS4
見下ろし型の2Dアクション、よくSFCゼルダに例えられるゲーム。これだけ技術が発達して3DやらVRやら言ってる時代に、いつまで経っても2Dアクションをやりたくなる気持ちが衰えないのは、2Dアクションの情報量の少なさがある。自分がどこにいてどういう状況で周りにどういうモノがあるかさえ考えなければならないゲームより、いつだって画面全体が把握できてボタン一つで攻撃できる情報量は疲れがない。
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人間一生買い続けるコンテンツというものはあるもので、自分にとってはそれがパワプロだったということだろう。2018に関して言うと、メインコンテンツこそ従来のままだけど、球場の日差しの陰り方とか、打った後のバットの転がり方とか、細かい部分で野球の「空気」みたいなの再現しにきててかなり好き。VRをつけると野球の空気感がもう一段化ける。野球ゲームとVRの組み合わせは伸びしろがありそうね。
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NieR:Automata(PS4
廃墟いいよね廃墟。建物の廃墟って、物理的にただの建造物と何か違うのかと言われれば別に何も変わらないんだけど、廃墟にはストーリーがあるのよね。廃墟というのはその時点で「終わっている」存在だから、それそのものの存在自体に救いがない。だからといってそれは否定されるものではなくて、救われなかった結果に至る流れには美しさがある。だから廃墟を巡るのはいつだって楽しい。ヨロコビヲ ワカチアオウ!
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真・三國無双8(PS4
新しいことをやってみようという気概は伝わってきたけど、その新しいことが「大軍が再現できず、曹操が小舟で敵陣に単騎乗り込む赤壁」になってしまった悲しみ。全体的に演出力に欠けるオープンワールドの弱みを存分にさらけ出した感じ。無双というゲームは、歴史オタ的には歴史ドラマと同じで「今回はどういうやり方で合肥の戦いを描くのかな?」という様式美の演出を楽しむところあったので、その点が完全に死んでた。
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モンスターハンター:ワールド(PS4
今作のモンハンはすごいぞ!オトモアイルー、テトルーに加えて、モンスターをオトモダチとしてパーティーに加えることで最大4人でのマルチプレイを行うことができる。モンハンと言えば「孤独に狩らなければならず、とても寂しい」という印象のゲームだったけど、今作に関して言えば全く寂しさを感じさせなかった。ただ不思議なことに「マルチプレイでクエストをクリアした」のトロフィーが解除されてないんだよな。バグか?
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オクトパストラベラー(Switch)
諸国漫遊してたら悪いやつが現れて、問答やってたら音楽が流れてくるので「成敗!」ってやるゲームであり、要は水戸黄門。…ってのはわかるんだけど、ボス戦のイントロ流れてきたら、ダメ!わかってても気分上がっちゃう!ってなる。そういう意味ではやはり音楽は偉大だ。しかし、かよわい女の子だったトレサちゃんが、ルーンマスターになった瞬間にターン10万以上のダメージ与える畜生になってしまうなんて…。
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DETROIT: BECOME HUMAN(PS4
バリバリ偏見なんだけど、世の中にはHuluとかで海外ドラマ観るけどゲームに興味ない主婦層とかいっぱいいそうじゃん。そういう人にデトロイト一回触ってみてほしい。今のゲームこんな凄いんだって知ってほしい。遊んでさえもらえれば、本来ゲームを遊ばない層の心にリーチできる威力を持ったゲームだと思う。ただ、惜しむらくは、そこを繋ぐ役割を果たせる存在がどこにもないことなんよね。
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Minit(PS4
寿命が1分の主人公を使って、死にながら少しずつできることを増やして行動範囲を広げていくゲーム。文字どおり死にゲー。間違いなく今年1番死んだゲーム。自殺するボタンまであって、ボタン押し間違えた時点で死ぬ。NPCキャラクターのセリフがひらがなでほのぼのとした雰囲気なんだけど、英語にもこんな表現ってあるのかなということが気になって仕方がなかった。学校で習った英語とFuckくらいしか知らないので…。
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鉱石を集めてピッケルを鍛えて鉱石を掘るゲーム。ネトゲの生産職とかでひたすら鉱山で作業できる人とかいるじゃないっすか。ああいうのが合う人なら合うんだろうけど、反復作業が全くダメな人間なので早々に飽きてしまい、ただひたすら縦に伸びる穴ばかり掘ってDownwellみたいなマップ作ってサクっとクリアする人になってしまった。生産職のみなさんの忍耐力には尊敬しかない…。
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ゴーストブレイド HD(PS4
拡散ショットと集中ショットとボムしかないシンプルで遊びやすいケイブ弾幕系フォロワーゲー。ただ、いいところがあるかと言えばなく、悪いところがあるかと言えばなく、クラスの中で目立たずにテストでも75点くらい取る子どもみたいな感じ。特に尖ったところはないんだけど、唯一尖っている点としてトロフィー取得条件があまりにヌルく、3時間でプラチナトロフィーがゲットできる。
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すばらしきこのせかい-Final Remix- (Switch)
日本一服屋に行きたくなるゲーム。たまたま遊んだあとラフォーレ原宿に行ったんだけど、服屋で4つ打ちのBGM流れてるとノムリッシュ感じてまう。どうでもいいけど、ラフォーレ原宿のB1.5Fの世界観完全にヤーナム市街よね。ゴスロリは一歩間違えるとすぐブラッドボーンになってしまうんだぜ。DSで絶賛されたゲームシステムはSwitchにも馴染んでたんだけど、最後に新キャラちらっと見せて「つづく」で終わるシナリオひどくない?

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Rez Infinite(PSVR
21世紀になっても、人々は花火が打ち上がるとなると混雑にもめげずこぞって見に行く。人は花火が好きだ。音がなり、光が弾けるというプリミティブな刺激はシンプルに気持ちいい。無重力空間で上から右から左から展開される電子花火もまた美しい。元は17年前にリリースされたゲームのはずなんだけど、これだけVRにマッチするのすごいね。完全に時代の先を行っていたオーパーツみたいなRezに、時代が遂に追いついてきた。

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ロックマン11 運命の歯車!!(PS4
ゲームやりこんでた時代の昔の自分ってめっちゃゲーム上手かった気がしますやん?ただそれって錯覚で、実際に昔の自分のリプレイとか見てみると、別に上手くなかったりするんだよね。ゲームの腕なんて案外急に変わらない。ロックマンって昔は平気でクリアできてた気がするんだけど、多分それも美化された思い出で、実際は相当死にまくってたんだろうな。久々にロックマン遊んでみると、ロックマンに申し訳ないほど死にました。

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髪がピンク色とか、語尾に「にゃ」とかつけてるキャラでわかりやすく区別された日本文化で育ってきたので、似たような外人が最初から10人以上ワラワラ出てきても誰が誰か全然覚えられなかったんだけど、最後には一人ひとりに愛着持てるくらい気合が入ったシナリオだった。あれだけいた登場人物が、自分の運命に対して選択を行い、それぞれの道に進んでいくというのは、ハリウッド脚本術の見本みたいなところあるね。

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1年に1回草刈りやりたくなる病にかかるんだけど、ちょうどいいときに出てくれて病死を免れた。下手に歴史が好きな人は、三國無双戦国無双で単騎無双でクリアするよりイベントで史実再現する方に楽しみ覚えちゃったりするんだけど、OROCHIの場合は史実もへったくれもないから純粋に草刈りに専念できるね。あと、最近の無双はアクション追加しすぎた結果、あまりにキャラクターが強くなりすぎてる気がする。

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BLACK BIRD(Switch)
パターンを考えてリプレイするゲームなので、MMOの生産職とか信長の野望の内政が楽しめる人が合うのかもしれない。ファンシーな見た目によらず理詰めのゲームだ。喋り方甘ったるいのにやたら勉強ができる女の子か。あと、コントローラーにワガママを言い出す結局すべてアケコンに行き着いてしまうので良くないんだけど、SwitchのコントローラーはSTGに合わんなぁというのはあった。

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Shu(シュウ)(Switch)
自キャラが滑空できるので、フワフワ感のある2Dアクションゲー。ゲーム中の1/4くらいは追いつかれたら即死の化物に追われながら進むことになるので必然的にスリルとスピーディーさがある。鬼ごっこのスリルというのはゲームの原初的な面白さがあって、現代的なゲームも結局これのアレンジなんだなって感じだ。これまでお世話になったキャラ全員の力を借りながら化物から逃げきる最後のステージがかなり熱い。
 
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Until Dawn: Rush of Blood(PSVR)
小さい頃、お化け屋敷に行ったとき妹の服の裾を持って怯えながら付いて行った記憶があるんだけど、お化け屋敷の何が怖いって自分の足であるかなきゃならんところよね。そういう意味でバイオ7の怖いところはそこだった。その点、ラッシュオブブラッドは自分はジェットコースターに乗ってるのでホラーに見世物感出るし、何より自分の足で歩かないで良いのは楽で怖さがない。自分の意志で義務を果たすのは無理だ。
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テトリス エフェクト(PSVR
ゲーム性の議論は一切ない。だってテトリスだもん。空いた端っこの列に長い棒を入れるテトリス、それ以外の何でもない。だけど、凡庸な役者が演じる真田昌幸と違って、草刈正雄真田昌幸は圧倒的な質感をもって迫ってくるように、同じ役でも演者によって見違えることはある。ゲームにだってそれは言えるということが示された。絶対にVRでやれ。眼の前に見たこともないテトリスが現れるから。
 
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Hollow Knight(PS4
アムンゼンとスコットが南極にまで行っちゃって、世界には探索すべきところがほとんど残されてないけど、探検したい欲は人間から消えてくれないので定期的にメトロイドヴァニアで消化する必要がある。死んだ場所での回収や、ボスへのショートカットなどソウルシリーズを彷彿とさせる作りの部分あって、こう見るとソウルシリーズのアイディアは何度使われても色あせない強度があることが証明されたようなもんやね。
 
今年の一本を上げろと言われれば『テトリス エフェクト』。
VRHMDを装着し、初めて起動してタイトル画面が表示されたとき、この2018年まで生き延びれたことを幸せに思えた。死んだらこれが体験できなかったんやで。死んだらあかんのやで。これだけで自殺ダメゼッタイの理由にならん?ならんか。
 
思えば、んじゃめな本舗さんのゲーム放談みたいに楽しく今年のゲームを振り返る雰囲気出したかったんだけど、だんだんひとりで壁にブツブツ話してるみたいな感じで不気味になってきた。つらい。世の中どうにも上手くいかないね。
 
では、ちょっと早いけど良いお年を。

予想もしないから面白い

ゲーマーという人種はいつだってゲームに自由度を求めるし、報道の自由度に対する興味と比べ物にならないくらいゲームの自由度に興味を持っています。ロマサガとかもそうですけど「自由度が高い」はそれだけで褒め言葉として認識するし、ゲームにプレイヤーの意志が自由に反映できることが好きで好きで仕方がありません。
 
ゼルダBotWでもそうだったように、「こういうやり方でも解決できるんじゃないか」という挑戦を正解として認容してくれるのはプレイヤーに自由を感じさせるし、自分が考えたやり方に対して「こういう解法しかダメです」というのは、「3人のグループが5グループあります。合計何人いるでしょうか?」という問題に「5×3=15」と書いて「ダメです。3×5=15と書きましょう」と言われるような息苦しさに近い。「どっちでもいいよ、正解。頑張ったね」と言われたい。細かい理屈は置いておいて。
 

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そういう点から言うと、レッド・デッド・リデンプション2では、例えば「その辺に歩いている人を縄で縛って焚き火に投げ込んだら燃えるのかな?」という素朴な疑問を実行してみたら、焚き火は食料を作るためだけのものじゃないことを教えてくれるし、「犯罪の目撃者をワニに食べてもらおう」というアイディアに対してワニはバッチリ答えてくれます。釣りがしたいなと思い立ったら、川を進んでいるボートに岸から投げ縄を放ることで人を釣ることもできます。
もちろんストーリーはあるので、ミッション中に仲間の主要キャラクターを殺したりしたりすることはできませんが、オープンワールド部分においてはプレイヤーの工夫に答える自由を感じさせてくれます。なんと懐の広い。
 
そんなゲームのオンライン化なのに、レッドデッドオンライン、いわゆるRDOはひたすら淡白。現状のオンラインモードはオープンβなので、GTA5がそうであったように、まずは広いサンドボックスを置いておき、徐々にイベントを作って埋めていくという流れなんじゃないかと思いますが、ただでさえ広大なRDR2本編マップのなかに僅かに点在するミッションを回るという、広い宇宙で惑星巡りをするという移動メインのゲームになっていて、ナメック星に向かう途中の悟空もこんな感じで暇だったから高重力室で特訓してたんじゃないかと思うくらい。
あと、市街地怖い。現状銃弾ぶっ放して遊ぶくらいしかすることがないから、動物の毛皮とか仕入れて街に降りてきたらひっきりなしに街のどこかから銃声が聞こえてきて怖い。保安官も機能してないし、治安悪すぎてシリアかよってなる。人が近づいてくるとドキドキする。
 
もちろんオープンβなので遊べるだけありがたいレベルなのですが、しかし、現状でもRDOには一ついいところがあります。
 

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RDOのミッションはいずれも最大4人までが同時に参加する形となっていて、シナリオの結末は多数決で決定されます。
有名なのが、縄で捕らえた強盗を依頼主の要請に応じて線路の上に並べた後、強盗たちの命乞いに応じて助けるか否かという選択。もちろん「始末する」を選択すると強盗は全員列車に轢かれて死ぬし、「助ける」を選択して列車が来るまでに縄を解けば強盗たちの命は助かる。RDO式トロッコ問題。
 
決定は多数決なので、つまるところこれは「自分の意志が確実にゲームの決定に反映されない」状態となります。これは社会です。
 
「人生の生きる楽しみは何か」という問いに対しては「自分が予想もしなかった何かが起こるのを見て楽しむこと」という一つの答えがあるのですが、「自分が予想もしなかった何か」はいつだって自分じゃなくて他人が起こすので、だからこそ社会が必要だというのがあります。
逆に言えば、そこに社会があるのならば、それは楽しいに決まってるじゃないですか。
 

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他のミッションで、無法者を捕らえて警察に引き渡してほしいという依頼があるのですが、無法者からは「俺の死体を別に仕立てよう。俺は自由を、お前は大金を手にする」と取引を持ちかけられます。
ランダムマッチングの4人で構成された我々ギャングはもちろん「見逃す代わりに大金をよこせ」と全会一致で可決。こいつら気が合うな。
 

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早速無法者を馬に乗せて宝の隠し場所に案内してもらう一行。

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そして無事隠された宝を入手。無法者は助けられた礼を述べ、去っていこうとします。
じゃあな、次は捕まらないように元気でやれよ。
 
がっ……駄目っ……!!
仲間の一人がいきなり銃を取り出し発砲!無法者を射殺っ……!
取引しておきながら射殺……!
 
さらに命の抜けがらとなり地面に崩れ落ちた死体を蹴り出す始末。なんというクズ……!
そうだった、ここは無法の荒野。まぁそういう選択肢もあるよな、と思ったところ、その仲間は無法者の死体を馬に乗せ、そのまま警察署長のところに駆け出した。
 

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 なるほど。無法者から大金をせしめてから殺して警察に届けることで、無法者と警察から報酬を両取りするのか。何という悪魔の発想……!
 
これこそまさに「自分が予想もしなかった何かが起こるのを見て楽しむこと」と言えましょう。これだけでオンラインを実装された価値は十分にあった。
思えば、モバマスキャラゲーとしてではなく、単にネットゲームとしての側面で見たときにピークを迎えたのは、初のアイドルマスターの称号を得たユーザーの詐欺がバレた結果、プロデューサーみんなで彼にLIVEバトルを仕掛けたアイドルマスター討伐戦レイドバトルのときでしたし、ああいう事件という形で伝説に残すことができるのは、その善悪は抜きにして、やはりゲームシステムではなく人間そのものの機能が必要でしょう。
 
最近のゲームでネット事件簿が生まれづらくなっているのは、オンラインゲームの自由度低下との関係があるんじゃないかと思いますが、「無法者の社会」というシナリオ背景があるが故に悪人PCプレイヤーの登場が許されがちなRDOのプレイヤーの振る舞いは楽しみなところありますね。
 

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しかしRDR2はシナリオが震えるよな…。
どうしてもダッチギャングの斜陽を描くストーリーなので、後半は取り返しがつかないほどギャングの人間関係がボロボロになってしまうけど、それを踏まえて2章3章あたりを改めて見てみると、全員元気で列車強盗やったり酒場で酔っ払って暴れたりしてるときの楽しさが泣けてくる。
 
この「失われてしまうことがわかっている幸福」をリプレイするのって、ベルセルクの黄金時代を読み返してるときの感覚に近いけど、なくなってしまう悲しみがダメなんじゃなくて、悲しみあってこその幸せなんだよな。エアリスはやはり死なねばならんのだ。
 

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特にジャックを助けにダッチギャングがブレイスウェイト家に乗り込んでいくシーン最高すぎるので、そりゃあジョルノ・ジョバァーナギャングスターに憧れるようになりますわと思うなどしました。
 

ケイブがしんどい

何がしんどいかというとお金が無いです。みなさん手元のお金は十分でしょうか。お金がないというのはつらい。とてもつらい。お金というのは幸せの十分条件ではなくとも、必要条件ではありうるのでしょう。少なくともお金が減るということに頭を悩ませる必要がないというのは、とても恵まれた人生であることに違いない。
 
ともあれケイブです。かれこれ7年くらいしんどい状況が続いていますが、最後に調子の良かった平成23年度からの収支状況を並べてみると、以下のとおりとなります。いずれも5月決算で、売上高と最終損益を記載しています。
 

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平成23年度は売上30億円に当期純利益4.3億と好調。同年の決算説明資料には「前期の最終赤字から脱却し、ソーシャルアプリを中心とした事業構造への転換に成功した期。そして、新たな成長のスタートの期」と記載されており、ソーシャルを中心とした成長戦略を宣言しています。
確かに翌平成24年はあのパズドラのリリース年。そこからのソーシャルゲーム市場の拡大はみな知るところであり、市場の狙い自体に誤りはなかったとは思われますが、その選択がケイブの悪夢の始まりでした。
 
従来のSTG偏重から脱却したもののとりたててヒット作を打ち出せず、平成26年度に当社得意ジャンルであるSTGベースのソシャゲ『ドンパッチン』をリリースしたものの、世間のソシャゲが射幸心を美術的価値で煽っていく中、「誰が欲しがるんだ?」としかコメントのしようのない100円菓子のおまけみたいなロボットのキャラクターや、STGなのに敵にダメージを与えるにはキャラの性能がメインでSTG部分は攻撃を行うための作業にしか過ぎないゲームシステムや、ゲームの世界を案内してくれるロボ(いわゆる千川ちひろポジ)に全く可愛げがない等、やや狂気性すら感じる問題だらけの怪作でした。挙句の果てに「ゲーム性や世界観が独特なため継続率とLTVが低い」と決算資料で自虐しだす始末。
 
そんなわけで平成27年度決算まで売上高は毎年減少を続けていくのですが、やがて転換点が訪れます。
平成27年4月に『ゴシックは魔法乙女』をリリース。ケイブは5月決算ですので、平成28年度からフルで業績に寄与することになりました。平成27年度は『ゴ魔乙』リリース前の広告宣伝費が嵩み、当期損益は約7.2億円もの大幅な赤字となっていますが、平成28年度は『ゴ魔乙』の売上で一気に黒字転換。
 
この「先に宣伝投下してユーザー集めてあとからガッツリ回収する」というもはや伝統ともなったソシャゲのビジネスモデルですが、平成28年度まで切り取ってみれば、ここでV字回復を果たしたように見えます。ケイブの苦しかった時代も『ゴ魔乙』のヒットで終わりを迎えたのか。
 
しかし、平成29年度には『ゴ魔乙』も失速。そしてその流れが現在まで続く、というのがケイブが歩んできたこの数年の大まかな流れです。
 
いやー赤字ばかりですね。かつてのケイブは優良企業で、波はあれど基本的に2~3億円程度の営業利益を稼ぐくらいの企業、という目安がありました。「ソーシャルアプリを中心とした事業構造への転換に成功した期」という宣言から7年。もはや昔年の収益力は見る影もなく、今のところこのソシャゲレッドオーシャンにおいて完全に『負け組』となってしまった企業と言えましょう。
 
本題はここからです。
 
ほぼ7期連続で赤字基調、それも売上20億程度の規模の企業が、単年で7億円以上もの赤字を出したりしているわけです。
売上20億で現預金45億持っている日本ファルコムでもあるまいし、普通の企業であるならば、ここで一つの疑問が湧くはずです。
 
「何故お前はまだ生きてるのだ…?」
 
こういう漫画の敵役みたいなセリフ、一回は吐いてみたいですね。
 
結論から言うと、それはキャッシュフローを見て分析するのが一番です。決算の記事など見ていると「利益○億円!」のような数字が踊りますが、キャッシュフローというのは利益と同じくらい、ときには利益よりも遥かに重要な指標となります。上場企業の決算資料にはキャッシュフロー計算書がついていますので、ぜひ見てみてください。
以下、キャッシュフローを「CF」と略します。
 
簡単に説明すると、企業のCFは、企業が商売で稼ぐ「営業CF」、固定資産に投下する「投資CF」、資金調達や借入返済を現す「財務CF」の3つから構成されます。
そのうち、「営業CF」と「投資CF」を合計したものを「フリーCF」と言います。「フリーCF」を見ると、その企業にお金が足りているのか足りていないのかがすぐに理解できます。
 
例えば、事業が黒字で営業CFが1億円あるけれど、ソフトウェアの開発のために投資CFが▲5億円かかったとします。このとき、この企業のフリーCFは▲4億円となりますので、4億円銀行から借りてきて財務CFを+4億円とすると、前期からの現預金の変動が0円となります。銀行から借りて来なかったとすると、フリーCFが▲4億円で、財務CFが±0円なので、前期から現預金が4億円減少するわけですね。
なので、利益が上がっていても現金が足りなくなるということがあり得るわけです。
 
式にするとこんな感じです。
 
 前期末現預金+フリーCF+財務CF=今期末現預金
 
それを踏まえてケイブの数字を見ていくとどうでしょうか。
 

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黄色が現預金残高となりますので、ご確認ください。前期末の現預金(黄色)にフリーCF(青色)と財務CF(赤色)を足すと、今期末の現預金になる流れがわかるのではないでしょうか。黄色の現預金が0になると死にます。実際には0円になる前に資金繰りがつかなくなって支払いができなくなることはわかりますので、その時点で倒産や民事再生になるわけですが。
 
ケイブというのは、元々毎期安定した利益を計上する優良企業でしたので、平成23年度末の時点で現預金が12.3億円もあります。それが、平成24年度以降の赤字であれよあれよと減少し、平成26年度末には5.5億円にまでなります。
 
ポイントはそこからで、平成27年度以降のフリーCFを見てみると、平成27年度は▲7.2億円、平成28年度は僅かにプラスとなったものの、平成29年度は▲3.2億円、平成30年度は▲2.7億円と、本業での資金流出が続いています。
 
しかし、赤色バーが示す財務CFで、平成27年度は+4.5億円、平成28年度はほぼプラマイゼロ、平成29年度は+3.5億円、平成30年度は5.1億円と資金調達をしているからこそ、本業での資金流出が続いても現預金がプラスのまま資金繰りをつけることができています。この資金がなかったと思うとゾッとしますね。
 
キャッシュは企業の血液に例えられる事が多いのですが、ケイブの場合でいうと平成26年度末でほぼ現金が枯渇し、さらに出血は止まらないものの、外部からの輸血を続けることで何とか生きながらえているという状態です。
 
誰? 平成26年からケイブに13億円も資金出してくれたのは誰?
 
実はケイブ平成27年度以降、新株予約権による第三者割当増資をやりまくっており、平成27年度は大和証券、平成29年度も大和証券、平成30年度は株式会社フォーサイドとSAMURAI&J PARTNERS株式会社に株を買ってもらっています。
端的に言えば、商売でいくら資金流出しようが、株券刷って誰かに売りつければ資金繰りという観点からは回ってしまうわけですね。
 
こういう会社は世の中に腐るほどあって、フリーCFが足りない分、銀行から金を借りて財務CFで補えば回ってしまうので赤字でも潰れないけど、借金が膨れ上がっていっていずれどん詰まりになってしまう構造を抱えています。
事業再生スキームだと、「数年後までの出血量を見積もってファイナンスし、その猶予期間にフリーCFの出血がなくなるように事業を立て直す」というプランを立てることがありますが、そのとき、2つの問題を解決しなければなりません。
出血を止める方法を探すことと、出血が止まるまでのスポンサーを探すことです。ケイブの場合どうでしょうね。
 
つらいのが、調達した資金を広告宣伝費として既に使ってしまっている点。攻めの経営判断だったといえばそれまでなのですが、つまり、既に失敗した事業のために金は使ってしまっているので、これからの事業を立て直すための金が別途必要なことですね。ゲームを売らなければ金が入ってこないのに、ゲームを作るための金がない。服を買いに行くための服がない!
 
ならば誰か服を買いに行くための服を貸してくれないかと次なるスポンサーを探す必要があるわけですが、平成30年5月にフォーサイド社等の第三者割当増資の引受を発表した資料には「本第三者割当増資を選択した理由」としてこうあります。
 
「間接金融(銀行借入及び社債)による資金調達は、当社の事業内容が、スマートフォンネイティブゲームという多数の競合他社が存在する市場であり、開発費や広告宣伝への先行投資資金を確実に回収できるかどうか不明確な状況であることから、事実上調達が困難な状況にあります」
平たく言えば、銀行も投資家も金貸してくれる状態にないですわ、ということですね。なお、他の直接金融手法にしても、必要金額が確実に集まるか不透明なので、「確実にいくら出してくれるか」わかる第三者割当にした、という説明でした。銀行も金貸してくれないし、公募しても集まるかわかんないから、知り合いに頼んで金出してもらいましたわ、みたいな話。
 
ここでキャッシュフローの算式について思い出してみると
 
 前期末現預金+フリーCF+財務CF=今期末現預金
 
ということでしたね。フリーCFのマイナスが大きい限り、外部からの資金調達を続けなければ結局はいつかお金が足りなくなってしまいます。
助かる方法は2つ。売上を増やすかコストカットによってフリーCFの出血を止める。出血が止まらないなら輸血してくれるスポンサーを探す。このいずれかです。
 
決算時点である平成30年5月末の現預金は6.0億円ですが、平成31年第1四半期である8月末時点では3.4億円減少して残りは2.6億円となっています。あまり時間もありません。
 
まぁここでこんなことを書いても何も解決しないし仕方のないことなのですが、弾幕食べてケイブカルチャーで育ってきた自分としては、STG史で一時代を築いたケイブがしんどい感じになってるのは悲しみがあります。ケイブの場合のフェータルなダメージは、多額の広告宣伝費によるものが大きいと思われますし、もはやこの程度の規模の企業がレッドオーシャンなソシャゲ市場で広告宣伝まで自社で丸抱えして戦うのは苦しい時代に入ってきたんでしょうかね。大企業と組むか、ニッチマーケットを極小コストで狙いに行くしかないのかもしれない。ホームランを狙うにはあまりにもリスクが高くなってしまった。
 
とはいえ、輸血で生きてる状態だけど、何も終わったわけじゃない。
ケイブおじいちゃん早く良くなってこれからも長生きしてね。